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信頼できる会社、信頼できない会社 (駒橋 恵子・関沢 英彦)

 近年とみに顕在化している企業の不祥事をひとつの材料にして、企業における「コミュニケーション戦略」の重要性を説いた概説書です。

 著者の言う「コミュニケーション戦略」とは、「企業が市場で競争優位性を築くために、ステークホルダーと双方向の情報受発信を行って信頼を築くこと」をいいます。

(p5より引用) あくまでも企業理念を主軸におき、社内外のステークホルダーの感情に配意しながら、企業の方向性を定め、ステークホルダーの日常的な意思決定に寄与するのが「コミュニケーション戦略」である。社内外で情報を共有し、透明性の高い経営を行うことによって、全社員の志気を向上させ、社会的評価と市場競争力を高めていく。それこそが経営課題としての「コミュニケーション戦略」なのである。

 「コミュニケーション戦略」の実践が、多様なステークホルダーからの信頼を醸成し、それが企業の持続的経営に寄与するとの主張です。

(p110より引用) 企業の持続的経営には、ステークホルダーからの信頼が欠かせない。まずは理念や規範を明文化して、それを全社員が共有することで、価値創造のスパイラルを高めるべきなのである。

 企業コミュニケーションが重要視される背景となっているCSRやコンプライアンスという基本事項についても、多くの規定・報告書の内容を引き、歴史的背景も踏まえた丁寧な説明がなされています。
 また、コミュニケーション戦略を推進していくための各論として、「消費者」「投資家・株主」「従業員」といった主要ステークホルダーに対する対応も網羅的に示されています。

 本書は、著者があとがきにも記しているように、当初、「企業コミュニケーション」を専攻する学生に対する授業テキストとして企画されたものです。
 数多くの企業の実例を盛り込んでいるのも、学生に対してリアルな企業現場を紹介しようという意図の表れでし、各章の導入部に挿入された「甘口製菓」を舞台にしたショートストーリーも、本書の分りやすさに寄与しています。

 最後に、巻末に紹介されている「コミュニケーション戦略に向けての必須10か条」を覚えに記しておきます。

第一条 トップ経営者にオープンマインドがあること
第二条 トップ経営者にリーダーシップと品格があること
第三条 企業に社会の変化を取り込む勇気があること
第四条 社員のミスを業務改善のヒントと考えること
第五条 ステークホルダーの苦言を素直に聞くこと
第六条 自由闊達で社員が相互に相手の仕事を認め合える組織風土であること
第七条 外部評価を素直に喜べる組織風土であること
第八条 「根回し」の必要がなく、社内の会議で参加者が意見を言えること
第九条 社員が視野を広げる努力をするのを支援する気運があること
第十条 透明性の高い経営を志向して隠し事がないこと

 すべての項目はとても重要なポイントですが、コミュニケーション戦略に限ったものではなく、企業(組織)として必す具備すべき必達条件ですね。


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