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九州のスタートアップエコシステムから学ぶ、北海道の現在地。

はじめに

株式会社POLAR SHORTCUT(ポーラー・ショートカット)の大久保です。普段は札幌で、スタートアップ投資(ベンチャーキャピタル)をしています。

11月上旬からしばらく、宮崎県→鹿児島県→福岡県と九州を巡りをしてました。観光ではなく、仕事&九州のスタートアップ・エコシステムの視察が目的です!
特に福岡県は地方スタートアップ・エコシステムの先進地。現地で活躍する多くのプレイヤーの方からとても有益なお話を伺えたので、今回のnoteでは九州エリアの現状を、札幌との比較も交えながら紹介していきたいと思います。
(注:あくまでも私のヒアリングベースでの記事ですので、事実誤認や解釈の誤りなどがあれば、ご指摘ください。)

福岡のスタートアップ・エコシステム

まずは、皆さんが最も知りたいであろう福岡のスタートアップ・エコシステムというテーマから。まずは「福岡市」にフォーカスして話を進めます。
今回耳にした「2012年頃は福岡よりもむしろ札幌の方がベンチャーが盛り上がっていた気がします」という言葉も印象に残りました。この10年間で、福岡市はどのような変化を経験してきたのでしょうか。

ターニングポイントは2012年。今回お話した全員が、高島宗一郎・福岡市長による「スタートアップ都市ふくおか宣言」がきっかけと口にしていました。
日本政府の後押しもあり、多くの自治体が大なり小なりスタートアップ支援に力を入れるようになりました。しかしながら結局は「トップである首長の覚悟の差」が成果の違いを生み出しているようです。
福岡市の職員は、創業支援担当に加え、国家戦略特区やグローバル創業特区の担当も含めると30名ほどがスタートアップに関わっているそうです。
また、何かを推進していく際には「工夫しろという言葉」で誤魔化すのではなく、ちゃんと人員リソースを増やすスタイルとのこと。スタートアップも同じですが、本気でやるなら頭数は絶対必要なんです。

高島宗一郎・福岡市長は、積極的に自身が表に出ることで、福岡市のスタートアップ都市としてのプレゼンスを高めていますよね。現場は大変かもですが笑、これぞリーダーシップ。

民間の取り組みとしては、テクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽」が2011年から、九州最大のStartupイベント「StartupGo!Go!」が2014年から開催され、草の根での空気感を醸成してきたようです。
また、今回初めて知りましたが、明星和楽はBacklogやCacooで有名な(株)ヌーラボ創業者である橋本 正徳氏が立ち上げたそう。
明星和楽自体はスタートアップに特化したイベントではありませんが、「地域を代表する起業家が、黎明期から新しい取り組みを推奨するカルチャーづくりを後押ししてきた」という経緯は、札幌のNoMapsとも重なる部分があり興味深いですね。

黎明期から福岡の盛り上がりを後押ししてきた明星和楽とStartupGo!Go!は、札幌で言えばまさにNoMapsオンラボ北海道ですよね。
これらの取り組みが福岡では2012年前後のスタート、札幌では2017年前後のスタートであり、ちょうど5年ほどのタイムラグがあることを考えると、現在の福岡の環境は「5年後(2027年)の札幌」の姿を先取りしているのかもしれないと感じています。

そういった背景も踏まえたうえで、現在の福岡と札幌のエコシステムとしての大きな差は「シード投資をするプレイヤー(VC)」の厚みだと感じました。
福岡には、独立系のドーガンベータ、F Ventures、前述のStartupGo!Go!を主催するGxPartnersに加え、大学発スタートアップにフォーカスしたQBキャピタル、アーリー・レイターまでをカバーする福岡銀行系のFFGベンチャービジネスパートナーズなど、複数の有力なベンチャーキャピタル(VC)が存在しており、可能性ある起業家のシード期を適切にサポートする体制が整っているように感じました。

一方で札幌のシード投資のプレイヤーは、当社POLAR SHORTCUTとオンラボ北海道を運営するD2Garage、札幌のエンジェルによる投資組合であるSapporo Founders Fundの3社です。数がないわけではありませんが、いずれも小規模で、シード投資の金額としてはまだまだ少額。
(地方銀行系のファンドもありますが、いわゆるシード投資にはそこまで積極的ではない印象です)。
地域の「投資家の数」と「起業家の数」は、鶏と卵の関係ですが、魅力的な起業家が増えて、それに呼応して投資家が増えるような正のサイクルが回っていかないといけないですね。北海道の場合、まずはそこからだと再確認しました。

