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日本の構造 50の統計データで読む国のかたち (橘木 俊詔)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 講談社のpodcastで紹介されていたので手に取ってみました。
 財政・教育・労働・生活・福祉といったジャンルの50項目について、その統計データを示しながら簡単な解説を加えていくという体裁でまとめられた本です。

 アマゾンの書評での評価は低いのですが、その一因は、本書に求めるものの違いによるのだと思います。
 個々の項目ごとのしっかりした分析や論述を求めることは、本書の性格上、それは過度な要求でしょう。本書は、あくまでも俯瞰的なガイドブックです。ここで概要をつかんだうえで、必要に応じて(別の方法にて)深掘りを進めていくのです。

 そういった視点でいえば、私の場合は(恥ずかしながら)「概要レベル」ですら理解していなかった現実に気づきました。情けない限りです。

 まずは、よく言われている「日本における生活保護制度」について。

(p174より引用) 日本における生活保護制度の課題は、捕捉率の低さにある。生活保護基準以下の所得しかない人のうち、何パーセントの人が実際に支給を受けているかが捕捉率であるが、多くの研究によるとそれがおよそ10~20%の低さなのである(尾藤廣喜他『生活保護「改革」ここが焦点だ!』あけび書房、2011年など)。先進諸国ではフランスが92%、イギリスが80%、アメリカが60%強であり、低いドイツでも37%である。

 ここまで低い理由は様々あるようですが、必要な対象者への制度利用の促進が図れないようであれば、(著者も指摘しているように)いたずらに当該制度の適用にこだわるのではなく、同様の効果のある他の社会保障制度の適用拡大も検討すべきでしょう。「必要な人に必要な支援を」というのが生活保護制度の本質的な目的なのですから。

 もうひとつ、OECD諸国間の「相対的貧困率」の比較。

(p191より引用) 加盟諸国の中で日本は7番目に高い貧困率なので、そう深刻ではないと思われるかもしれないが、上位にいる、トルコ、メキシコ、チリなどはまだ中進国とみなすので、ここでは比較の対象としない方がよい。ついでながら発展途上国はもっと貧困率は高く、南アフリカは26.6%、コスタリカは20.4 %、ブラジルは20.0%で、生活困窮者の数はとても多い。
 むしろ日本が比較の対象とすべき国は、G7を中心にした先進主要国であり、そのグループの中ではアメリカについで第2位の貧困率の高さである。日本は貧困大国と称しても過言ではない。ついでながらG7の中ではフランスがもっとも低く8%、先進国の中では北欧諸国が6~7%の低い貧困率となっている。

 この現実は結構ショッキングですね。ここまで日本の貧困(格差)が進んでいたとは思いませんでした。

 さて、改めて数々の気づきを与えてくれた本書ですが、ひとつ、読んでいて気になった点がありました。

 「統計データ」をもとに解説しているというのが「売り」の割には、肝心の統計データの「定義」が明確に書かれていないのです。
 たとえば「開業率」「閉業率」「高齢化率」・・・、分子・分母は何なのか? 数値処理の基本が蔑ろにされているのはマズイでしょう。
 併せて、グラフの(縦)軸の項目の説明(説明)がないものが多く見られましたし、せっかくグラフ化していてもかえって見にくくなっているものも散見されました。

 そのあたり、最終的な「仕上げ」のレベルはとても雑で、読者に対しても不親切な印象を受けました。
 本書が狙ったコンセプト自体は悪くないのですから、残念です。



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