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万葉集に誘われて 新しき年の初め

新しい年を迎えると、口ずさみたくなる万葉集の歌があります。

あらたしき 年の初めの 初春はつはる
今日けふ降る雪の いやしけ 吉事よごと

訳:
新しい年のはじめに立春が重なった
今日降る雪のように、いっぱいいいことがあって欲しいなぁ

万葉集全20巻4516首のさいごを締めくくる、大伴家持の歌です。


2021年1月
いつもの公園にて



何がきっかけだったのかは覚えていませんが、20歳を過ぎて、ふと万葉集に興味をもちました。なんだかかっこいいなと。そして買い求めたのは恋の歌を集めた写真つきの歌集。

さらっと読み、あっけなくマイブームは去りました。

それから数年後、今度は奈良に熱を上げ始めました。いにしえの地を歩いたり、歴史の本を読んでいると、かなりの頻度で万葉集が登場します。

そこでふたたび万葉集が気になって、奈良の美しい写真つきの本を購入したり、NHK番組を視聴してお気に入りの歌がいくつかできました。(冒頭で紹介した歌もその一つです)

けれど、なんというか、上っ面をさーっと撫でているような感覚で、いまひとつ心にずしっと残らないのです。


飛鳥の春の額田王
安田靫彦 画

考えてみると、学校教育でしっかりと万葉集を学んだ記憶がありません。

小学校高学年では、「百人一首を覚えましょう」という課題があり、まだ脳が柔らかくて記憶回路も成長期だったわたしは、しっかりと百首覚えました。歌の意味も漢字もはてな?でしたが、とりあえず音だけ丸暗記。

その影響で和歌といえば百人一首だったのですが、しかし待てよ、確か歴史の授業では「日本最古の歌集は、万葉集」と習ったような。

学校の授業でようやく万葉集が登場したのは、高校古典の時間。ですが日本の古典はなにしろ良作揃いなので、一番古い万葉文学はせいぜい一コマかけてもらえるかどうか。

それも、わたしの記憶が確かなら、そのとき取り上げられたのは、山上憶良の「貧窮問答歌」という農民の生活の苦しさを詠った歌。

暗い、暗すぎる・・・それでは万葉集に魅力を感じないよ。


万葉の春
上村松篁 画

源氏物語ほどの熱いマイブームには至らないものの、じわじわと、細々と続いてきた万葉集への興味。

昨年はことあるごとに、

万葉集、いいですよねぇ
万葉集、学びたいなぁ
一首をじっくりじゃなくて、体系的に
どこかで適当な万葉集講座やってないかな?

などと呟いていたところ、なんと万葉集講座の情報がやってきたのです!

きっかけは、kumokichiさんの記事に対するコメント欄でのやりとり。奈良県立万葉文化館で万葉講座のフライヤーをもらってきたというkumokichiさんに、「いいないいな、羨ましい~」とコメントしたのですが、その羨ましい講座がどんな内容なのか知りたくなり、万葉文化館の公式ホームページを覗いてみました。

講座は2種類。万葉集を巻の順序どおりに読みすすめる「万葉集をよむ」と、最新の研究成果を紹介しながら時代背景と万葉集を紐付ける「万葉古代講座」で、開催はそれぞれ月1回。

うわ~、これはまさにわたしが望んでいた内容そのもの!
もうすこし奈良が近かったら・・・

あれ?でもこれオンライン参加って書いてある。事前申し込みすれば誰でも視聴可能、しかも無料と!こうなったらもう、申し込むしかありません。即断即決、さっそく12月の講座2つを視聴しました。



そして感想は、とても良かった!です。
研究員さんのお話はわかりやすく、講座資料もダウンロード印刷可なので、聴きながら書き込んでいくこともできます。

始まってしばらくは、普段聞きなれない関西イントネーションが聞き取りにくく落ち着きませんでしたが、それもすぐに慣れて、むしろ「雅だわ~」と感じるようになりました。

今回の視聴をとおして、これまで万葉集をいまひとつ掴みきれなかった理由が、なんとなくわかった気がします。やはり、題詞(タイトル)を含めて順番どおりに読んでいくと、似たような歌が並んでいることもあり雰囲気をイメージしやすい。どうやらわたしの性格にはこの学び方が合っていそうです。

へぇ~、そうなんだ!が盛りだくさんの講義。あっという間の1時間半でしたが、なかでも一番なるほど!と感じたことを、紹介したいと思います。

☆『義之』はなんと読む?☆

平仮名ができる以前に誕生した万葉集は、すべて漢字(音と訓を使って書き表した万葉仮名)で書かれおり、その解読はなかなか大変だったようです。

そんな中、万葉集ができてから1000年ほど後、それまで読めなかった『義之』という万葉仮名の解読をしたのが、江戸時代の国学者・本居宣長でした。

まずは原文:

印結而 我定義之 住吉乃 濱乃小松者 後毛吾松

巻3ー394 余明軍の歌

なにが書いてあるのか、さっぱりわかりません・・・


次に、読み下し文:

標結ひて 我が定め〇〇 住吉の 浜の小松は 後も我が松

なんとなく雰囲気がでてきました。
ここで問題の『義之』です。この字を見て、書や中国の歴史に明るい方であれば思いつく人物がいるのではないでしょうか。

はい、おう義之ぎしです。王義之は4世紀中頃の中国の書家で、その書のすばらしさから書聖と言われた人です。

そして万葉集ができた時代、書家は「手師」と呼ばれていました。
つまり、

義之
 ↓
王義之
 ↓
手師
 ↓
てし

と、本居宣長は解読したのです。すごい! なんだか推理小説のトリック解明みたいではないですか。

そこから先程の歌を現代語に訳すと、

標を結って 私のものと定めておいた 住吉の浜の小松は、後々も私の松だ

松は女性のたとえなので、
あの愛しい女性はこれからもずっとオレのものなんだ!と、独占欲全開の愛を表現しているわけですね。

4世紀の中国の書家が、7~8世紀の日本での詩歌作りに大きな影響を及ぼしていたという時代背景に大いに驚きましたが、1000年を経てその事実へ辿りついた本居宣長の考察のすばらしさ。おもしろいですね~。

そしてこんなに濃い内容の講座を無料で開催してくれる奈良県立万葉文化館さん、ありがとうございます!遠方でも平等に学べる、いい時代です。なにかを学ぶって最高に楽しいですね。



そんなわけで、今年は万葉集の学びをしばらく続けていきます。これは!という感動に出会ったら、また紹介するかもしれません。

あらたしき 年の初めの 初春はつはる
今日けふ降る雪の いやしけ 吉事よごと


いろいろな出来事がありますが、できるだけ笑顔時間が多くなるように、日々を過ごしてゆきたいと思っています。自分を大切に、地球も大切に。

本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。


こ~んな笑顔でね!

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