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甘い休日


最近の私は、ちょっとキャパオーバー気味だった。


新しい仕事も始まり、結婚した先月。

大学院に通いながら働いている私は、修論を書かなければならないのだが、仕事から帰ってくるとぐったりとして、ダラダラすることしかできなかった。

それは、大きな変化に体がついていけないからで、仕事に慣れてもっと頑張ればどうにかなると思っていた。

でも、仕事に慣れるにつれて、任される仕事も多くなり、ますます疲れて何もできない日々がつづいた。


結婚したといっても、職場が実家の近くにあり、夫の家は離れているから、結婚してもこれまでどおり実家での生活がつづいている。

先月、父から実家におさめている生活費の額が少なすぎて情けないと言われた。父はその言葉を取り消してくれたし、私自身も一度に全てをできないことは自覚している。
でも、気づくと、いつもどうにかならないかと考えてしまっている。
少ない給料から捻出するのは難しいからnoteを頑張って書こうか、なにか別の稼ぐ手段はないかと考えていた。

もっと、頑張らなきゃ。

もっと、ちゃんとしなきゃ。

いつのまにかそう思っていて、父が取り消してくれたはずの「情けない」という言葉を烙印のように自分に押しつけていた。


そして、自分の将来がやっぱり少し不安で。
美術館での仕事が始まったけれど、それは今年一年の任期付き。

私が働き始めてまもなく、美術館では正規の職員を募集していた。

しかし、私は、試験を受けないことに決めた。
受けても受かる保証はどこにもなかったけれど、受かったらこれからも夫との別居生活がつづく。夫は、それでもいいと言ってくれていたけれど、これ以上仕事が忙しくなったら、夫と会う時間を作れるのか自信がなかった。

受けないことに決めた、けど、やっぱり少し心は揺れた。

美術館にいると、正規職員と非正規職員の間には大きな壁を感じる。
非正規の身軽さもあるけれど、正規と非正規の間にすっと引かれた線に傷ついてしまうこともある。

やりたいことは美術館じゃなくてもできる、という気持ちがある。
その一方で、本当にそれが私にできるのか、となると怖くなって。

そんな不安がむくむくと膨らんで、こんなことを考えている場合ではない、と思うのにいつのまにかマイナス思考のループに突入していた。



だが、今週末、すこしそのループから抜けた。

私は、4日間の連続した休みが取れたから、夫・ぺこりんの暮らす家に帰った。

お休み1日目。
ぺこりんは仕事だったから、私は家で帰りを待っていた。

夕ごはんを何にしようかなと考えている間、久しぶりに、穏やかな気持ちになった。

ぺこりんが何を作ったら喜んでくれるかなと考えるのが楽しかった。
おいしいって言ってくれるのを想像するだけで、笑みが溢れそうになる。


そして。

私は、もうしあわせだったんだと気づいた。


もっと頑張ろう、と思うその先にあるのは、たぶんもっとしあわせになりたいという欲があるからで。

でも、私は、もうすでにしあわせだ。

もっと、もっとって思わなくてもいいんだ。
そう思ったら、すごく楽になった。


私は、いま本当は満たされているのだ。
誰かと比べて、自分の欠けているところを見つけようとしなくてもいい。

私は、好きな人においしいごはんを作れたら、もうそれで十分だ。


欠けているところを探して、ハングリー精神を剥き出しにするのはやめた。

その代わり、満たされていることを感じよう、と思った


その日の夕飯は、とても美味しくできた。

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なめたけ豆腐と、アジのなめろうと、アジフライの甘酢がけ。
えのきをくつくつ煮て作ったなめ茸は、市販のものよりやさしい味がする。
アジはお刺身を買ってきて、半分はなめろうにして、半分は揚げた。

ぺこりんは出張土産にシュウマイを買ってきてくれた。

居酒屋さんみたいなメニューを、二人でおいしいねと言って食べた。


次の日は、ぺこりんもお休みだったから、二人でおそろいの自転車で出かけた。

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私たちは車を持っていないので、晴れの日は自転車で、雨の日は歩いて出かける。

温泉に行くまでも、温泉から帰ってくるまでも、自転車を漕ぐのに疲れたけれど、久しぶりに体を動かしたら、それだけで心地よかった。

夜は、『マイ・プレシャス・リスト』という映画を観た。


私たちは、映画の真似をして、今後やりたいことのリストを作った。

ぺこりんは、「チョコレート工場に行く」と書いていた。
私は、「ワイナリーに行く」とリストに書いた。


その次の日は、お弁当を作って公園に行く予定だったけれど、雨が降っていたから、予定を変更して、私たちはピザを作ることにした。

ピザづくりの材料を買いに行ったのに、ケーキ屋さんの前を通りかかり誘惑に負けて、おやつを買ってしまった。

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でも、ちゃんとピザも作った。

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私は、マルゲリータをつくり、ぺこりんは長いピザをつくって、ピーザと呼んでいた。

二人でピザとピーザを作ったあと、ぺこりんはスコーンを作ってくれた。
私が食べたいと言っていたからだ。


夜には、映画『フォレスト・ガンプ』を観た。

ぺこりんは、しあわせを掴もうとしない女の子の気持ちがよくわからないなと言っていたけれど、私には、なんとなくわかる気がした。

愛されること、しあわせになることって、ちょっと怖いのだ。

自分にはそんな資格があるのだろうかって問うてしまう。

しあわせなルートを選べずに遠回りする女の子の気持ちが想像できるのは、私が女性だからというより、私もそういう思考回路に陥りやすいからなのかもしれない。


そして、今日は晴れたから、スコーンを持って、公園まで出かけた。
ティーカップを持っていこうよ、とぺこりんは提案していたけれど、私は割るのが怖いから却下した。

フリスビーも持っていったけれど、暑いから、ただスコーンを食べて帰ってきた。

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公園でおやつを食べて帰ってくるだけの、小学生の放課後みたいなデート。

そんなかわいらしいデートを楽しめるぺこりんが私の夫なのだ。


「人生は食べてみなければわからないチョコレートの箱と同じ」
とフォレストガンプは言っていた。

私は、自分の人生をビターな味にしてしまいがち。
でも、ぺこりんは、私の苦い感情も甘くしてくれる。

苦いばかりじゃ、つらい。
だけど、甘いばかりでも、つまらないかもしれない。


それなら、人生の酸いも甘いも、味わい尽くそうではないか。

と、いまの私は思う。


自分の人生がどうなるかなんてわからないけれど、

私の人生は、ぺこりんに出逢えた時点で満点なのだ。


ぐるぐる考えても答えの出ないことは、とりあえず置いておいて、私はいまを楽しく生きようと思う。


今夜は、よく眠れそうだ。

おやすみなさい。

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