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居酒屋の誕生 江戸の呑みだおれ文化 (飯野 亮一)

(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)

 何かの書評欄で目に止まって気になった本です。

 「居酒屋」をテーマに、その誕生から発展の歴史を多面的な観点から説き起こした著作でなかなかユニークですね。

 さて、居酒屋の起源は、江戸時代、「酒屋で酒を飲む(「居酒」)」ようになったのが始まりらしいのですが、現在のような「ちょっとした料理」との組み合わせで酒を提供するというスタイルは、「煮売屋」で酒を出すようになった流れによるものだそうです。

 江戸時代初期から煮売屋はその数を増やしていきましたが、「火」を使う商売だったので「火事」の原因にもなりました。そのため、度々奉行所からの町触で、夜間の営業が禁止されました。

(p51より引用) 煮売茶屋の夜間営業禁止令は、人々が夜間に外に出歩き、夜のひと時を外食の場でエンジョイすることがはじまっていたことを物語っている。酒屋での夜間の居酒も元禄時代には始まっている。

 禁止されても、その実態としては取り締まりは徹底されませんでした。民衆のニーズの高まりはどうにも抑えきれなかったようで、この夜間営業禁止令も綱吉時代には解禁されています。

 こうして居酒屋はその数を増やしていきましたが、その定着に伴い居酒屋で供される料理も多彩に変化していきます。
 煮売屋の流れで芋煮などの煮物から店先で焼いた団子や田楽・・・、そういう中で江戸末期には鍋料理を売り物にする居酒屋も登場しました。
 この鍋料理、初期は一人用の「小鍋」でした。それが、ひとつ鍋を囲んでという姿に変わっていくのですが、そのひとつのきっかけが、遊里での流行りごとだったのだそうです。

(p144より引用) 身分制社会の江戸時代は、社会のあらゆる場面で身分の上下による差別が行われていた。・・・こういった社会の中で、一つの鍋をつつき合って食べる小鍋立は画期的な食べ方だった。小鍋立は親密さを示す食べ方として、まず遊里の世界にみられるようになる。・・・大田南畝の『麓の色』(明和五年)にも、「馴染かさねて客と共に物食ひ、箸紙に客の名を書き、居続のあした土鍋のまさな事など、折にふれておかしく」とある。・・・そうした客と遊女との間で小鍋立が流行している。

 本書では、こういった居酒屋にまつわる様々な話題が、それこそ山のように紹介されています。
 目次を眺めても、

 ・江戸で飲まれていた酒
 ・居酒屋と縄暖簾
 ・多様化した居酒屋
 ・鍋物屋の出現
 ・居酒屋の営業時間
 ・居酒屋の客
 ・居酒屋で飲む酒
 ・居酒屋の酒飲み風景
 ・居酒屋のメニュー 等々

 どれもこれも興味を抱かせるものですね。

 さらに、それらのエピソードは、豊富な図版や当時の川柳などとともに解説されていくので、見ても読んでも楽しい本です。

 ちなみに、食卓や腰掛といった店内の様子も、私たちがテレビや映画の時代劇で見慣れている居酒屋風景とはかなり違っていたようです。
 本来の居酒屋の姿を知るにつけ、江戸時代の町場の息吹が鮮やかに浮かび上がってきますね。



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