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インドでソロキャンプ!〜前編〜【インド#24】

ホーリーの祭りの混乱からどうにか避難するための場所を探していた時、リシケシュの山の方にキャンプ場があるのをGoogleマップで偶然見つけた。


山の中の綺麗な滝の近くにある宿兼キャンプ場みたいな場所で、テントはそこに置いてあるので、手ぶらで行っても宿泊できるスタイルの宿だった。
現地にテントがあるなら、シルクのシーツもブランケットも持っているから、身軽にキャンプできるなと思って、「女1人だけどテントで泊まりたいのですが…」というメッセージをその宿に送ることにした。

インドで女1人でキャンプをするということは、私がいつもしている日本でのソロキャンプとは訳が違う。
なので、いつものソロキャンプのように勢いで決めずに、慎重に判断したかった。
身の危険はないか、道中のリスクやセキュリティ面などを、Google翻訳を使って事細かに質問したら、そこのオーナーのデパンシュという男性が、どの質問に対しても、ものすごく丁寧に優しく返事をくれ、心配事を一つ一つ解消してくれた。
「食事提供もできると書いてますが、私は辛いものが苦手で、辛くないメニューを作ってもらえますか?」「自炊はできますか?」「野菜は玉ねぎやじゃがいもはありますか?値段は?」など、我ながらかなり細かくしつこく聞いたら、どれも、「大丈夫、対応するよ」という返事。
「玉ねぎとじゃがいもは敷地内の畑でオーガニックで作ったものをタダであげるよ」「キッチンは自由に使っていいけど肉の調理はできないから、そこは分かってね」などなど。
さすがヘルスコンシャスな地域。
そして、「ホーリーの祭りの日に何かイベントのようなものはありますか?」とこちらの意図としては、そんなイベントはありませんようにと願いながら聞くと、「楽しいホーリーのイベントを用意してるし、色粉は町で一般的に使われているケミカルなものは使用禁止にしています。こちらで用意する色粉はオーガニック製品で、目に入っても皮膚についても大丈夫なものだけを揃えているから、安心して粉をかけあえるよ」と返事が来た。
いや、そこのオーガニックは要らないのよ、と思いつつ、「私は粉をつけられたくないんだけど…」とメッセージを送ると、「ハハハ、大丈夫。無理強いはしない。みんなが楽しめるように常に心掛けているから、それは約束する。」との返事。
誠実そうなデパンシュの言葉を信じようと思った。
「ここは山奥にあるため、車では来れないので注意して。リシケシュの街からは歩いて50分くらいかかります。スーツケースでは無理だし、荷物は軽くして来た方がいいよ。でもその代わり、ここでは自然に包まれた楽園の静けさを感じられるから。」というアドバイスももらい、キャンプで不要そうな荷物をリシケシュのホステルで預かってもらって、できるだけバックパックを軽くして、デパンシュの楽園へ向かうことにした。

恐ろし過ぎるアトラクションの看板



「50分」て書いてたよな。
何度もメッセージを確認するが、確実に50分と書いてある。
宿を出て、かれこれ1時間近く歩いているが、まだ平坦な車道である。ずっとガンジス川沿いを歩いている。
そして1時間を過ぎた頃、ようやく滝への山道の入り口に着いた。ここからすぐ着くわけないよなと思い、もしかするとここから50分なのかもしれないぞ、と気合いを入れ直した。かなりハードな山道を、バックパックを背負って登るが、それでもまだ車道である。しかし、車道ということは、ここまでは車で来れたんじゃないかということに気づく。
あーしんどい。
そう思いながらフラフラと車道を上がっていくと、一台の車が止まった。
「Waterfall camping?」と聞かれたので、「イエス!イエス!」と答え、「乗れ!」と言ってもらえて、救われた気持ちで車に飛び乗った。その車は満員で、もはやあと1人も乗れそうになかったが、助手席に無理やり私ともう1人の2人で乗って、山道をぐんぐん上がっていく。