また、今回印象的だったのが、いろいろな方に「福岡のスタートアップ業界の中心となっているプレイヤーは誰ですか?」と質問をぶつけた際に、明確に「●●さん」と名前が上がってくることが無かったことです。
誰が中心ということなく「多くのプレイヤーが同時多発的に動いていることで、エリア全体としての盛り上がりが生まれている」という状態が、福岡レベルのエコシステムになると実現されています。(余談ですが、全員が一番のキープレイヤーとして唯一名前を挙げていたのが高島市長でした)。

福岡市と北九州市と福岡県

スタートアップ振興の文脈でみなさん「福岡」という言葉を使いますが、だいたいそのときは「福岡市」について話題にしています。上述の内容も主には福岡市の話ですね。ですが「福岡県」として見たときにはもう一つの政令指定都市である北九州市の位置付けや、広域自治体である福岡県の取り組みも気になるところ。ここからはそのあたりに触れていきます。

福岡市は、もともと商人の街であった「博多」を中心としたエリアです。そのため、古くは室町時代から「商売をする」「工夫して儲ける」「人とは違う新しいことに挑戦する」といった「博多商人」文化が地域に根付いているそうです。
そういう意味では、スタートアップを成長戦略の中心に据えることも、若い世代がスタートアップに挑戦することも、何か痛みを伴う改革を断行したわけでなく、博多のDNAとして「あたりまえ」のことを推進したに過ぎないのかもしれません。

一方で、福岡県内にあるもうひとつの政令指定都市である北九州市は、古くは官営の「八幡製鉄所」に代表されるように、伝統的に国主導での産業形成がされてきた地域だそうです。
そのためどちらかというと大企業の社員として働く人たちが多かったり、カルチャーとしても「親方日の丸から仕事を受ける」体質が長らく残っていたとか…..。あれ、どこかの北の大地でもそんな話を聞いたような。
(注:大企業や国が受け口となって地域に雇用を生み出すこと自体は批判しません。あくまでポジショントークと捉えていただけると幸いです)
そんな歴史的背景がある北九州市ですが、近年ではスタートアップ支援にもしっかり力を入れ始めているそうで、福岡市サイドから見ても一目置くような取り組みが進んでいるそうです。
▼以前、私のnoteでも触れた補助金とかがそうですね!

北九州市の取り組みは、スタートアップSDG'sイノベーショントライアル事業というもので、市が認定したベンチャーキャピタルから出資を受けて事業化を目指しているスタートアップ企業等に対して、最大で2千万円を補助する事業とのことです。

https://note.com/nori_okb/n/na55882bf8b80

その二つの政令指定都市を抱える広域自治体である「福岡県」の取り組みも気になりますね。
福岡県としては、(当然サポートはするものの)福岡市や北九州市に対してはそれぞれのやり方を尊重しつつ、両市の取り組みではカバーしきれない部分を、県がサポートするという基本体制になっているそうです。
わかりやすいところでは、久留米市や大牟田市など、福岡市と北九州市以外の県内中堅都市に対する産業振興支援などは県が力を入れている領域のひとつ。
また、スタートアップ文脈ではない「事業承継」や「伝統芸能・産業の後継者不足」に関する取り組みは福岡県がフォローしている領域のようです。
例えば、地域資源・地域課題をテーマとした「福岡よかとこビジネスプランコンテスト」などは県が主催しています。

北海道でも「札幌市」と「北海道庁」の創業支援文脈での棲み分けがどうあるべきか?という論点がありますが、ひょっとすると福岡市と福岡県との関係にヒントが隠れているかもしれませんね。

ちなみに、今回はわかりやすくポジショニングしましたが、エンジニアの祭典「福岡Ruby会議」は昔から県の方で主催しており、福岡市と比べて県がスタートアップ支援について全くの門外漢というわけでもないということは補足しておきます。

福岡県以外の九州のポテンシャル

九州でスタートアップというと「福岡」の話に終始しがちですが、せっかくの機会ですので、福岡以外のエリアについても触れておきたいと思います。
結論から言うと、「福岡以外の九州エリアはまだまだスタートアップとしては黎明期。だが、経済基盤などを考えるとポテンシャルがありそうな地域も多い」という印象でした。

まずは宮崎県。実は今回は、一粒1,000円ライチの取り組みで有名な「こゆ財団」からお仕事をいただき、宮崎県新富町に行っていたというのが、もともとの九州訪問のきっかけです。
こゆ財団はもともと観光協会だった組織を「地域商社」としてリノベーションした団体。名前が似ていることで「えぞ財団」とのコラボイベントなども企画しているので、一部の方には有名ですね笑

