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【短編小説】イロトリドリ

昔々あるところに色のない鳥がいた。
その鳥は白い羽でできており、目だけは黒く色を持つ。

今日も鳥は色鮮やかな世界をぐるりと見渡していた。

鳥は神に祈った

「私にも色をください。」


優しい神は鳥へと言った

「残念ですがそれはできません。
あなたはその白色で生まれたのですから
その色を大切になさい」


神の発言を聞き、鳥はひどく悲しんだ。

それは当然のことであった。

自分の一色しかもてない姿を見にくいと感じていたためだ。

周りのものは色を持ち、美しい姿をしていると言うのにもかかわらず

自分だけが色のなくモノクロのような白。醜い存在だと思った


神は続けて言った

「世界には美しい色で溢れたいるのですから良いでは無いですか」

神の世界の色は美しいと言う発言が鳥の自尊心を刺激し、
たくさんの色の羽をさらに欲しいと望むようになった



そして
色のない鳥は悪魔の泉へと訪れてしまった



そこでは、悪魔と契約することで、
願いを叶えることができるのだ


色のない鳥は悪魔に頼み込んだ

「この私の色のない羽にも色をください」と

すると、真っ黒な悪魔は下卑な笑みを込めて言った

「それならば、
あなたの名前を変えてやろう」


首をかしげる鳥に悪魔は続けて言った


「あなたの名前をイロトリドリにしてやる」


色のない鳥は喜んだ

イロトリドリと言うのは、
色のない鳥の家系で古代から言い伝えられてきた幻の鳥の名だったからだ


「イロトリドリを名乗らせてくれるんですか?!」


「あぁ。もちろんである。

そうすれば、あなたは色のある美しい羽を持つことができるだろう」


そう言った悪魔は、
鳥の目を優しく閉じさせて、何か不思議な呪文を唱えた


次に色のない鳥が目をゆっくりと開いたとき

自分の羽の色を見て
あまりにも美しいことに感動した

羽の色は夕日と同じ淡いオレンジ色



それは誰が見ても美しいものであった


満足そうにしている悪魔にイロトリドリは言った


「ありがとうございます。これで私もこんなにきれいな羽の色を持てました。」



イロトリドリはまだ気がついていなかった


与えられた羽の色は空の色。

空の色を吸い取りオレンジの羽を手に入れたのだった


イロトリドリは悪魔の元を離れ、
世界中の人々へこの美しい羽を見せびらかしに行った


あまりにも美しい羽の色をした
鳥が現れたと世界では話題になった。

あんなに美しい鳥がいるのかと


そして、そんなことを言われた経験のない鳥は、
さらにたくさんの色を自分の羽に求めた



色を世界から吸収することができてしまう

それがイロトリドリの特性であった


そのため、イロトリドリが望み美しいく欲しいと思った色は、
悪魔に与えられた魔法の力によって次々と吸い取ってしまったのだ


吸い取った世界の色はイロトリドリの羽になる


だが


世界の色を吸収して、
自分の羽にしていると言うことに
イロトリドリは気がついていなかった


それでも美しくなっていく自分の羽を見て、人々が感動し喜ぶ姿。

自分でも誇らしく感じていた


人々は、美しい鳥がいるとイロトリドリのことをめでた


日に日に増えていく。美しい羽の色

だが世界からは、
色がどんどん消えていっていた



それは、
まるで元の色のない鳥のようなモノクロの世界に



そんなすっかり色がなくなってしまったモノクロの世界で
1人の少女が泣いていた


彼女は世界の美しい色を見ることが好きだったのだ


そして
彼女が特に愛していたのは、イロトリドリが最初に吸収した色。

あの美しいオレンジ色の空であった


もう一度あの空が見たいと、
彼女は毎日毎日泣いては神へも頼んだ



そんな姿を見て、
人々はどうしようもないだろう…と、彼女のことをなだめたが


色のある世界をもう一度見たいと望んでいるのは、他の人々も同じであった


何を見ても色がないと言うのは、悲しい世界で。


イロトリドリのことを悪く思うようになる者も出てきた



人間に悪く言われ、初めて自分が世界から色を吸収していたと気づいた
イロトリドリは自分のせいで、人々が悲しむ結果になるなんて思っていなかった


美しい羽を見せることによって、人々のことを喜ばせていると思っていたからだ



このままでは世界から色がなくなり、ただ自分で1人で美しい色独り占めしてしまう

「こんなのいけない」


イロトリドリはもう一度悪魔の泉へ訪れた


「もう一度私のことを色のない鳥にしてください」


そんなイロトリドリのことを見て悪魔は言った

「なんて貴様はわがままなんだ」と



悪魔は色が世界からなくなると言うことを何とも思っていなかった


それは、自分自身の肌の色が真っ黒だったからである

自分からは吸い取られるような色がないため、
世界から色がなくなろうが、
自分に何の影響もない


ならば、イロトリドリがどれだけ世界から吸い取っても良いと考えていたのだ


そのため、聞く耳を持たず遠くへ行ってしまった悪魔を
美しい青の色をした瞳を持ったイロトリドリは遠い目で見送ることしかできなかった。


そしてたたずむイロトリドリの背後に
現れた神は言った


「あなたはやっと理解できましたか?
