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ラジオ深夜便 うたう生物学 (本川 達雄)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。

 本川達雄さんの著作は、以前も「ゾウの時間ネズミの時間」「生物多様性」 などを読んだことがあります。親しみやすい語り口で紹介される生物の世界はとても興味深いですね。

 本書は、NHK「ラジオ深夜便」の人気コーナーを書籍化したものとのこと。「生物」をテーマにしたバラエティに富んだエッセイという体で、こういったネタが紹介されています。

 まずは、私たち「恒温動物」について解説している章から。

(p166より引用) 体温が高ければ、化学反応が速く進むから、何でも素早くできる。素早く情報を集め、素早く判断し、素早く駆けていって、のそのそしている変温動物を捕まえることができます。これは大きな利点です。
 恒温動物とは体温の高い動物、つまり「高温動物」でもあり、それは時間の早い「高速動物」でもあるんです。・・・
 気温変化の激しい地上に棲みながらもこの利点を得るために、莫大なエネルギーを使っているのがわれわれ恒温動物なのです。

 エネルギーの大量消費癖は、“恒温動物” たる人間の持って生まれた性質なのですね。

 現代人は、このように、エネルギーを大量消費して高密度空間で高速生活をおくるようになりました。そして、新型コロナ禍。本川さんは今をこう捉えています。

(p242より引用) 今後ウィズコロナで生きて行かなければならないと言われています。コロナがあっても問題にならない空間の広さと時間の早さとを備えた社会、そしてそれに基づく生き方・価値観に変えていくべき時が来たのですね。
 巣ごもり生活の時間は、これまであちらこちらとせわしなく駆け回っていた生活の時間とは大いに異なります。確かに不便・不自由なのですが、それをかこつだけではなく、あまりに自由に何でもすぐにできてしまう時間を批判的に見直す良い機会なのだと、肯定的に捉えようと僕は思っていますね。

 さて、本書を読み通して、そのほかに興味を惹いたところをもうひとつ。

 本川さんお得意の “時間” をテーマにした項「子供の時間 老人の時間」ではこんな話をされています。

(p93-94より引用) 幸い寿命が大きく延びました。延びた部分はビジネスとはもう関係ない部分です。「人間五十年」の時代にはなかった部分であり、人生にいわば「おまけ」の時間が付いたんですね。・・・それに対しておまけの部分は、奴隷奉公の年季の明けた部分。そしてここは医療という技術が作りだしたもの、まさに人類の叡智の結晶の時間です。だからもっと自由にそれまでとは違った価値観で大いに楽しもうではありませんか。

 私もいい歳、易きに流れるタイプなので、こういった指摘は自分に都合よく解釈してしまうんですね。
 ただ、ともかく全く趣味をもたない私なので、これから何か “楽しみ” を見つけるのにも、あくせくとエネルギーを費やさなくてはならないようです。




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