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理由がわからないルール

子どもたちが理由もきちんと説明されずに使われていると考えているルールがいくつかある。理由を説明されているのかもしれないが、納得がいっていないルールもあるでしょう。

例えば頭髪。世界中には金髪も白髪も、茶色の髪の毛も赤髪の人もいるのに、どうして学校では黒い髪でないといけないのでしょうか。髪の毛を染めたら黒く染めさせられたり、ひどい場合は地毛でも染めさせられることもあるそうです。ある生徒は、日本は多数派の意見が通る社会だからだと考えています。少数派は常に多数派に合わせなければ行けない社会。そのようにその生徒は考えているようです。

私はこのように考えます。ただし、この理由で子どもが納得するわけではないし、私自身が納得しているわけではありません。ルールがあるということは、ルールをつくった理由があるわけで、それを考えると、こうなのかなという程度です。

日本がものづくりの国だった時、工場では時間に従い、正確に同じ作業を行うことが求められました。工場で働く労働者の創意工夫を取り入れて成長する企業もありましたが、多くの工場では労働者に個性や考えることは求められませんでした。マニュアルに沿って単調な作業を長時間続けられればよかったので、むしろ個性は余計な存在でした。

また、工場の機械にはプレス機や粉砕機など、挟まれたり巻き込まれると命の危険があるため、髪の毛の長い人は後ろで束ねたり丸めたりしてまとめなければいけなかったり、シャツの裾出しも禁止されていました。

身だしなみのルールがある工場の人事担当者は、面接の際に高校生を選考する重要な基準として、髪型や服装をよく観察したのです。これは、高校の進路指導担当が会社周りをする際に、人事担当者から高校教員に伝えられ、高校での普段の生活指導に取り入れられていくことになります。その際に、本質的ではありませんが、髪の毛の色に関する指導が加わったのではないでしょうか。社会人になったときに工場のルールに適応できるように、学校のルールに従うことを生徒に求めたのです。

そして、学校のルールに従順な生徒は、希望する求人票の会社の面接を受験できるようになります。時間が立つと、頭髪も含めた身だしなみがきちんとしている生徒はいい会社に就職できるという事実が定着し、それが指導の根拠となっていきます。

一方で、衣服や頭髪の乱れは、心の乱れという思想が学校を席巻していきます。衣服や頭髪で個性を表現しようとする生徒は、やんちゃな生徒が多いものです。衣服や頭髪が乱れた生徒が、学校や学級を荒らすということも起こったのでしょう。

以前の高校生の多くが就職した工場で求められるルールと、学校を落ち着かせるための手段としての頭髪指導が同時期に起こり、深化して、現在に至っている。そして、頭髪を自由にすることで、教室が荒れたり、生徒を指導できなくなるのではないかという恐れが、時代遅れのルールを今に残すことになったのではないか。私はそう考えます。

頭髪のルールの一番悪いところは、黒髪でない人が肩身の狭い思いをすることです。それだけでなく、このルールによって、ありのままの自分に自信が持てなくなる人も中にはいるかもしれません。

就職で髪の色が問題になるのであれば、そういうこともあると事実をきちんと伝えて、あとは考えさせればいいのです。就職で髪の色が問題にならない生徒を巻き込むことはありません。

考古学では、昔は機能していても、現在は退化して痕跡のみとなっているものを「ルジメント」(痕跡器官)と言いますが、学校のルールもルジメントかもしれません。

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