色を持つと言うことを
その責任を」


大きくうなずいて鳥は言った

「私はイロトリドリを名乗るのをやめたいです」

「私は、世界へ色をもう一度与えたいです」

そう願う鳥に暖かな笑顔を向けた神は言った


「あなたの姿はこの世の何よりも美しい。
だから、あなたの吸収したその美しい色を世界へもう一度放ってあげなさい。」


「そうすれば世界は前よりも素晴らしい色で包まれることでしょう」と


イロトリドリは神と契約し

色を与える魔法の力を手に入れた


そしてイロトリドリは、世界を飛び回って自分の羽を落としていった


それは、青々とした若草色や
あたたかな優しい桜の色

そして、あの少女が望んだ空の色



次第に世界へと色が与えられ、
人々は色を見ると言う喜びをもう一度かみしめた


何より喜んだのは少女であった。

あの美しいも空もう一度見られたからだ


その少女は、
美しい空を見上げ感動しているところある鳥がいることに気がついた

それはそう

あの美しいと世界で話題になったイロトリドリである



だが、
少女は鳥のことを見て別の涙を流した

それはすっかり自分の羽を落としてしまい、もうスカスカになった羽でギリギリの状態で飛んでいる

鳥の姿があったからだ



鳥が持っている残りの羽の色は元の白い羽が数本生えているだけで、
美しい世界に自分の羽をほとんど捧げてしまっていたのだ



そんな状態の鳥のことを見て
少女は鳥を捕まえ、優しく抱きしめた


「もう一度美しい空を見させてくれてありがとう」と

鳥を抱きしめる少女の姿を見つけた周りの大人たちは、2人のことを取り囲んだ。


「君はもしかして前の美しかった鳥じゃないか?」と

「すっかり色を落としてしまって…また世界に色を戻してくれたんだね。
それも前よりも美しい色で」

色を独り占めした反省と、喜んでくれている人間たちを見て鳥は安堵の涙を流した


だが、鳥の体はもう動くことが厳しく
少女の腕の中でぐったりとうなだれてしまった


人々はどうにか、最後だけでもと

「もう一度この世界の色を楽しませてくれてありがとう」

「鳥が落とした世界の色は、前の色よりも美しかった」
と言う感謝を伝えた


それは本当にその通りであった

元の世界の色よりも、
イロトリドリがもう一度落とした世界の色の方が美しいものばかりだったのだ



その感謝の言葉を受け取り、
鳥はにっこり微笑んだ

人間たちは口々に感謝を口にした


そして少女はもう一度抱きしめ
「ありがとう」と言い、美しい涙を流した

その1粒が鳥の羽へと落ちた
瞬間のことである


鳥の羽が次第にたくさん生えてきて
美しい白鳥の姿へと変わったのだ



その姿は、羽の抜けきった弱々しい鳥の姿とは違い、
まるで伝説の白鳥のような姿になったのだ


そして白鳥になった鳥は気がついた。

「一色しかなくても、こんなにも美しい姿になることができるのか」

と。色のない鳥は
色があるからこそ美しいと
たくさんの色を持っているからこそ美しいとそう信じていた。


だが違ったのだ。

美しさと言うのは、ただ色が多くあれば良いと言うわけでもない。
独り占めしてもいいと言うわけでもない。



1つの色であってもその自分の姿をいかに大切にすることができるか。
それが神の言った色を持つ責任なのであった


そんな美しい姿を見て、人々はもう一度鳥のことを大切にし始めた。

そしてこれからはその白い美しい羽を見せてくれと伝えた


しっかり色を取り戻した世界と
自分の白い羽を大切にしようとした白鳥。



この世界は優しく温かいものになった



一色でも美しいと言うことを知った白鳥は悪魔の泉へ訪れた

そして真っ黒な悪魔に言った。 


「あなたは色を1つしか持たなくて、色を吸い取られることを恐れてなかった。

そして何よりも自分の一色しかない真っ黒な色を哀れんでいた」



そう言われ、眉をひそめる悪魔

続けて白鳥は言った。
「そんな哀れむ必要ないのです

あなたのその黒い肌は美しい。

自分だけの一色をもっと大切になさってくださいと」



そんな言葉をかけられたことなかった悪魔は思いがけず涙してしまった。


悪魔は自分の肌をもう一度見た。

その肌は生まれながらのやはり真っ黒な一色。



自分で好きとは言えないような色であったが、
白鳥の美しい一色を見て思った


もしかしたら自分にしかないこの黒は
美しい色なのではないかと


あまりにも自信に満ち溢れた白鳥の姿を見て、そう思えるようになったのだ

そして悪魔は言った

「…お前のことをイロトリドリにして悪役にしようとしていたが

一色を愛する。一色でも美しいと言うことを俺は見逃していた。」


真っ黒な悪魔と真っ白な白鳥は互いに美しい姿を褒め合い世界を飛び回った



その白と黒の2人の飛ぶ姿は
美しい色を取り戻した人間たちが見ても、これ以上なく美しいものであった


あとがき
イロトリドリと言う鳥がも空いて、世界から色を吸い取ってしまったら、
どんな世界が訪れるのだろうと言う妄想から生まれたお話です


目が開いて色が認識できるうちは、
この世の様々な美しいものを見続けたいと思います

最後まで読んでくださりありがとうございました

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