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【えっ、僕が女性用下着を・・・?】「自分と関係ない商材」のマーケティングで得た学び

今回は、「自分と関係のない商材」のマーケティング経験を振り返り、学びを言語化してみることにした。

自分は今でこそ愛着のある自社サービスをマーケティングしているが、クライアントワークをしていた時代はそうではなかった。それまで生きてきて接点のなかった商材の案件が次々に舞い込んできて、右往左往していた。

一般的に、マーケティングは「自分がリアルターゲットの商材」の方が顧客理解が楽で、力を発揮しやすいと思う。しかし、今思い返すと「自分と関係のない商材」は扱いが難しい分、学びが多かったとも感じており、思いがけず担当した案件を振り返ってみることにした。


男性なのに「女性用下着」を担当

自分がまだ新人の頃、某・女性用下着ブランドの担当にアサインされたことがある。10代〜20代前半をターゲットにしたフリフリ&キラキラな世界観だったので、えっ、僕ですか?とかなり困惑したことを今でも覚えている。

人生初、サニタリーショーツを触る

自分は下ネタも苦手ではないタイプだが、クライアントの若い女性社員と大真面目に下着の話をするのが恥ずかしく、苦手だった。

新商品の展示会にお呼ばれすると、「このサニタリーショーツのクロッチの厚みがこだわりなんです、触ってください」「ほ、ほぉ〜・・・(さわさわ)」みたいなやりとりが毎回発生するのだが、23歳の自分には不慣れすぎた。
しかも帰り際に「彼女さんにどうぞ」とお土産を渡されて、いやいや、え、彼女にサニタリーショーツプレゼントする彼氏おる?みたいなこともあった。

慣れないうちに担当を外される

結局、この案件は大した結果も出せないまま担当を外されてしまった。仕事と割り切れずにモジモジ恥ずかしがっていたことも悪かったが、そのせいでいつまで経っても芯をくった戦略提案ができなかったことが問題だった

まず一つには、10代の女子が何を考え、何を求めているのかについて、理解の解像度を高められなかった。自分が立てたコミュニケーション戦略が大きく間違っていたとは思わないが、「10代女子の心を動かせそうなリアリティ」が圧倒的に不足していたと思う。

もう一つは、自分が男性というだけで「アンタに下着のことがわかるの?」とクライアントの目が厳しくなるのが難しかった。若い女性がプレゼンすればそもそも発生しない問題なだけに、自分が担当することに虚しさを感じてしまっていたかもしれない。

自分はそれまで担当を外される経験がなかったので、下着案件の失敗はほろ苦いプチ挫折だった。

飼ったことがないのに「キャットフード」を担当

その後もウォーターサーバー、シニアの肌着、美容サプリなど、土地勘のない案件が舞い込んで来るたびに悪戦苦闘していたのだが、自分の中でブレイクスルーがあったのは3年目の時、とある高級キャットフード案件だった。

自分は生まれてこのかた犬猫を飼ったことがなく、当然ながらキャットフードのことは何もわからない。かつての下着案件に匹敵する「全然わからん案件」だった。しかも他社との競合案件&自分がメインプランナーだったので、逃げ場のない状況に追い込まれた。

初手、猫を飼う

これはもうやるしかないと思い、自分がアサインされて最初に取った行動は「猫を飼う」ことだった。猫を飼っている近所の飲み友達にすぐさま連絡をとり、1週間ほど住み込んで猫の世話をさせてもらった。

猫からすれば大迷惑だったと思うが、幸い社交的な性格だったので割とすんなり自分の世話を受け入れてくれた。猫の健康管理や食べ物に関する基礎知識だけでなく、飼い主として「命を預かる心構え」のようなものを体感できたのが貴重だった。

実際のところ、キャットフードのブランドスイッチは自分が想像していたよりも勇気のいる決断だった。猫は基本的に同じキャットフードをずっと食べるので、キャットフード選びは猫の寿命や人生の幸福度に直結するらしい。

しかも高級なキャットフードを一度食べさせると元のものを食べなくなる可能性もあり、人間のように気軽に試食できるものではなかった。飼い主の友人もキャットフード選びには慎重姿勢だった。

