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「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ (鈴木 博毅)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 私の場合、同じ本を何度も読み直すことはまずしないのですが、「失敗の本質」はその数少ない例外です。

 本書は、ストレートにその「失敗の本質」の入門版と銘打っているので、どんな内容なのかちょっと気になって読んでみました。

 結論からいうと、原書の要約版というより、「失敗の本質」的観点からの「ビジネス書入門」といった感じでした。「失敗の本質」で指摘されている日本軍の組織・行動面での課題・弱点を現代ビジネスに敷衍して著者なりの示唆を加えています。

 たとえば、よく言われている「成功体験」の罠について。

(p57より引用) 日本軍ならびに日本企業が歴史上証明してきたことは、必ずしも戦略が先になくとも勝利することができ、ビジネスにおいても成功することができるという驚くべき事実です。・・・戦略の定義という意味での論理が先にあるのではなく、体験的学習による察知で「成功する戦略(新指標)を発見している」構造だからでしょう。
 ただ、この「経験則による成功法則」は、結果的には過去の成功事例の教条主義に陥ってしまいます。相手が変わり環境が変わっても相変わらず同じ思考・行動をとり続ける、その結末は明らかです。

(p59より引用) 「体験的学習」で一時的に勝利しても、成功要因を把握できないと、長期的には必ず敗北する。指標を理解していない勝利は継続できない。

 米軍は、日本軍の常套戦術である「白兵銃剣主義」「艦隊決戦主義」が機能する「局地的決戦戦争」による決着から「総力持久戦」へと戦いの土俵自体を変えていきました。「基本戦略の転換」です。

(p90より引用) 既存の枠組みを超えて「達人の努力を無効にする」革新型の組織は、「人」「技術」「技術の運用」の三つの創造的破壊により、ゲームのルールを根底から変えてしまう。

 これは「変化に対応して自らも変わる」、さらには「所与の条件自体を変える」という能動的な営みです。
 この姿勢は、守旧的組織と比較した場合、組織としての「学習プロセス」の差としても現れます。

(p97より引用) 『失敗の本質』で紹介されていた、「目標と問題構造を所与ないし一定とした」上で最適解を選び出す学習プロセスを、「シングル・ループ学習」といいます。
 「シングル・ループ学習」は、目標や問題の基本構造が、自らの想定とは違っている、という疑問を持たない学習スタイルです。・・・
 「ダブル・ループ学習」とは、「想定した目標と問題自体が違っている」のではないか、という疑問・検討を含めた学習スタイルを指します。

 この「違っているのではないか」という「疑問」を持つ主なきっかけは、「現場からのフィードバック」です。
 現場での気づきを組織としての学習のインプットにする、そして、そこから新たな改善アクションを生み出していく・・・、この仕掛けを定型プロセスとして組織内に固定化することができるか否かが、変化を前提とした競争環境下での勝敗を左右する決定的なポイントになります。

(p192より引用) 愚かなリーダーは「自分が認識できる限界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは、組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用する。

 現場からのフィードバック情報は、自己の、そして組織としての認識範囲を拡大するものですね。
 上司への説明・説得は、ある面では、上司の認識範囲の拡大を求める行動でもあります。上司たる者、自己の認識範囲が広がることを自らの成長と考え、大いなる喜びとしたいものです。

 さて、本書ですが、冒頭にも書いたように、「失敗の本質」の要約版ではありません。原書自体「要約」してしまうと、その充実した検証内容の価値は無に帰してしまいます。
 その点では、本書が要約版でなかったのは幸いというべきでしょう。



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