スタートアップ文脈のお話をすると、宮崎県には九州の地域VCであるドーガンベータの宮崎オフィスがあります。今回は実際にオフィスに伺っていろいろとお話を伺ってきましたが、宮崎県はドーガンベータとしても福岡県の次に投資先が多いエリアだとか… 前述のこゆ財団代表理事も務める齋藤 潤一氏が率いる農業ロボットベンチャーのAGRISTをはじめ、既にいくつかの面白いスタートアップがあるようです。

また、NOT A HOTEL代表の濵渦 伸次氏が過去に創業した(株)アラタナ(2020年にZOZOに売却)が宮崎県に本拠地をおくスタートアップだったこともあり、かつてアラタナに在籍していた優秀なプレイヤーがそのまま宮崎県に残って「アラタナマフィア」として起業するケースもあるとか。
上手く起業家の世代継承が進めば、シリコンバレーを連想させる温暖な気候も相まって、宮崎県が九州有数のスタートアップのメッカになる可能性を感じました。

もうひとつ、個人的に注目しておきたいなと感じたのが鹿児島県です。
新幹線で博多まで1時間25分という好アクセス、想像以上に発展していた鹿児島中央駅、桜島を眼前に望む風景の美しさ、明治維新の傑物たちを生み出した歴史など、土地としての魅力に加えて、現在42歳の鹿児島市長がスタートアップ振興にアクセルを踏もうとしているという情報も。何かがこれから起こりそうな地域です。
ちなみに熊本県もこれからスタートアップが面白くなりそうと耳にしましたが、詳しく伺えなかったので今回は割愛します。

城山展望台近くから望む桜島。写真では伝わりにくいのですが、「桜島ってこんな近い&でかいんだ…!」というのが感想でした。鹿児島だけちょっと観光しました笑

スタートアップエコシステムは一夜にしてならず。そして、永遠に完成することもない。

今回一番感じたのは、あたりまえですが「スタートアップ・エコシステムは一夜にしてならず」ということです。
どうしても新たにスタートアップ支援を始めた人たちはすぐに成果を求めたがりますが、福岡でさえここまで来るのに10年間の地道な積み重ねがあったということを、しっかりと認識した方がいいですね。

そういう意味で、2012年頃から継続的に九州のスタートアップ支援にコミットし続けているドーガンベータさんのことはやはり尊敬します。
しっかりとお話させていただいたのは今回初めてでしたが、九州のスタートアップ産業育成についての想いと、今まで積み重ねてきた取り組みの重みが、会話の節々から伝わってきました。
当社ファンドは昨年立ち上げたばかりのまだまだ駆け出しですが、まずは10年後の北海道のために、今やるべきことをしっかりと積み上げていかないといけないと、改めて背筋が伸びました。

そしてもうひとつ。メディアに出てくる煌びやかな「地方スタートアップ先進地としての福岡」の顔以外に、現場でスタートアップを支える人たちは僕らと同じく、多くの課題や悩みを抱えていることを改めて認識できました。結局スタートアップ支援にはゴールなどなく、ステージに応じて課題は必ず生まれてくるもの。

彼らがいま抱えている課題は、札幌・北海道のスタートアップ・エコシステムが、おそらく5年後に目の当たりにするであろう課題です。
少し未来を覗いてきた気持ちで、今からそれを意識した取り組みを進めていくことができれば、「福岡市とは違う良さ」を北海道で実現することもできそうだなと、少しばかりの希望と手応えも感じています。

noteには書き切れなかった各論の学びも多かったのですが、今回はいったん自分の中に留めておきます。
スタートアップ支援に本気で取り組んでいて、もっと詳しい話を聞きたい方がいれば、ぜひ対面でお話できればと思っています。

Fukuoka Growth Next(FGN)に飾られている「福岡スタートアップ地図」。福岡には福岡なりの課題があるし、札幌には札幌なりの良い面があることにも気づきました。

今回のnoteはこのあたりで終了とさせていただきます!
あと今回の九州視察をきっかけに、どうしようか迷っていた新しい取り組みをひとつ、具体的に進め始めました。大変だろうけどやっぱやりたいなと。この件はいつ頃リリースできるかな。

最後までお読みいただきありがとうございました!当社ファンドでは北海道の起業家からのご連絡をお待ちしています。ご連絡はこちらまで。
Mail:info@polarshortcut.jp
Twitter:@OkbNori

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