ホームセンターでマダムと話す

また、打ち合わせの合間を縫ってスーパーやホームセンターのキャットフード売り場を回った。売り場や什器を視察するだけでなく、キャットフードを買いに来た客に相談する体でヒアリングをした。

ヒアリングで聞いたキャットフードの購入時重視点も当然役に立つ情報だったのだが、それよりも気づきが大きかったのは「愛猫家」の生態についてだった。

まず、猫のことを「猫」と言うとむっとされる。正しくは「猫ちゃん」だ。また、互いの猫を見せ合って褒め合うまでが一連の挨拶なので、スマホの待ち受け画面を飼い猫にしておかなければいけない。当初、画像を用意せずに声をかけると怪訝な目を向けられたものだ。

競合プレゼンで勝利

そんなこんなで(肝心の提案内容はすっかり忘れてしまった)、競合プレゼンは無事勝利した。

実際に猫を飼った上でのプレゼンは説得力があったし、店頭で出会った愛猫家マダムのエピソードはウケた。クリエイティブもターゲットを動かせそうなリアリティがある程度あったと思う。

その後も相変わらず、料理をしないのに調理家電の案件が来たり、ペーパードライバーなのに自動車の案件が来たりしたが、以前のような苦手意識はなくなっていた。

経験を通じて学んだこと

①「自分と関係のない商材」担当の非効率さ

そもそもの話になるが、やらずに済むのであれば「自分と関係のない商材」は担当しない方が良いことを痛感した。ターゲットの人にとっては当たり前のことを理解するためにめちゃくちゃ労力を割くことになるので、効率の悪さを感じずにはいられない。

同様に、転職する人は自分に馴染みのある業界やサービスを選ぶべきだし、マーケティングを外注する人は自社事業に全く馴染みのない担当者がつくことは拒否するべきだと思う。

②「足で稼ぐ情報」の価値の高さ

自分が学んだ愛猫家の思考やインサイトは、デスクリサーチで得られる性質のものではなかった。顧客理解=人の理解である以上、文字では表現しきれない無数の情報が存在しており、それらを得ることがプランニングの説得力や成功確率を高めると感じた。

情報を「足で稼ぐ」ムーブは、デスクリサーチに比べると手間が多い。ECのレビューやSNSで声を拾えば定性情報は十分だ、情報収集に時間をかけるよりさっさとテストしよう、など、インプットをサボりたくなる口実は色々ある。

特に自分は営業職が嫌でマーケターになった経緯もあり、知らない人と積極的に話すことに後ろ向きだった。マーケターは内向的な人が多い(よね?)ので、自分と同じように感じる人も多いのではなかろうか。

それでも、定性的な情報、特にオフラインで得た情報は、戦略のクオリティに直結するので省けないプロセスだった。顧客と対話する機会のないマーケターの人には、情報を足で稼ぐことの大切さを声を大にして伝えたい。

③「感覚的に良い提案」を作る重要性

女性用下着のときは「提案内容が良ければ誰がプレゼンしたっていいじゃないか(男女差別だ)!」くらいに思っていたが、やはり「誰が語るか」はコミュニケーションの要件の一つだ。

クライアントへの提案然り、ユーザーコミュニケーション然り、感覚的に、かつ瞬間的に「良い」と感じられる提案でなければ、人を動かすことは難しい。「なんか違うな」という印象を理屈でねじ伏せようとしても、あまり良い結果にはならないだろう。

そして、感覚的に良い提案とは、「顧客」の感覚である必要があるので、顧客理解は思考をトレースできるレベルが望ましい。今思えば、クライアントは自分の顧客理解の浅さを感じとっていたと思うし、自分もその疑念を晴らす材料を持っていなかった。

これは事業会社に転職してから特に感じることだが、自分が直感的に「良い」と感じたマーケティングコミュニケーションは、成功することが多い。「感覚」には言語化できない情報もたくさん含まれているので、言語化されたロジックよりも信頼度が高いのだと思う。


こうした学びはどんな商材のマーケティングにも共通すると思うが、顧客理解に労力がかかる案件だったからこそ痛感することができた、ということかもしれない。思い出話は以上。


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