日本力 (松岡正剛/エバレット・ブラウン)
エバレット・ブラウン氏の「日本力」
変わった体裁の本です。
1988年から日本に住んでいるフォト・ジャーナリストのエバレット・ブラウン氏と、編集工学の提唱者松岡正剛氏との対話が中心ですが、それぞれの章のイントロとして、「日本力」を感じさせるブラウン氏の写真、松岡氏の過去の著作からの引用が採録されています。
「○○力」というフレーズはちょっと前に流行りましたが、まず巻頭で松岡氏は「日本力」をこう定義しています。
本書を読んで素直に驚くのはブラウン氏の多彩な学識です。それは専門教育で学んだことがらもあれば、自らの体験から得たものもあります。そして、そういった思考の礎から語られることばが当を得ていて秀逸なのです。
たとえば、「日本の教育」について自らの子供の例をとらえてこう語ります。
コミュニケーションについては、「話す」という単語からコンセプトを抽出しそれを増幅させます。
このあたりの言い回しは、松岡氏が発した言葉かと紛うばかりです。
さらに、「日本の農民」の姿に発する「ローカリティ」の考察。
日本在住が20年を越えるとはいえ、こういう日本の歴史や風俗まで視野に入れた分析と表現をなしうるというのは素晴らしいですね。我が身を省みて恥ずかしくなります。
松岡正剛氏の「日本力」
松岡氏の本は、ここ1~2年でも「17歳のための世界と日本の見方」「日本という方法」「脳と日本人」「白川静 漢字の世界観」「多読術」等々を手にとっていますが、今回の「日本力」は、松岡氏の著作の中でも比較的読みやすいものだと思います。エバット・ブラウン氏とのベクトルを一にした対談が基軸になっていることがその大きな理由でしょう。
とはいえ、松岡氏の従来からの主張もあちらこちらに見られますし、その独特の言い回しも健在です。
たとえば、「西の文化」と「東の文化」をその始原から対比させた解説は、その典型例だと思います。
また、「日本の職人」の章での「未完成」の価値を語ったくだりも面白いものです。
職人の感性の堆積が、文化の厚みとなって人の営みの中に通底していくのだと思います。
松岡氏の著作を読んで、私自身とても勉強になるのが、「物の見方」です。
古今東西、重層的な知識を礎に、独自の「視座」から大きく投網をかけたような「視野」で対象をとらえ、そこから新たな「コンセプト」を紡ぎ出す方法は、私にとっての高い目標です。
伝統的なものを失うことは「蓄積された時間を失う」ことだ、取り返しのつかないことだ、というメッセージは、まさに正鵠を得たものだと思います。
さて、最後に、松岡氏・ブラウン氏お二人から「今の日本人への提言」です。
これは、まさに「アイデンティティの礎」になるものです。広く日本を見渡して、過去からの歴史を振り返って、謙虚に自分の立ち位置を認識する営みは、言うまでもなくとても大切なことです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?