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誰も「戦後」を覚えていない 昭和30年代篇 (鴨下 信一)

 以前読んだ半藤一利氏による「日本史はこんなに面白い」の中で紹介されていたので読んでみました。

 本書は、シリーズとして現在3冊出版されていますが、まず最も自分と時代的に近い「昭和30年代篇」を選んでみました。
 とはいえ、私も昭和30年代生まれというだけで、本書で書かれている事件やエピソードについて実際の記憶はありません。が、なんとなくおぼろげながらの皮膚感覚として理解できる感じはしますね。

 たとえば、60年安保のころ(ちなみに私は生まれたばかりです)の空気です。

(p36より引用) 戦後10年、やっと手に入れたこの小さな幸せが、戦争放棄・再軍備放棄から得たものだということを日本人はよく知っていた、・・・その幸せは手放せない。
 何よりこれが60年反安保闘争の〔気分〕だった。

 また、当時の出版界・文芸について。
 ここでは著者は松本清張氏山田風太郎氏をとり上げます。

(p69より引用) 〈運のない〉主人公たちの運のなさは、実は俳壇や学会の閉鎖性が彼らを圧殺したのだ、とわかってくる。問題は彼らの属した、あるいは属そうと欲した、組織のほうにあるのだ。
 清張の人気の源泉は、読者にこうした〈ものの見方〉を教えてくれたところにあった、といまつくづく思う。小説の持つ教育的効果を、文芸批評はたいていひどく軽視したがるが、すくなくともこの時代、小説はそれだけの力量を持っていた・・・

 松本清張氏の小説は、以前「張り込み」「点と線」「ゼロの焦点」等々、ある程度集中して読んだことがあります。著者は、「社会派」と冠される氏の作品の意味づけが、一般の人々への社会矛盾の感化であったと指摘しています。

 そのほか、本書を読んで印象に残ったのは、「戦後史」についての著者の定義です。

(p169より引用) ぼくは〔戦後史とは何か〕と言われたらば、それは-
 一様な〈日本人〉という大集団が、〈小集団〉に分解し、さらに細かい集団に、そしてついに〈個人〉のレベルに至る経過
 こう答えたい。

 最後にもうひとつ。本書の目次に載っている「建設直後の東京タワーの写真」も印象的でした。
 手前にあるのは増上寺でしょうか。いかにも唐突な合成写真のような違和感が面白いです。


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