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短編小説「別れた朝はパンケーキを焼こう」5章


子供のいなかった
父の兄の稔伯父は、驚くほど素早く弟の亨を
自分の戸籍に入れて、養子とした
これで家も安泰と喜んでいた。
わたしはといえば、宙ぶらりん状態だった。
処遇について両家の親族が集まり、何度か話し合われた
その時義伯母の発した言葉が今も忘れらえない

「由紀はまだこむすめじゃのに、
しなを作って男に色目を使うところが
美沙子さんにそっくりで、すかん。
だいたい修二さんがお人好しやけん、あんな女に騙されて」
誰一人口出しせずに聞いていた。
一人くらい、子供の前だからと注意する人がいても良いと思うが
みな、自分に火の粉が飛ぶのが嫌で口出ししなかった。
義伯母は、自信たっぷりに続けた
「由紀なんか、本当に修二さんの子どもかどうかも疑わしい。
結婚した時、もう4か月やったんやけんな。
誰の子どもか分かったもんじゃなかろがね」
「やめんか。子供に罪はなかろうが。
あの時もその話になって、間違いなく自分の子だと
修二が言うたろうが」
稔伯父の声がしたが、直ぐに義伯母の声の強さに負けた。
「そやけど、あんたは仕事だけしかせんやろ。
面倒みるんはわたじゃけん、わたしに嫌がられとったら
あの子も不憫や。美紗子さん実家の方で預かってもらおうよ」
結局、その1週間後わたしは母方の祖父母に
預けられることになった。

父は6年で出所したと聞いているが、
その後、わたしの前に一度も姿をあらわしていない。

母もこの地では噂が広まって働けず、
しばらくの間、和歌山の旅館で住み込みで働いた。
4年ほど経って、こちらに帰ってきているとうわさは聞いたが
わたしと一緒に住もうとはしなかった。

それでも祖父母には
毎月3万年ほど書留で送られてきた。
わたしは結局隣村の祖父母の家で中学卒業までを過ごし
その後は病院の看護師僚に35歳までいた。
主任になり、余裕ができたので
病院の近くに小さな部屋を借りた。
その頃覚えたパソコンで、出会い系を知った

祖母が生きていた頃は、
母も時折顔を見せていたが、
その後は、おもいだしたように時々電話があるだけだ。
それも酒に酔っているのか、同じことばかり繰り返す。
付き合っている男の愚痴だ。
それでも母親なのかと罵る前に、自分から電話を切った。

「姉ちゃん聞いてるか?
結局一度もおやじの見舞いにもこなかったなあ」
「ごめんなさい」
気怠い感じでそう言った。
「ひとりぬくぬくと
何不自由なく暮らしている俺のこと恨んどんか。
あの時は伯母ちゃんやって他人のゴタゴタに巻き込まれて
辛かったんやと思うよ。姉ちゃんには悪いことしたって
最近いっつも言いよるし、そろそろ心開いたらどうやん。
父ちゃんの葬儀は葬儀社で家族葬ですることにした。
明日が通夜で、明後日が葬儀や」
「あっ!まって。あんたのことは恨んでなんかないよ。
大学まで行かせてもらって良かったじゃないの。
立派になって伯父ちゃんちの家を守ったらええよ。
でもね、亨。姉ちゃんは心が狭いから
伯母ちゃんだけには会いたくないの。
お金は後で渡すから包んでおいて。本当にごめんね」
それだけ言って電話を切った。
伯父夫婦は本当の子どものように亨を大切にしてくれた。
そのことには、感謝しているが、あの家族には会いたくない。
子供のことも考えず、嫉妬に狂った父にも会いたくない。

父の通夜の日に、わざわざ他人の夜勤まで引き受けて
普段より長く働いた。看護師長から、
「それ以上働かれても迷惑だから上がって」
と言われた時は、もう10時を過ぎていた。
11時の葬儀にはもう間に合わない。ホッとした。

どちらかというと、職場でも浮いた存在だった。
結婚もせず、親しい友人も持たず、
誰とも付き合わあい偏屈な人だと噂されているのも知っていた。

女だけの職場には、考えられないほどの嫌がらせや苛めがある。
もし、わたしが殺人者の娘だと知れたら、
まずは噂のタネになる。
だから誰とも親しくならなかった。
でも、仕事だけは誰にも負けないという自信が
今の自分を支えている、

帰宅して、少し横になったがとても眠れない。

いつものようにパソコンを開き、
地域指定の出会い系サイトを開く
今までと同じようにプロフィールを見ながら
チャットで言葉を交わし気があうと、
メールアドレスを交換し、
やり取りしながら、人気のない場所で待ち合わせをした。

そんな風に出会った男は何人だろか。
もちろん大多数は一度か二度の関係だった
そういえば一年ほど前にも
しばらく続いた男がいたが、男女の間で緊張感が続くのは
そう長い時間んではないようだ。
三3年間で学んだことはそれくらいだろうか。
「今日は娘の12歳の誕生日でさあ。ぷーさんのぬいぐるみを頼まれてるから
悪いけどいつもより早く帰るよ」
そう言われて別れた。
なぜって、わたしは12歳から
誰からも誕生日プレゼントをもらったことがないからだった。



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