ラダック女子大生は、
顔つきがチベタン顔で日本人に似ている。


車に乗っていたのは、インドのラダックから来ている女子大生グループ6人組で、大声で歌を歌って笑っている。
聞けば、waterfallのキャンプ場で、今夜みんなでキャンプをするらしい。このグループと一緒ならキャンプも楽しくなりそうだな、とワクワクした。
しばらくして、徒歩でしか登れない山道の入り口で車が止まった。
みんなで車を降りた。
ドライバーのイケメンが、どうやらキャンプ場の人らしく、彼がデパンシュなのかな?と思ったが、ヒンディー語で話しているからよく分からない。私のバックパックを「持つよ」と言ってくれ、担いでもらって、みんなで一緒にハードな山登りを開始した。女子大生たちはどうしてみんな手ぶらなのだろうとふと気になったが、身軽でいいなと思って、そこまで気に留めなかった。


50分くらいで滝に着いたのだが、宿から徒歩と車も使って、かれこれ2時間半経過している。「50分で着く」というデパンシュの言葉は、お互いの英語の行き違いだと思うことにした。
滝でラダック女子大生たちが泳ぐ時間となった。6人のうち4人が服を脱いで水着になった。「あなたも泳ごうよ」と誘われたが、私もかなり汗だくだったし、いっそのこと泳ごうかな、と思った頃、事件は起こった。

滝の前にある天然のプールにかかっていた小さな橋から飛び込んだあるインド人男性が、水の中から顔を出した時、頭から大量の血を流していた。
ギョッとした。
ものすごい勢いで出血している。滝の前の天然のプールの1箇所が赤く染まっていく。
恐ろしくて滝で泳ぐどころではなくなった。
私たちのイケメンドライバーが血を流した男の元に駆け寄って、滝から上げて、腰に巻いていた布を細く折ってターバンにし、ざっくり切れている男の頭を縛り上げた。その場にいたインド人たち全員が囲むように集まり見守っている。
ターバンも赤く染まっていくため、もう一枚の布で上から締め直す。
女子大生と私も黙ってその場から見守った。
何とかキツく締めて止血し、男は友人に支えられて山を降りて行った。
血だまりができていて、恐ろし過ぎる時間だった。

イケメンドライバーが私たちのもとに戻ってきて、「15cmくらい切れてたわ」と報告した後、「さ、気を取り直してスイミングタイム!」と明るく言った。
しかし、誰1人、血に染まった滝のプールで泳ごうとする者はおらず、水着になっていた4人は、黙ってTシャツをまた着た。

じゃ、ここでランチでも食べよっか、という流れになったのだが、ふと私は違和感を感じた。

あれ。
ランチタイム?
ランチって何?
私、このグループにいていいのかな。

女子大生たちに「今日はどういうプランなの?」と聞いてみると、どうやらツアーに参加しているらしく、滝で泳いでランチを食べて、夕方にキャンプ場に着く流れらしい。
ツアー?あれ。
「キャンプ場ってTribe AQUA だよね?」と私が聞くと、「違うよ、アディババウォーターフォールだよ」との返答。
あれ。
私の予約したキャンプ場じゃない。
滝の近くに別のキャンプ場もあるのか。
あのイケメンドライバーは、やはりデパンシュではないのか。
じゃあ私は、見ず知らずの無関係なキャンプ場のツアーガイドに、バックパックをずっと背負ってもらっているのか。

ええー!
ごめんなさい。
イケメンドライバーに、自分がTribe AQUAというキャンプ場を予約していることを伝え、荷物を持たせて申し訳なかったですと謝った。
すると、「隣のキャンプ場だったか、ハハハ。でもそれの何が問題なの?謝る必要ないよ。どうせ同じ道だし。ランチを食べてから、入り口まで一緒に行こうよ。」と言って笑い飛ばしたのである。
「車にも乗せてもらい、荷物を持ってもらったし、ツアーじゃないのに滝まで連れてきてもらったし、お金を払います。」と伝えると、「要らない要らない」と笑う。
懐が深過ぎるイケメンドライバー。
なんていい人なんだろう。
でも申し訳ないので、1人で先に進むことにし、ランチを食べようとしている女子大生たちに事情を伝えると、「ええ?!一緒にキャンプできないの?」と、とても残念がっていて、「また会おうねー」と6人みんなで見送ってくれた。

