ジョブ型雇用社会とは何か : 正社員体制の矛盾と転機 (濱口 桂一郎)
(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)
いつも利用している図書館の新着書の棚で目に付いた本です。
「ジョブ型雇用」は、新型コロナ禍対策のひとつであるリモートワークの進展に伴い、日本企業においても導入が加速されつつありますが、私としてもその概要程度は頭に入れておこうと手に取ってみました。
著者の濱口桂一郎さんは労働法・社会政策の専門家です。
その立場からの、昨今の関係論評等で跋扈している「似ても似つかぬジョブ型論」への反駁が楽しみでした。
まず著者が挙げるのが「ジョブ型」と「成果主義」との関係です。
ジョブ型は成果主義とセットではないのです。この点の誤りは、確かによく見られますね。
そしてもうひとつ、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」との評価の変遷。
こういったことを最初に押さえたうえで、著者は、雇用形態に関するさまざまな観点からの議論を展開していくのですが、それらの解説の中で、私の興味を惹いたところをいくつか順不同に書き留めておきます。
まず、労働政策と教育政策との関係について。
1973年石油ショック以降、企業内部での雇用維持を最優先とする方向に労働政策が変換されました。それに対応し、企業内教育訓練が重視されるようになったのですが、そういった変化が学校教育へ及ぼした影響を指摘したくだりです。
医学部等一部の学問領域以外の大学での教育内容と卒業後の職業との関連性が著しく低いという日本社会の特殊性もあり、“教育改革” により解決すべき課題の本質は確たるものとなり得ませんでした。目標が不明確だと適切な手段も検討できません。
そういった結果が招いた大きな弊害が、ここ数年来の教育政策のダッチロール状況だったということでしょう。
次に、数年前に流行した「日本型成果主義」の本質について。
このあたりの著者の現状認識と評価は、現場感覚からも正鵠を得たものだと思います。
そして、著者は、成果測定の物差しを「ジョブの明確化」に焼き直して再チャレンジしているのが今日の「日本版ジョブ型雇用」ブームだと解釈しているのです。
さて、本書を読んでの感想です。
こうやって諸外国との比較や過去からの経緯等を整理した解説を辿ってみると、現下の「ジョブ型雇用」をめぐる議論は、いかにも日本的な “空気感(≒一種の同調圧力)” の中でなされているのだと改めて認識させられます。
「ジョブ型雇用」といっても欧米各国でもその具体的内容は異なるのですから、短絡的に(たとえば)アメリカ型を請け売り導入するのではなく、ともかくこの際しっかりと「日本型ジョブ型雇用」の仕組みを組み立てることが大切だと思います。
それは、企業や教育の在り様の変革にも踏み込むものになりますが、そこまでスコープに入れないと、結局は “パッチワーク的” な自己満足アクションに止まってしまうでしょう。