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ニーチェ『ツァラトゥストラ』 (西 研)

 NHKテレビで放送された「100分de名著」のテキストです。
 講師は西研氏。西氏の著作は以前も「ヘーゲル・大人のなりかた」や苅谷剛彦氏との共著の「考えあう技術」等を読んだことがあります。

 今回は、以前から興味があった「ニーチェ」の解説ということで手にとってみました。100ページ程度のブックレットなので内容は超概論です。が、それでも私レベルには勉強になります。

 題材は、ニーチェの代表的著作の「ツァラトゥストラ」
 西氏によるとその主要なテーマは「超人」「永遠回帰」のふたつだと言います。

 ニーチェが語った最も有名なフレーズのひとつは、「神は死んだ」ですね。「超人(Übermensch)」とは、神を否定したニーチェが示した「神に代わる新たな人類の目標」です。

 もうひとつの「永遠回帰」、こちらは、人生のあらゆるものが永遠にそっくりそのまま戻ってくることです。

(p80より引用) 「われわれの魂がたった一回だけでも、絃のごとく幸福のあまりふるえて響きをたてたなら、このただ一つの生起を引き起こすためには、全永遠が必要であった」(『力への意志』§1032)。すなわち、たった一度でもほんとうに魂がふるえたことがあるなら、その人生は生きるに値するだろう。悲しみ、苦しみをひきつれて「よしもう一度この人生を」といいうるだろう、と。

 この「永遠回帰」を受け入れることができるか、悲しみや苦しみも含めて、無限に同じ人生を繰り返すことに耐えられる人は稀でしょう。それを受け入れることができる人が、ニーチェのいう「超人」になりうるというのです。

 本書では、この二つの概念を中心にして、固定的な真理や価値の喪失である「ニヒリズム」、「うらみ・ねたみ・そねみ」といった感情を意味する「ルサンチマン(無力からする意志の歯ぎしり)」、価値判断の方法としての「貴族的価値評価法」「僧侶的価値評価法」等々のコンセプトをごく簡単に説明してくれています。

 こういったニーチェの「ツァラトゥストラ」の解説以外にも、私の興味を惹いた哲学の基礎としての指摘もありました。

 たとえば、ショーペンハウアーやニーチェが批判・反駁した「ヘーゲル」の哲学について。

(p14より引用) ヘーゲルの哲学を一言でいうと、「人類の歴史は、自由がしだいに実現されていく歴史である」というものです。近代になると、神様の教えにひたすら従う生き方に代わって、自分で判断して自分の意志で生きようとする人間が生まれてくる。つまり人類の歩みとは、無方向、無目的ではなく、「自由を自覚した個人」が生まれ、それに対応して、社会制度においても人権が認められ議会制が成立していく。ヘーゲルはこう説いたのです。

 こういうヘーゲルの思想は、当時の世相に苦しむ人々を勇気づけるものでした。

 さて、本書の冒頭、西氏は「ツァラトゥストラ」を評して、

(p5より引用) 「私たちはどうやって生きていけばよいのか」という問いについて、これほどまっすぐに記した哲学書はほとんどない

と語っています。そして、その問いに対するニーチェの答えを一言でいえばこうだと説いています。

(p7より引用) 「固定的な真理や価値はいらない。君自身が価値を創造していかなくちゃいけない

 ニーチェの哲学は決して虚無的なものではなく、大いに創造的な思想なのです。
 ということで、いつかは「ツァラトゥストラ」を読んでみようと関心が高まってきました。とはいえ、実行はいつになりますか・・・。



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