まったく私ったら。
キャンプ場に着くまでにも1ハプニングあるんだから。
我ながら呆れる。

そして、1人でもう少し山に登り、ここだと思って入ったキャンプ場がまた間違えていて、山の中には結構キャンプ場があるということを知り驚いたが、 3軒目にして、ようやく予約していたデパンシュのいるTribe AQUAに到着。

自分はStupid peopleではないはず。
よそのキャンプ場
ここもよそのキャンプ場
着いた
ここがうちのキャンプ場



見晴らしのいい場所にテーブルと椅子があり、そこに2人の青年がいた。

「ハイ!待ってたよ。ずっとメッセージのやり取りをしていたデパンシュは僕だよ。はじめまして。」
「ハイ!アマンだよ。デパンシュと2人でここで働いてる。デパンシュは今から町まで買い出しに行って今日の夜に戻るから、困ったことがあったら、代わりに僕に何でも言ってね。」と言った。

なんて言えばいいのだろう。
簡単に言えば、ものすごく好感の持てる青年2人だった。誠実そうで、若いのにちゃんとこの場所を守ってるような責任感もあって。
もう少しシンプルに言うと、胡散臭くないのだ。
インドの宿や商売人には、私の主観だが、次のようなタイプの人が多い。
口がうまくて調子が良くて悪い人じゃないけど何となく胡散臭い人、すぐやると言ってすぐやらないような、大したことじゃないけど何となくちょっとだけ信用できない人。
もしくは、逆にものすごく真面目だけど、堅くて融通の利かない人。
両極端なタイプだが、この2種類のタイプが割と多い気がする。
だけどこの2人は、そのどちらでもない、真面目だけど堅すぎなくて、明るいけど胡散臭くない感じ。そんな印象を受けた。

買い出しで不在になることをちゃんと私に伝えるデパンシュの誠実さとか、デパンシュと私とのやりとりは、こちらも把握してるから大丈夫だと安心させてくれるアマンの気遣いとか、とても丁寧だし、物腰の柔らかい、ゆっくりと分かりやすい英語で話す口調が安心できた。
この人とこの人はここで働いている人で、この人たちは友人として手伝ってくれているだけの人だという説明も、最初にしてくれた。
これって、インドあるあるなんだけど、宿にいる、従業員以外の従業員風の雰囲気を出して、フロントとかキッチンとかに自由に出入りして、やたらといつも宿にいる謎のおじさんやお兄さん。君らは誰なんといつも思う。
でも、それってツーリストは従業員と区別がつかないから困ることもある。
鍵が壊れたとかお湯が出ないとかを、フロントにいた人に直して欲しいと頼んだのに、いつまで経っても誰も直しに来なくて、伝えたのは従業員じゃないただのおじさんだったなんてことは、日常茶飯事だ。
それを最初にアマンが、誰が従業員で誰がそうでないかを説明してくれて、困った時の窓口を明確に伝えてくれたのも信頼できるなと思った。

ただ、リシケシュから徒歩50分で着くというメッセージだけが信用ならない文章だったが、時間の感覚は、インド人全体に共通する独特の大ざっぱさがあるので、そこは個人の問題ではないと思った。
なのでその件については、滝の水に流すことにした。

従業員でも客でもない人
キャンプ場に流れる川
天然のプールあり
夜に会うと怖い、リアル過ぎるカカシと
オーガニック野菜の畑。



キャンプ場に着くまでの話が、異常に長くなり過ぎたので、続きは次回に。

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