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進化とは何か :ドーキンス博士の特別講義 (リチャード・ドーキンス)

(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)

 新聞の書評で紹介されていたのですが、最近ちょっと「生物の進化」に興味をもっているので手に取ってみた本です。

 著者のリチャード・ドーキンス博士は「The Selfish Gene(『利己的な遺伝子』)」という著作でも有名なイギリスの進化生物学者です。

 本書は、そのドーキンス博士が、1991年、英国王立研究所が子供たちのために開催しているクリスマス・レクチャーとして行った講演を再現したものとのこと。
 クリスマス・レクチャーを書き起こした本といえば、あのマイケル・ファラデーの「ロウソクの科学」がそうですね。本書も「ロウソクの科学」と同じく、初心者向けの丁寧な語り口で、興味深いテーマへの関心を引き起こしてくれます。

 ドーキンス博士の立ち位置は、“ダーウィンの進化論”をその立論の礎としているようです。
 「進化」は遺伝による再生産によって生まれます。そして、誰もが知っているとおり遺伝情報は細胞内のDNAの中に書き込まれています。

(p102より引用) DNAの川は私たちを通って、同じ姿のまま未来に向かって流れていく。
 唯一の例外は、時折、本当にたまに、突然変異と呼ばれるランダムな変化が起こることです。この変異のせいで、群れの中に遺伝的変化が生まれ、バリエーションができることで、「自然選択」の余地が出でくる。よい眼や強い足や、その他生存に有利になるような変化を体にもたらし、より優れた祖先を作るようなDNAが生き残っていく。

 この「DNAが生き残っていく」という「遺伝子中心」の考え方がドーキンス博士の視点の基本であり、それを自らの著作の中で、「生物は遺伝子によって利用される"乗り物"に過ぎない」という非常に刺激的な言葉で表わしたのです。

 そういう尖った言い回しがドーキンス博士の真骨頂のようですが、進化の説明はダーウィンの考えをオーソドックスに踏襲したものでした。

(p129より引用) 「進化」は・・・シンプルでありながら絶大に効果的な「幸運を積み重ねる」というやり方を、地質学的な長大な時間軸上に引き伸ばすことによって、非常に確率の低いことも可能にしているのです。

 さて、本書を読み通しての感想ですが、読む前に思っていた内容とちょっと乖離がありましたね。
 「進化とは何か」というタイトルで、かつ子供向けレクチャーの書き起こしとのことだったので、「進化論」についての幅広い概要、たとえば進化論の本質とか科学史の中での進化論の位置づけとかについてもっと解説されているのかと思っていたのですが・・・。

 そういえば、原書のタイトルは「Growing up in the Universe」でした。

(p14より引用) 1991年、私もクリスマス・レクチャーに講師として呼ばれました。その際「宇宙で成長する」という題にした。「成長する」というのは三つの意味を込めて使っています。われわれ自身が一生の中で成長していくという意味と、生命が進化という過程を経て成長していくということ、そして人間がそれ(進化や宇宙)に対する理解を深めていくという意味です。

と、ドーキンス博士は「まえがき」ではっきりと断っています。

 そもそも本書は、私が勝手に思い込んでしまったような「進化論の概説書」ではなかったわけです。
 翻訳書の場合、しばしば日本語のタイトルに戸惑うことがありますね。



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