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読んでない本の書評61「その女アレックス」

241グラム。表紙の絵が怖い。怖いので裏返しにして視界に入らないようにしておく。それでも怖い汁が空気中に染み出るような気がするので、夜は部屋の外に置いたりする。いい年して何をやっているのか。

 朝からすごい勢いで雪が降っていたのである。この様子では積もり具合をみながら、暖かい部屋と寒い外を出たり入ったり何回かにわけて雪かきをしなければならないだろう。そういう日にむくのは、少々疲れても、眠くなるすきが一切なさそうな本である。

 表紙の通り陰惨な感じで話ははじまる。昨日も陰惨な連続殺人のノンフィクションを読んだばかりだった、このままダークサイドに落ちたりしないかなあ、と邪念をもちつつ読み進める。
  読めばよむほど印象がすべて変わっていく。登場人物についての印象も、起こっている事柄に関しての印象も、「おや?おやおや?」と思っているうちにあらゆる印象は変わり続けていく。

 雪はだいぶ降り積もっているし、そろそろもう一回除雪しておかないと明日の朝面倒なことになる。それはそれとして、アレックスは、いったい誰なのか。 物語がアレックスの主観から始まってるのにここまできてアレックスが何者なのかがまださっぱりわからないというのはおかしいのではないか。被害者なの?加害者なの?…からの、被害者なの?誰?

 そもそも帯によると「2015年の本屋大賞1位 空前絶後の七冠」なのだそうだ。そこまで面白いとわかりきってるならもう読まなくてもいいんじゃないか、などと思ってしまうほどひねくれた性格だ。
  それでも手に取ったのはきっかけがある。いつだったか、ぼんやり流していたラジオで、久米宏がほとんど脈絡ないタイミングでいきなり「あれはえらい面白い本で…」と、いきなり一言だけ触れたのを小耳にはさんだ。あえておすすめの本というのでもなんでもなく、妙に雑な感じで一言だけ思い付きのように触れたあの言い方がどうも妙に引っかかる。あまり丁寧に中身について触れたくはないが人に言いたくなる面白い本。どんなものだろう。

 そうして、誰だかさっぱりわからないアレックスの渾身の人生に引き寄せられつづけた挙句、家は深夜までにすっぽり雪に埋まってしまった。明日の朝は、埋まった自分を掘りかえすことから始めなければなるまい。
 大雪の日に読む本には、条件がある。眠くなりにくいことと、面白すぎないことだ。

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