見出し画像

採用ブログの次は「社内報」をクリエイティブにしよう。今いる社員の力を引き出す「10のアイデア」

 僕は常々、このブログを通じて、これまでの編集者の枠組みを外して、新しい可能性を広げられたら・・・と考えている。最近は、採用を目的とした企業のオウンドメディアのコンテンツづくりやライターの育成に取り組んでいるが、これについても、「もっと編集者ができることがあるのではないか?」という思いが強い。

 僕ら編集者は、外から新しい人を企業に惹きつければそれだけで終わりでいいのだろうか? 編集者は採用に応募してきた人の「その後の仕事人生」にまで関わり、エンゲージメントを高めることにも貢献できないだろうか? そこで僕が思いついたのは、戦略的かつクリエイティブな「社内報」をつくることだった。

 目下、社内報に力を入れている会社は少ないかもしれないが、実は戦略とクリエイティビティ次第で、社内報は社員の仕事人生を豊かにし、会社のパフォーマンスを高める力強いツールにもなり得るのだ。

「採用」はエンプロイージャーニーの初めのステップに過ぎない

 ある人が会社に入社し、定着し、活躍し、やがて退職する――という過程は、人事用語で一般的に「エンプロイージャーニー」と呼ばれている。いわゆる「従業員の仕事人生」で、昨今は従業員目線でこれをいかに充実させ、幸せなものにするか、というのが会社のパフォーマンス向上の決め手として語られている。

 このエンプロイージャーニーはだいたい4段階から5段階に分けられることが多いが、ここでは、「採用」「オンボーディング」「エンゲージメント」「オフボーディング」の4段階に分けて、従業員の仕事人生と、それを豊かにするための会社の戦略を見てみよう。

 まず、「採用」段階では、会社はより多くの人に自社の魅力を発信し、新しい人を惹きつけることを目的にブランディングを強化する。

 そして、入社した新しい社員が会社に馴染む「オンボーディング」段階では、研修や社員交流などの機会を提供。

 さらに、従業員が企業文化に溶け込み、仕事や社員間の交流を通じて帰属意識を高める「エンゲージメント」期には、働きやすい労働環境を整えたり、さまざまなイベントで社員間の交流を促したり、社内報で企業文化やトップのビジョンを伝えたりする。

 そして最後に、「オフボーディング」で退職した従業員には、退職後のネットワーク形成やコミュニケーションの継続で、会社に対してポジティブなメッセージを発信してもらうという戦略がある。

 このエンプロイージャーニーの中で、編集者の僕が関わっているのは、実は「採用」の部分に過ぎない。会社の魅力を伝えるコンテンツを世の中に投げかけ、新しい人を連れてくることが僕の使命で、実際にその成果は出始めているのだが、採用された人たちがその後、無事に定着し、働き甲斐をもって活躍しているかどうかまでは関与していない。

 しかし、ここにも編集者は関われるのではないだろうか? 採用だけでなく、従業員のエンプロイージャーニー全体に貢献できるのではないだろうか?――僕は考えを巡らすうちに、編集者が自分のスキルを使って取り組みやすい仕事として、「戦略的かつクリエイティブな社内報をつくる」ことを思いついた。

社内報がつまらない会社はつまらない

 「社内報」と聞いて、皆さんが思い浮かべるのはどんな媒体だろうか? 定期的に発行される薄い冊子で、トップのビジョンや活躍している社員の紹介があったり、夏のバーベキュー大会の報告があったり・・・ちょっと退屈で、オールドファッションなイメージで、読まずに捨てられているケースも多いかもしれない。

 しかし、エンプロイージャーニーを充実させることが会社のパフォーマンスを上げることにつながるなら、実は従業員向けの社内報は重要な役割を持つ。社内報は従業員の帰属意識を高め、仕事人生を楽しくし、エンパワーメントするための強力なツールとなり得るのだ。

 「顧客よりも従業員」といわれる時代に、本当に戦略的にエンプロイージャーニーを強化しようと思ったら、企業は社内報に優秀なクリエイターを起用し、社内向けコンテンツに力を入れるべきだ。「社内報がつまらない会社はつまらない」という評価が、これからの世の中には定着していくのではないだろうか?

 もちろん、現代の社内報は小冊子である必要はない。オンラインの社長ブログであっても、ある種の社内報になり得るし、「社内報」と言いながらも、オンラインメディアであれば社外にもオープンになってしまうだろう。ただし、社内報で大事なのは、あくまでも社員に向けたものということで、機密情報以外は社外の目をあまり意識してはいけないと思う。

 さらに、タイミング的には今がいい。今のタイミングで社内向けコンテンツに力を入れている企業はほとんどないため、それ自体がブランディングになり得る。「社内報といえば〇〇社」ということで、それだけで有名になれる可能性だってあるだろう。後続する企業がこぞって、その会社の社内報を参考にするようにもなるかもしれない。何でも第一波に乗って始めることが、先行者利益につながるのだ。

社員の仕事人生を豊かにする、社内報アイデア10選

 それでは、具体的にエンプロイージャーニーを豊かにする社内報のコンテンツには、どんなものが考えられるだろうか?

