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野間秀樹著『K-POP原論』はじめに 先行公開! KPOP、その感動の秘密へ!

2022年12月1日,出版社・ハザ(Haza)より刊行予定の,野間秀樹著『K-POP原論』の〈はじめに〉を先行公開します.
〈目次〉はnoteの別の記事でご覧いただけます:

 
https://note.com/noma_h/n/n39508422807e

*原文は縦組みです.本記事では原文に付されている振り仮名を削除しています.そのほか,本記事と字句の異同があり得ます.

はじめに

本書はK-POPを〈Kアート〉として愉しみ尽くす本である。 
 
 〈アート〉と呼ぶのは、K-POPの作品たちが今日、もはや狭い意味での〈音楽〉としての造形に留まらず、〈声 + 詩 + 音 + 光 + 身体 ……〉から成り立つ、優れて総合的な造形となっているからである。
 具体的には、YouTube(ユー・チューブ)上のMV(ミュージック・ビデオ)などの動画を中心に、言語と美学の観点からK-POP(ケー・ポップ)をこれでもかとばかりに、共に愉しむ。入門の前段階の方から入門なさった方、またよろしければ、達人の方もどうぞ。

〈アート〉と呼ぶけれども、本書の目指すところは、すました芸術論に閉じこもるのではなく、いわゆるポップ・カルチャーとしてのアートの彼方までしなやかに、そして豊かに開かれている。あんまり大きな声で言うと、叱られてしまうので、ここだけの話だが、実はファイン・アート(純粋美術)と呼ばれる分野こそ、しばしばポップ・カルチャーに嫉妬してきたのであった。その嫉妬を公然と形にしたのが、ポップ・アートであった。
 芸能論、メディア論、ジャーナリズム論、社会学、経営学、経済学、政治、そして〈推し〉のアーティストへの愛、といった観点からの、K-POPの本やネットのサイトは、世に、もうたくさんある。YouTube動画の形で語られるK-POP論も、膨大な数が日々発信されている。
 例えば、〈絵画〉を語るのに、画家の人生や、画家への愛といった観点、あるいは画商の観点、また美術資本の観点、はたまた政治的、宗教的、社会的な観点などなど、絵画の周辺の様々な観点から語ることもできるけれども、絵画作品そのものについて語ることも、当然あって良い。というより、むしろ絵画の周辺をいくら語っても、絵画そのものを見たことにはならない。K-POPも同様である。

本書はお金や集計表だけでK-POPを見る本ではない。
 ましてやしばしば遭遇する、何かと言うと、「韓国はぁ」とか「日本はぁ」などといった「国」を振り回す、〈隠れ国家主義イデオロギー〉に染まりきった語りとも、無縁である。
 「K-POPは国家主導で繁栄した」とか、「K-POPは政府のてこ入れがあったから成功した」などという言説も、この〈隠れ国家主義イデオロギー〉の一変種である。アートのリアルを見ない、ほとんど一顧だにする価値もない言説なのだが、念のために一言だけ言っておこう――国家は詞を書いてくれたりしないし、曲を作ってくれもしない。ファンとの交流に心を砕いたりもしてくれない。国家は歌えないし、踊れないのである。「会議」なら踊るかもしれないが。
 「K-POPは金をかけて作っているから」といった言説も、一見正しそうに見えて、実は大切なところを見失う。何よりもK-POPが胎動しようとしていたとき、韓国では皆、豊かではなかった。一九九七年のいわゆるIMF危機では国家さえもいわば破産していたのである。産みの苦しみは尋常ではなかった。始まりを見据えることができなければ、現在も、未来も、見切れない。
 ついでに言えば、「ファン戦争」や「ディスり合い」などと呼ばれる事態も、実のところ、ファンダムを利用した、資本主義的搾取の地雷原である。本書はこれもお断りだ。

本書は絵画論に喩えるなら、絵画そのものを見る本、つまりアーティストたちやクリエイターたちが心血を注いで造り上げたK-POP作品を貴び、そのど真ん中を愉しむ本である。この点で既存の多くの言説と大きく異なる。
 K-POP MVをアートとして見据えるための視座は、次の二つに要約できる:

