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ブルシット・ジョブ ― クソどうでもいい仕事の理論 (デヴィッド・グレーバー)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 このところ “仕事” に関係するような本はできるだけ読まないようにしているのですが、かなり話題になっているようなので、ひととおり目だけでも通しておこうと手に取ってみた次第です。

 “ブルシット・ジョブ” というのは「くだらない、どうでもいいような仕事」のことで、著者はこう定義しています。

(p27より引用) 最終的な実用的定義=ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。

 ひとつの「作業」という単位でブルシットなものもあれば、ひとつの「業務」の場合もあります。

(p230より引用) わたしの控えめな見積もりでは、銀行の六万人のうちの八〇%が不必要でした。かれらの仕事は一個のプログラムで完全に代行できるものであるか、そもそも特定のブルシットなプロセスを可能にするないし複製するようプログラムが設計されているがゆえに、まったく不必要なものでした。

 さらには、「会社」そのものが、「業界」自体が、ブルシットなものさえあるといいます。特に昨今の「金融ビジネス」にはその類のものが多くみられるというのは首肯できる主張でした。

(p222より引用) (融資をおこなうことで)マネーをつくりだし、それをたいてい極端に複雑な方法であちこちに動かし、取引をするたびに少しずつあがりをいただくのである。その結果、銀行職員はしばしば、金のなる木から金をむしり取るために意図的になにも教えられなかった会計事務所の職員のように、この事業自体が無意味であるという気持ちを抱いたままの状態となる。自分の所属する特殊な銀行が、いったいなんのために存在しているのか理解すらしていない銀行員は、おどろくほどの数にのぼる。

 著者は、ブルシット・ジョブを5つの類型に整理しています。

(p50より引用) 調査のなかで、わたしはブルシット・ジョブを五つに分類することが、最も有益だと考えるようになった。わたしは、これらを、取り巻き(flunkies)、脅し屋 (goons)、尻ぬぐい (duct tapers)、書類穴埋め人 (box tickers)、タスクマスター(taskmasters)と呼ぶつもりだ。

 これらのブルシット・ジョブを生み出す原因についても詳しく解説されているのですが、その中のひとつに、私がスッと理解できたコンセプトがありました。
 「インターナル・マーケティング」です。

(p249より引用) 社外へのマーケティング活動の効果的実行のためには社内全体のマーケティングに対する意識を高めることが重要であるという発想から、経営者から一般社員まで、社内の人たちにむけておこなうマーケティングのこと

 「(社内)マーケティング活動」に限らず、これに類する営みはどんな企業でも見られますね。
 いわゆる “根回し” もそのひとつです。多くの根回し自体がブルシット・ジョブであるのと同時に、必要性が低いにも関わらず根回しをされるだけの立場の人もブルシット・ジョブ(パーソン)だと言えるでしょう。

 さて、本書を読み通しての感想です。

 論考の対象が欧米の職場であることから、今、在宅勤務の進展に伴い日本でも議論されている「JOB型雇用」をベースにした労働環境の実態の紹介や解説がされているのは興味深かったですね。
 (ブルシット・ジョブといえども、何らかの「ジョブディスクリプション(職務記述書)」は準備されているんですね。その準備作業自体もブルシット・ジョブですが)

 ただ、正直、とても読みづらい本でした。翻訳によるところもあると思いますが、おそらく原文自体のせいでしょう。もっとシンプルに分かりやすく論を進めることもできたはずです。
 私自身の理解力不足に加え、欧米の様子に疎いこともあり、著者による例示や暗喩がかえって分かりにくさを助長していました。

 面白いテーマの著作だっただけにちょっと残念です。



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