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怒らない母のやさしさ

私の母は、とても優しい。

いつも笑っている。

いつも私や妹を抱きしめてくれる。

もう私は27歳になったのに。妹だって、もう24歳だ。

でも、お母さんに抱きしめてもらうと、私はすごく安心する。


お母さんは、くまのぷーさんみたいで、ちょっとドラえもんにも似ていて、ムーミンみたいでもあるし、コジコジのようでもある。


要するに、まるい。


見た目も、中身も。

たぶん、そのまるい雰囲気は、一回見てもらえば伝わると思う。

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ちなみに、私はどちらかというと父に似ているので、あまり母には似ていない。
(この写真の彫刻とお母さんは、似ている気がする…)


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お母さんは、気になるものがあると、こんなふうに、私を置いてさっさと走って近づいていく。そういう子供っぽい無邪気なところも、お母さんのいいところだ。


さて、今日はそんなお母さんが、どんなふうに優しいのかお話したい。

父は、わりといつでも怒っている。

それに対して、母はいつも笑っている。

母に怒られた記憶がほとんどない。



私は、あるとき電車で寝過ごしたことがあった。

降りるべき駅から4駅も過ぎていた。
田舎の4駅は、まっすぐな線路を走る電車でも20分くらいはかかるし、車では40分くらいの距離がある。

しかも、折り返しの電車は、もう最終電車も行ってしまったあとで、私はどうすることもできず、母に電話した。

母は、迎えに行くから待っててねと言ってくれた。

私は、駅の待合室で待っていた。

その頃、私は大学4年生で、ちょうど卒業論文を書いていた。
締め切りが迫っていて、寝不足だったため、電車で寝てしまったのだ。

駅の待合室は、暖房も置かれておらず、隙間風も入り、とても寒かった。

もう夜の10時をすぎていた。
こんな寒いときに、こんな夜遅くに迎えに来させるなんて、さすがにいつも優しいお母さんでも怒るだろうなと思っていた。

私だったら、絶対怒る。
家では、お父さんがかんかんに怒っているだろう。
お母さんを疲れさせるんじゃない!って、絶対、絶対、怒られる。
(父は、毎晩晩酌するから、迎えには来れない)

早く迎えに来てほしいけれど、なんと謝ったら許してもらえるのかわからなかった。

へたに言い訳せずに、もうただひたすら謝るしかないと心を決めた頃、母の車が到着した。

車に乗り込み、私はひたすら謝った。

お母さんの顔を見ると、お母さんは笑っていた。

「ももちゃんは、お母さんに似てねぼすけさんになっちゃったね」と笑いながら、
「さむかったでしょう。コンビニでおでんでも買って食べようね。」と母はコンビニへと車を走らせる。

私は、母に怒られるとばかり思っていたから、ちょっと拍子抜けした。
と同時に、いや、まだこれから怒られるのかもしれないぞと構えていた。

コンビニでおでんを買った。
私は、大根と白滝と、鶏つくね。
母は、大根と卵と牛筋。
私と母は、ほぼ毎回この組み合わせで注文する。

車の中で、二人で一つの器を交互に渡しながら、はふはふと食べる。
コンビニのおでんって、なんでこんなにおいしいんだろう。
おだしが染み込んでいて、家のよりおいしい気がする。

冷えた体に、おでんの温かさが、しみわたる。

おでんを食べている間も、お母さんは怒らなかった。
寒いときに食べるおでんはおいしいねと言っている顔も、いつもどおりのお母さんでしかなく、全然怒っている顔じゃない。

私が、またごめんねと謝ると、
「そんなことはいいけどさ、ももちゃんのおでんも、ちょっと味見させて」と母は言う。

そんなことはいいけどさ、って。

「そんなこと」で片づけちゃっていいの?って、言いそうになる。

まるで、これじゃあ怒ってほしいみたいだ。


おでんを食べ終わって、家へと向かう車の中で、私は母の優しさを感じていた。

母は、怒らない。

たぶん、怒っていないわけではない。

母にだって、怒りの感情はある。

でも、たぶん母が私を怒らなかったのは、私の顔を見て反省していることを感じ取ったからなのだと思う。

私は、母に怒られなくて嬉しかったというよりも、
母が怒らないという選択をしてくれたことがうれしかった。

もう怒ってもなおらないと思って、怒らなかった可能性もあるけれど。
たぶん、そうではない(と思いたい)。


父のように、私を叱る人もいれば、
母のように、私をあえて怒らない人もいる。

私は、そのどちらにも愛情を感じる。



こんなにも愛情をかけて育ってもらったのに、まだ私は何も二人に返せていないけれど。
二人には、いつも心配かけて、迷惑をかけてばかりだけれど。



でも、私は、二人の娘でよかったと心から思う。

私の父と母が、私の父と母で本当によかった。


どうか二人には長生きをしてほしい。

これから、私は二人に恩を返したいから。
二人からもらった愛を、誰かに分け与えるところを見守っていてほしいから。

父は、いつも俺に似てしまって生きづらいだろけど、とか
母は、お母さんが甘えん坊さんに育てちゃったね、とか
言っているけれど、二人に責任はない。


二人のせいじゃないよ、って。

二人のおかげで生きてられるんだよ
って言えるように、もっと胸を張って生きたいと思う。