全寮制校という選択
母親目線の進学先候補
息子がこの数か月、出来るだけ避けている言葉がある。「受験」、「受験生」という言葉だ。その言葉が周囲の大人から出るたびに、「ちょっとタブーですね」「NGワードです」と、冗談交じりでも避けているのがよくわかる。「受験なんて、大人はみんな一度は通る道なんだよ」と、イラっとしてしまうわたし。
エンジンがかかっていない息子を横目で見ながら、母であるわたしは息子の進学先となる学校をコツコツと調べている。「母親目線で進学先候補」として、去年から考えているのが「全寮制校」。昨夏、少しだけ学校や地域の様子を知ることが出来た。自宅への帰路、お互いの口から出たのは「行ってみて良かったね」という言葉だった。
周囲に全寮制校の話をすると、大抵の人が驚く。なかには「あんなに大切にしている息子なのに、わざわざ遠い場所に行かせるの?なにがあったの?」と、大げさに質問を投げかける人もいる。
10か月近く大事にお腹の中で育てて、17時間以上かけて産んだ息子。
この10年はひとりで育ててきた。
晴れの日も雨の日も、悲しい時も苦しい時も、息子と向き合ってきた。
息子が生まれる前から、そして生まれてからも「大好き」とずっと言ってきたし、体を張って守ってきた。
とても愛しい存在だけど、グダグダでだらしない生活態度を見つめ直してほしい。自分で考え行動することを、今以上に学んでほしい。
可愛い子だから、旅をさせたい。
今まで10数年、息子に愛情を注いできた。たかだか来年から3年くらい離れたくらいで、わたしと息子の絆が変わるわけないよ。
そう反論すると、相手は口ごもってしまう。大げさで、かつ否定的な意見を投げかけてくる人の気持ちは、よくわかる。かつてはわたしも、そちら側の人間だったからだ。
なんで全寮制校に入れるの?
息子を身ごもる前、わたしはインタナショナルスクールで働いていた。高等部校舎の一角にオフィスがあったから、生徒だけでなく保護者とも話す機会が沢山あった。夏休みが近づいてくると「○○は、親の転勤で本国に戻る」、「△△は別の国に引っ越す」と次年度の生徒情報があちこちから聞こえてきた。そのなかでも生徒数名が「本国の全寮制校に転校する」という情報を聞いた時は、しばらく驚きを隠せなかった。
全寮制校、つまり親元を離れる。転校するXXとか、〇△とかって、かなりお母さんが子供の世話を焼いている感じだけど、随分思い切った決断だな。。。え、大丈夫なの?なんで、そんな決断したのかな?
当時のわたしは独身、子供なし。寮生活をさせる決断に関しては否定的だった。「あと2,3年したら大学に行くんだし、わざわざこの時期に寮生活をさせる必要があるの?」と、手放しで賛同出来なかった。
全寮制校に転校する子たちは、親との関係は良好そうだし、素行が悪い印象はない。何日か経つと同僚経由で、全寮制校に転校を決めた詳しいいきさつが伝わってくる。
今の環境も良いかもしれないけど、ひとりの人間としてもっと成長してほしい。そのためには環境を変える必要がある。全寮制校で今まで以上に自分と向き合って、精神的に大人になってほしい。そういういきさつを聞いた時、今まで見えてこなかった保護者達の思いが何となく見えてきた。
その思いが見えてきた時に、自分自身の経験が甦ってきた。短い期間だったけど、アメリカで言葉や文化、習慣が違う人たちと暮らし始めた時、面倒くさいこと、いら立つこと、悲しいことが沢山あった。そういう時は決まって、「親と一緒に暮らしていた時は、こんなことはなかったのに。」と思っていた。時が経つにつれ、少しずつ時間の管理や問題の対処を学んでいる自分に気づけた。そして、自分なりに心の成長を感じた。
息子にずっと望んでいること
この数年であっという間にわたしの身長を追い越し、気が付けばわたしより10センチも高くなった息子。そして彼の身長がまだまだ小さかった時から、わたしが望んでいることは「彼の心の成長」なのだ。
いくら体が大きくなっても、心が未熟なままでいて欲しくない。自分の心と向き合うことを恐れないで欲しい。時に辛く投げしたくなることがあっても、自分の弱さに打ち勝ってほしい。
来年の今頃、息子がどこにいるのかなんてまだわからない。息子が遠い全寮制校に行ってしまったら、淋しくてたくさん泣いてしまうかもしれない。それでもわたしは信じている。
息子の心が成長した時、今はぼんやりとしか見えない、彼だけの宝物を見つけ出していくことを。宝物を掴み取る喜びが計り知れないことを。そして彼は、その喜びを経験する価値があることを。