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エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする (グレッグ・マキューン)

(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)

 久しぶりにこの手の本を手に取ってみました。さて、何か新しい気づきがあるでしょうか?

 著者グレッグ・マキューン氏の最初のメッセージは、「エッセンシャル思考は、より多くの仕事をこなすためのものではない」というものでした。

(p14より引用) エッセンシャル思考になるためには、3つの思い込みを克服しなくてはならない。
 「やらなくては」「どれも大事」「全部できる」-この3つのセリフが、まるで伝説の妖女のように、人を非エッセンシャル思考の罠へと巧みに誘う。

 “本質”は何かというメルクマールで物事を見、真に大事なこと(やるべきことを)自らの判断で決め「それだけに」集中して大きな成果をあげる、「より少なく、しかしより良く」というのがエッセンシャル思考のエッセンスです。

(p236より引用) エッセンシャル思考の人は、仕事を減らすことによって、より多くを生み出す。

 ポイントは「真に大事なものだけをやる」という点。この点を追求する「強烈なこだわり」が、他の類似本と一線を画す本書の特徴です。

 真に大事なことだけをやるということは、そのほかのものを切り捨てることでもあります。
 この「捨てる」というが結構難しいのです。著者は一つの章を割いて「捨てる技術」を紹介しています。

 “多数の瑣末なことを容赦なく切り捨てる”。その具体的な方法として、「断る」ことも一つですし、「止める」こともそうです。採算の合わないプロジェクトがずるずると継続されているという姿は多くの企業でも見られるものですね。
 その理由のひとつとして、著者は行動経済学の概念である「サンクコスト(埋没費用)に対する心理的バイアス」をあげています。

(p180より引用) 「サンクコストバイアス」とは、すでにお金や時間を支払ってしまったという理由だけで、損な取引に手を出しつづける心理的傾向のことだ。

 以前お金を払って買ったもの、そうではなく貰ったものですら、今持っているものを手放すということに抵抗感を感じる人は多いでしょう。御多分に洩れず、私もかなり捨てるのが下手なほうです。
 その対抗策として、著者は、心理学者トム・スタッフォードのアドバイスを紹介しています。

(p185より引用) 「どれくらいの価値があるか?」と考えるかわりに、「まだこれを持っていないとしたら、手に入れるのにいくら払うか?」と考えるのだ。
 仕事やその他の活動でも、同じテクニックが使える。たとえば思わぬチャンスが舞い込んできたとき、「このチャンスを逃したらどう感じるか?」と考えるかわりに、「もしもまだこのチャンスが手に入っていなかったら、手に入れるためにどれだけのコストを払うか?」と考えるのだ。

 この、今から始めるとしたらという「0(ゼロ)ベース」からの思考法は、P.ドラッカーが、その著書『未来への決断』の中で、
「あらゆる機関、政策、計画、活動について、使命は何か、それは今も正しいか、価値はあるか、すでに行なっていなかったとして、今始めるかを問わなければならない」
と語っているところにも見られます。

 さて、本書を読んでの感想ですが、予想以上に参考になりましたね。
 著者の主張は極めてシンプルかつ明確。その説明も、考え方のポイントを常に「エッセンシャル思考」と「非エッセンシャル思考」との比較という形で提示してくれているので、とても分かりやすいものでした。

 最後に、私が本書の記述の中で特に印象に残ったくだりを2つ、書き留めておきます。

 まず一つ目は「失敗を認める」ということの“意味づけ”です。

(p187より引用) 自分の失敗を認めたとき、初めて失敗は過去のものになる。・・・
 失敗を認めるのは恥ずかしいことではない。失敗を認めるということは、自分が以前よりも賢くなったことを意味するのだから。

 こういう「失敗」の捉え方は、とてもユニークです。このフレーズは、かなり効きましたね。

 そして、もう一つ。

(p301より引用) 非エッセンシャル思考のリーダーは仕事の振り方があいまいで、役割と責任を明確にしない。フレキシブルやアジャイルという言葉を使って正当化する人もいるが、そんなのは言葉の濫用だ。

 各々のメンバの役割が明確であってはじめて、他のメンバの役割を知ることができ、具体的に何をサポートすればいいのかが分かるというのです。
 「フレキシブル」とか「アジャイル」とか、ついつい私もしたり顔で口に出してしまいますが、この著者の鋭い指摘には “耳痛い” ところがありました。大いに反省です。



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