   (1)言語学的な視座
   (2) 美学的な視座

 K-POP MVをアートとして見据えるということについては、第一講で触れる。最初に、「言語と美学」と書いたけれども、実のところ「言語」と「美学」は「と」という助詞を用いて、同じ平面で並列できるような概念ではない。本当は(1)と(2)にも見えるように、「言語学と美学」くらいに呼ぶ方が落ち着く。しかしいきなり「言語学と美学」と書かなかったのは、たとえば中学生や高校生の方々にも、ぜひ気軽に本書を開いていただきたいという、願いからである。
 「言語学とか美学ってのは何?」などという悩みはまずここで粉砕しておこう。「言語学」は〈言語、ことばについての学問、思想〉である。一例として、〈なぜ韓国語のラップは刺さるのか〉といった問いを解く重要な秘密が、言語そのものに隠されていることなども、言語学によって明らかになる。
 「美学」はここではごく柔らかに〈アートについての哲学、思想〉程度に思っていただければよい。ことばと声、音と光と身体に及ぶその美学の内実は、それぞれの〈Kアート〉と向き合うことによって、さらに具体的に明らかになってくる。このあたりは、本書のいわばサビかもしれない。

読み進めていただければ、今日のファンタジー論やゲーム論や文学論などで時に出会う難解な書物よりは、はるかに易しく、そして優しく、書いてあることが、解るだろう。
 恐縮だが、稀に、思わずK-POP愛が炸裂してしまって、筆が迸ってしまうかもしれない。そうした場合に、とりわけ〈推し〉への思いを日々抱いておられる方々であれば、思わず弾けてしまった筆も、「よしよし、愛い奴じゃ」と、お心広く、お許しくださるに違いない。

いろいろな分野にわたって言及するので、読者の方々それぞれの関心の方向によっては、見慣れない分野の事項に触れることにもなろう。そんなときは、一々ネットで検索などせずとも、読みながらその場で解決できるよう、丁寧に注を付している。

また、本書は既存の多くの読書体験と異なるだろう。それは:

   QRコードによって希望する動画へ、一瞬で跳べる

からである。QRコードをスマホにかざせばOKだ。読み進めながら、どんどん動画へと散歩していただいて構わない。ふと思い出したときに、本書へと立ち戻ってくださればよい。しばしば動画から本書へ戻れなくなるかもしれないけれども。なお、MVは可能な限り、大きな画面でご覧になることを、お薦めする。今日のMVはそうした造りになっている。本文で言及し、QRコードでリンクを示したMVは、150本である。

巻頭には全体像を視覚的に把握できるよう、〈歴史地図〉を付した。本文には、K-POPが全く初めての方のために、〈前奏〉という名の、ごく短い章をイントロとして付してある。巻末に、本文で言及しきれなかったMVなどを、読者の方々の関心別に〈願望別MVリスト〉として分類し、400本ほどのタイトルを収録した。それらとは別に、詳細な索引を装塡していることは、言うまでもない。
 気がついたら、K-POPだけでなく、言語学や美学の愉しみの門にも、ちょっとだけ足を踏み入れているかもしれない。

「中学生や高校生の方々」と書いたが、もちろん人生の達人の方々こそ大歓迎である。なぜK-POPが世界で共感されているのか、齢を重ねた方々には、それこそ、ご自分の音楽体験史、アート体験史と照らし合わせながら、じわじわーっとお解りいただけよう。そして人生の新たな友に出会うことにもなろう。
 かくして、K-POP入門以前の方も、入門して間もない方も、いわゆる〈沼落ち〉なさって、どっぷりはまっておられる方も、そして既にご卒業なさった方も、きっと新たな視点で、K-POPに心をときめかせることができると、信ずる。

声とことばと音と光、そして身体が織りなす、至福なるK-POPの宇宙で、地球上が平和であって、言語や美の歓びを慈しみながら、胸も高鳴るような幸せが、読者の方々に満ち溢れんことを。

野間秀樹

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野間秀樹 著『K-POP原論』の目次 先行公開!|noma hideki|note


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*「スキ」など
いただければ,最高の歓びです.


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