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17 氷を売ろう

 キヨミズは遠くを眺めた。
 ワールドザワールドの北西にあるフジ山にのしかかるように作られた日本風の豪邸は南向きで、いつも威厳を輝かせている。キヨミズ城と呼ばれているこの建物には城主であるキヨミズと息子とその妹そしてそのほかの大量の使用人が共に暮らしている。
 キヨミズさん、あるいはキヨさん、殿などと呼ばれているここの城主は、町をコントロールする役割をおっている。城からは町が終わるまで全ての景色が一望できる。
 彼が困っていたのは、その町の市場のことだった。

 町ではカラスが氷をうる商売をしている。氷は貴重である。年に一度、キヨミズが秘密に派遣する山向こう調査団が持ち帰った冷却装置がないと冬以外に氷は手に入らない。その氷販売を任せたカラスが氷の値段を日に日にあげて、他に氷を売るものがないのをいいことに、必要以上に金儲けをしているのだ。
 カラスに直接通達しても、見かけの値段を下げるだけで、より高い金を出すものに氷を優遇し、普通の値段しか払えないものは後回しにするせいで結局氷が手に入らないという状況になる。
 そこで彼はキヨミズにアイとクァシンを呼んだ。

 正確にはクァシンだけを招いたのだが、アイがついてきた。クァシンがそれを望んだのだから仕方がないが、キヨミズは女神たちと親しいアイに苦手意識を持っていた。山向こう調査団だってワルワルの女神に見つかると何を言われるかわからない。少なくとも、外世界との関係をあまり深めたがらないワルワルの女神のやり方には納得してないのである。 

 畳が何百畳と広がる部屋の真ん中にポツンと、アイとクァシンは用意された赤青の座布団に座って待っている。やがて障子が二枚開き、ゆっくりキヨミズが歩いてくる。対面するように座った。
 使用人の少女がお茶を運んで三人の前に置き、去っていった。

「熱いお茶……」

「そうだよ、アイくん。熱いお茶は好みではない」

「うん。冷たいジュースのほうがいいかな」

「ジュースは、あるけど氷がないんだ、すまないね。クァシンくんは」

「ボクはお茶、好きですよ」

「そうか。アイくんもすまないね。けれど今回はこれで我慢してくれないかな。では、さっそく本題に入るが、君たちには町で氷を売ってもらいたい」

「氷、ないんじゃないですか?」

「私の城では使わないよう言っている。町のみんなに行き渡るようにね」

 キヨミズはアイとクァシンに、氷の価格と規格を定めて売るやり方、店の使用など、それらのことが詳しく書かれた書類を渡した。

 クァシンがそれを読むあいだキヨミズは計画について説明した。

「そして氷の適切価格が定まりそれが定着したら、キヨミズ氷店の権利を誰か町のものに譲り任せたいんだ。そういうことになるまで、もし良ければ君たちに任せたいんだが」

「なるほど」
 クァシンは書類を置いて顎に手を当てた。

「僕は何をすればいいの?」
 と文字を読まないアイは茶菓子を食べながら聞いた。
 アイの行動についてはクァシンから指示することで決まった。

 二人は仕事を請け負った。
 そしてそのまま町へ降りた。

 小ぶりで粗末な作りの店になった。下町に作ったので、周囲の喧騒に負けるし、日当たりも悪く、床なんかも掃除されないまま石の間には砂が積もった。
 機会が音を立てて氷を作る。クァシンは足の長さが不揃いでカタカタ揺れる椅子に座って、二束三文の氷を主婦や若者に売った。

 店を出すと二人の売る安い氷はとてもよく売れた。
 そしてまもなくカラスの出す高い氷は売れなくなってしまった。二週間経ってついにカラスは自信をなくし、店をたたんでしまった。

 クァシンは走り回って氷の宣伝をするアイに一旦その仕事を辞めさせ、ぬるくなったリンゴジュースを渡した。

「今度はアイにカラスの氷は質が良くって美味しかったということを広めてほしいんだ」
「口コミ作戦第二形態だね」
「うん」
「りょーかい」

 アイの体はよく動く。彼はぬるくなってトロトロのリンゴジュースを一息に飲み干すと、また走り出した。
 一方クァシンは、キヨミズに経過を伝えるため、白鳩トットの脚に手紙をくくりつけた。トットはキヨミズ城に向かって飛びたった。

 トットがクァシンの元へ戻ってきた。手紙には、質の悪い氷の作り方の作り方が書いてあった。クァシンは少しづつ質が悪くなるようにして、その氷を作った。
 次に井戸の女神に頼み事をした。カラスにもう一度店をさせるようそそのかしてもらいたいのだ。

「なんで、あたしがンなことやらなきゃなんないのよ」

 と井戸の女神は唾を吐く。
 クァシンはキヨミズから預かった白い粉の入った袋を見せた。すると、

「まあ、考えてやろう」
 と井戸の女神は袋をテーブルに置いて行くよう顎で示した。
 クァシンはそれに従った。

 三日後、カラスは店をお金持ちの多い南方に移転し再開した。その店はやがて地域の人気店となった。質が良く、さらに店の見た目も小綺麗にしたので、下町の氷は買いたくないという人が訪れるようになったのだ。

 クァシンとアイは氷店を目隠し店長に譲って、キヨミズへ向かった。

「いやあ、よくやってくれたよお二人さん。町の様子はどうだね」

「ええ」とクァシンが答える。「安い目隠し店長の氷と、高くておいしいカラスの氷、それぞれ人気です」

「それはよかった」

 彼は帳簿いっぱいに数字を書いている。
 そしてクァシンからの報告を記し終わると、二人に何か褒美として欲しいものはあるかと聞いた。
 二人はとてもよく冷えたサイダーをもらった。


にゃー