 「採用」に関しては、「社外向け」のコンテンツになるので、今回は「社内向け」コンテンツということで、採用後の「オンボーディング」「エンゲージント」「オフボーディング」の段階に分けて、10のアイデアをまとめてみた。

1. オンボーディング

新入社員紹介:転職してくる人は、人生をかけて入社してきたりするが、受け入れる側は日常茶飯事のことなので、両者の感情の間には往々にして温度差が生じることがある。新入社員の考えていることや人生観などを伝えてあげることで、既存社員のテンションを高め、新入社員の受け入れを盛り上げられるのではないだろうか。
海外転勤・転籍のレポート:同じ会社内で海外に転勤・転籍した人がどのように現地に馴染んだか、どのように仕事や生活をしているかをレポート。一般論ではなく、実際に同じ会社に勤める仲間の話なので、社員はより切実な思いで読める内容になる。また、例えば海外に出たいと考えている人には、「社内にこんなキャリアパスがあるんだ」ということを知る機会にもなる。
社会的マイノリティの悩み:女性、LGBT、外国人・・・さまざまな社会的マイノリティの悩みと、その解決法を紹介。社内の「普通」の定義を拡張して、多様な人材を受け入れる基盤と、働きやすい環境をつくる。

2. エンゲージメント

新規プロジェクトのメンバー募集:新しいアイデアを形にしたい時の、社内メンバー探し。大企業などで部署やオフィスが違うと、どこに誰がいるのか分からないケースが多いが、社内でプロジェクトに貢献できる人がいるはずだ。社内の他の優秀な人の存在を知るためのツールにもなる。
同じ職能同士で悩みを共有:社内でも離れた部署のグループのマネジャーなどが、同じような悩みに対してどのように解決したかを共有する。離れたグループだと利害関係が少なく、ちょっとした「社外交流」みたいに率直なフィードバックが期待できる。これにより社内のネットワークが強まり、従業員のエンゲージメントが高まることにつながると思う。
副業/スキル紹介:社員の副業やスキルを紹介。隣の部署のあの社員が、実は中国に留学経験があったり、前々職でシステムエンジニアをやっていたり、実はデザイン学校の卒業生だったり・・・ということは、意外と知られていないものだ。こうした副業紹介が、新たなプロジェクトの立ち上げにもつながるかもしれない。
社員が発する社内の課題:解決策までは分からないが、社員がモヤモヤと考えていることを同僚、上司、経営層に投げかける。上からのビジョンを伝えるだけでなく、下からも伝えたいことがあるはずだ。また、編集部だけが頑張るのではなく、全社員が声を発することができるメディアにする。社内で情報発信に慣れた後は、社外の情報発信にも活躍してもらえるだろう。
社内フリマ:ある部署で余っているパソコン、子供の古着や玩具、読み終わった書籍・・・など不要な物品をリサイクル活用。社内のサステイナビリティを促進する。社員の奥さんの弁当ケータリングサービスや副業の宣伝の場であってもいい。こうなると、社内には小さな経済圏ができ、小さな地域社会のようにもなりうる。昔の社員寮はそうした場だったのかもしれない。

3. オフボーディング

退職者のその後:会社を退職した人の「その後」を伝える。新たなキャリアパスを知る機会にもなるし、彼らに仕事を依頼することにつながるかもしれない。退職者はその会社に精通しているため、いろいろなことを相談しやすかったり、一緒にプロジェクトを進めやすかったりもするだろう。また、「会社を辞めたら裏切り者」というような価値観ではなく、会社と退職者の垣根が溶けて、一つのコミュニティのようになれれば理想的。「この会社は退職しても変なあつかいを受けない」ということになれば、現役の人もより安心して組織に没入し、逆にエンゲージメントが高まる可能性がある。
人生相談:社内の相談お目付け役のような人が、若い社員の人生相談に乗る。長老の着眼点に20代の若手社員がグッときたり、相談に乗る方も教育欲が満たされたり・・・社内のネットワークは年齢を超えて強まることだろう。

 ここに挙げたアイデアは、分かりやすくエンプロイージャーニーの3段階に分類したが、もちろん項目によってはオンボーディングとエンゲージメントや、エンゲージメントとオフボーディングなど、複数の段階に関連するコンテンツもある。また、ここでは載せきれなかったが、「顧客からの声」「社内セミナー報告」など、まだまだアイデアはたくさんある。

 大切なのは、社内報を通じて社員に活躍してもらうということだ。それを意識してつくる社内報は、ただただ「面白くしたい」と思ってつくるものとはコンテンツも違うし、文章の伝わり方も変わってくる。

 たかが社内報、されど社内報。コミュニティであり、経済圏であり、モチベーションの場でもある社内報は、社員の仕事人生を豊かにする、可能性に満ちた媒体なのである。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

読んでいただき、ありがとうございました。みなさまからのサポートが、海外で編集者として挑戦を続ける、大きな励みになります。