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'Please ikkai!' -2歳児の発言でバイリンガル教育を改めて考える

インド人の子供が発した'Please ikkai!' 

わたしより半年遅れで入社したインド人の同僚女性には、2歳の娘さんがいる。ご主人とは出身地の言語で会話し、娘さんには夫婦そろって英語で会話をしている。そして娘さんが通う保育園では、先生たちと日本語でコミュニケーションを取っているという。成長するにつれて気になることは沢山あるけど、娘さんの言語の発達が特に心配だと話してくれた。
「保育園に行くようになって、全然使っていなかった日本語を覚えてきたのはいいんだけど、今は英語と日本語がごちゃまぜになって娘が言っていることがよくわからないのよ。最近一番驚いたのが、Please ikkai!だったの。」

少し考えて「Please ikkai? もう一回やってを言いたかったのかな」と答えると、「わかるの?」と逆に質問された。「うん、伝わるよ」と言った。同僚は「日本語と英語がこんなにごちゃまぜで、先が思いやられる」と不安そうな表情をしていた。
「ねえ、そんなに悩むことじゃないよ。だってまだ2歳でしょ?日本人の子供でも、日本語でしっかりとした文章で会話なんて出来ないよ。2歳の子がもう一回やってを伝えたくて、自分なりに考えてPlease ikkaiになったんでしょ。二歳にしては十分バイリンガルだよ。まだ小さいんだし、保育園で日本語に慣れてきた証拠だよ。心配しなくて大丈夫だよ。」と話すと、同僚は「そうだね、まだ2歳だもんね。」と安心したように答えた。このインド人同僚のように、日本で子供を育てている外国人から「出来るだけ、日本語を覚えて欲しい」という希望をよく耳にする。理由を尋ねると「大学進学や就職で有利になると思う」と、日本人でバイリンガル教育を希望する親とあまり変わらない発言をしている。

「日本人だから、日本語は出来るよね」

老舗組のインター(創立100年を超えているインター)で以前勤務していた時に、我が子をバイリンガルとして育てていた保護者と話をする機会が沢山あった。印象に残っているのは、「自分もバイリンガル家庭で育った」という保護者は数人。国際結婚やご主人の転勤に伴い、海外の現地校に子供を入学させたことで、子供をバイリンガルとして育てるようになった保護者がほとんどだった。

子育ての先輩たちから色々話を聞いて、「バイリンガル教育をしたことない人に、日本人なんだから日本語は出来るんでしょという言葉に、どう答えていいかわからない」という言葉が印象に残っているの。インターの高校生は日常会話レベルの日本語(買い物や公共交通機関での移動等)なら大丈夫だけど、日本の学校に通っている高校生と比べたら日本語の理解力は劣ってしまうケースが多い。特に漢字の読み書きを苦手とする子が多い。
「親としては、両方の言語をバランスよく理解して欲しい。ただでさえ学校での英語の授業で大変だし、思春期の難しい年頃の子に、日本語の学習を押し付けてしまうとやる気が失せてしまう。大学進学で親元を離れた時に、子供自身が日本人としてのアイデンティティをどう受け止めて、日本語とどう向き合うのかを子供とも話し合っている」とも話してくれた。日本の教育を受けてきた親世代と、海外の現地校やインターで教育を受けてきた子世代は、日本人としてのアイデンティティに対する考え方が違う。こういうすり合わせを、家庭内で普段からしていくことが大事なんだなと感じた。

インターは英語で学力をつける場所

日頃からバイリンガル教育に興味がある人や憧れを持っている人から受ける違和感として、「インターに入れれば、黙っていてもバイリンガルになるんでしょ」という思い込みだ。あくまでも、インターは英語で学力をつける場所。英会話を学ぶ場所ではないのだ。英語の理解力が同年代の子に比べて低い子は、放課後にESL(English as Second Languageの略で、英語を母国語としない人が第二言語として英語を学ぶ)クラスに出席して、授業についていく努力をしないといけない。日本語の授業は「国語」でない。授業のほとんどは英語だから日本語の学力を高めたかったら、保護者も継続的に努力をしていくことが大切だ。特に漢字の読み書きは、出来ないより出来た方が先を見据えた時に有利になる。

日本の公立でも私立でも勉強を学校任せにすると、子供の学力はなかなか伸びてこない。それと同じでインターに入れた場合、保護者が子供の語学力を学校任せにすると、英語も日本語も中途半端になってしまう恐れがある。
Would it be beneficial or a burden? バイリンガル教育が、我が子の将来にとって有利なものとなるのか?重荷となってしまうのか?答えがすぐに出ない分、子供のアイデンティティを観察していくことと、子供の考え方とのすり合わせが大事だとインド人の2歳児の'Please ikkai'で、改めて考えさせられた。




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