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かもめ (チェーホフ)

 偏食気味で良くないのですが、そもそも文学系の本を読むことは少ないですね。
 特に戯曲は、シェークスピアを除いてほとんど読んだことがありません。ここ1・2年ぐらいでは、アイスキュロスの「アガメムノーン」泉鏡花の「夜叉ヶ池・天守物語」ぐらいです。ということで、恥ずかしながらチェーホフは初めてになります。

 この「かもめ」、後の「ワーニャ伯父さん」「三人姉妹」「桜の園」とともに四大戯曲と呼ばれたチェーホフの代表作のひとつです。
 短い作品ですが、本書のタイトル「かもめ」が登場するシーンを中心に印象に残ったところをいくつか書き留めておきます。

 まずは、自作の演劇を母親であり女優のアルカージナに酷評されたトレープレフが、猟銃で撃ち落した「かもめ」を持って領主の娘ニーナの前に登場するシーン。

(p63より引用) トレープレフ、ニーナの足もとにかもめを置く。・・・
トレープレフ ぼくは今日このかもめを撃ち殺すような卑劣なまねをした。君の足もとに置いていきます。
ニーナ どうなさったの?(かもめを手にとって、しげしげと眺め入る)
トレープレフ (間をおいて)やがてぼくもこういうふうに自分を撃ち殺すんだ。
ニーナ あなた、すっかり変わったわ。
トレープレフ そう、君が心変わりしてからね。

 そこに小説家トリゴーリンがやってきます。トレープレフが去り、ニーナにトリゴーリンは話しかけます。ニーナが持っているかもめに目を留めたトリゴーリンは、自分の手帳になにやら書き付けます。

(p75より引用) ・・・ちょっとした短編の題材です。ある湖の岸に、あなたのような若い娘が子供のころから暮らしている。かもめのように湖が好きで、仕合せで、かもめのように自由だった。ところが、そこにたまたま男がやってきて、彼女を見そめ、退屈まぎれにその娘を破滅させる。このかもめのように。

 そして、後日、トリゴーリンとニーナの別れのシーン。

(p82より引用) トリゴーリン ええ、思い出しますよ、忘れるものですか、あの晴れた日のあなたのことをね。おぼえておいでですか、一週間前、あなたは明るい色のドレスを着てらした・・・。二人でお話ししましたね・・・それにあのとき、ベンチには白いかもめが置いてあった。
ニーナ (物思いに沈んで)そう、かもめが・・・。

 ストーリーの詳しい顛末には触れませんが、トリゴーニンの書き付けた短編の着想どおりに物語は進みます。

 終幕近く、トレープレフとニーナの台詞の交換、ニーナは「私は、かもめ・・・」と何度もつぶやくのです。ニーナは忍耐に目覚め、トレープレフは絶望の淵へ。再び多くの人物が登場して一気に結末のシーンへと向かいます。



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