松好庵を未来の世代につないでいく【15代目上林春松さんインタビュー】
350年以上の歴史がある松好庵(しょうこうあん)というお茶室を知っていますか?
豊臣秀吉から「御茶師(おちゃし)」として重用されていた上林家の敷地に
あった松好庵。
現在、宇治・上林記念館にある松好庵は一般公開されていません。
この度「たいせつアーカイブス」に協力していただき、お目にすること自体、大変貴重な松好庵を3Dデータとして残すことになりました!
(松好庵の3Dモデルは本記事の末尾に掲載)
第十五代 上林春松さん
江戸時代、御茶師の中で最高の位である「御物御茶師」(ごもつおちゃし)として幕府や諸国大名の庇護を受けてきた春松家の第15代目上林春松さん。
今回、松好庵の3Dのデータを残すにあたって上林春松さんが残していきたい想いとは何か。
インターンシップ生の籔内がお話を伺いました。
※本記事は2023年9月にインタビューしたものです。
松好庵で残していきたいもの
松好庵は約350年前、徳島県阿波の蜂須賀家のお殿様が参勤交代の時に宇治に寄って、一日お茶を飲んで遊ぶために建てたと言われています。
その後、松好庵には何が起こったのでしょうか。
籔内:当時の松好庵にまつわる書物や記録は残っていますか?
上林さん:約250年ほど前に宇治の大火災というのがありまして、かなり大きな領域で消失してるんです。
もうこの屋敷で残っているのは松好庵だけと言われていて、おそらく何らかの日記やメモ程度はあったとは思いますが、残念ながら現在は残っていません。
籔内:昔の物は消えてしまったら元に戻すことはできないですよね…
上林さん:はい。ですから、いつ建ったのか正確な年もわからないんです。
籔内:上林さんとして今、残していきたいものはありますか?
上林さん:木造建築ですね。特に日本家屋っていうのは残していくのがすごく難しい。木で作られていることによって何回も傷んだところの修復がありました。
最近、経験したことのないようなゲリラ豪雨が降ったことで、おそらくずっと残ってきた部分がちょっと傷み始めているんですよ。そういうところの修復というのはこれからの課題かなと思います。
それは私が生きてる限りは、きちんと出来るだけ当時の姿のまま残していきたいです。
上林さんにとってお茶室の意味とは
お茶室*には数多くの作法があります。作法には一つ一つに相手を想いやる意味があり、その意味を知れば難しくはないと上林さんはおっしゃっていました。
籔内:松好庵にお客様をお迎えする際はどんなことを心がけていますか?
上林さん: お茶もそうなんですが、例えばしつらえ。「春松せうは値千金の御茶師哉」という掛け軸が飾ってあるんですけれども、初めてお茶室を訪れる方にそれを見てもらうと「すごく立派な茶師ですね」と言われます。そういうことを「あぁ…」と感じ取ることができる。
お茶が美味しいだけではなく、その最初から最後までが作法であり一つの楽しみであるってことですよね。
もし機会があれば積極的に(茶席へ)行ってもらって、こちらが何もしなくても、何か感動をしたり、感銘を受けるものがあったら「えぇー!」と声を出して驚いてもらって構わないです。
籔内:そうなんですか!お茶室って静かなイメージがあったので、私語はあまりよくないと思っていました…
上林さん:お茶室で会話をすることは楽しみの一つですし、わからないことがあれば知って帰る方が絶対楽しいですから。
自分の言葉で尋ねられたりお話を聞かれたり。あるいは、お話をされたことに対して答えられたりとかはできるだけ積極的にやっていただきたいです。
一辺倒のマナーだけじゃなくって楽しんだり学んだりして帰ることはお茶室の意味でもあります。
*日本式の茶道において、茶事の主催者(主人、亭主)が客を招き、茶を出してもてなすために造られる施設
今と未来は継続されていく
籔内:今回、たいせつアーカイブスにご協力いただきました。3Dデータとして(空間を)残していく活動に対してはどう思いましたか?
上林さん:今の時代、物がどんどん古くなって傷んでいき、もしかしたらなくなってしまうかもしれない。
今まではなかったような技術で残していくっていうのは本当に素晴らしいことだと思いますし、松好庵に限らず、そういう活動っていうのは積極的にやっていただきたいと思っています。
籔内:ありがとうございます。
上林さんが私達学生に向けておっしゃった「歴史は過去だけでなく、現在から未来へ継続していくことだと思うんです。これから未来に向けて今を残していくために恥じないように現在を生きていただきたい。」という言葉が印象的でした。
歴史と共に今を未来へ伝えていく。たいせつアーカイブスで京都から日本中のものや想いを残すにあたって、私たち自身も今を精進しこうと思います。
編集後記
今回、初めての取材に行ったインターンシップ生がそれぞれ感じたことを綴ります。
・松好庵に入るとみずみずしい庭園が美しく、息を飲みました。緊張と不安はありましたが、松好庵という貴重な場所を取材させていただけること光栄に思います。(同志社女子大学 田上 さくら)
・お茶室の作法は全てに意味があり、人を想いやる心につながっていることを学びました。取材の際、上林さんの言動の端々にも人への思いやりを感じました。私も上林さんを見習っておもてなしの心をもって日々精進してまいります。
(同志社女子大学 籔内 まゆ)
・普段は入ることのできないお茶室に入って撮影させていただいたのは他では絶対できない貴重な体験でした。初めての現場は反省する点が多かったですが、今回の松好庵での学びをこれから活かしていくことに努めます。
(京都大学 又吉 成)
どんな時も人へのおもてなしの心を忘れない上林さん。
今回の取材でただ3Dモデルをデータとして残していくのではなく、上林さんのような人の想いを残していきたいと改めて感じました。
松好庵の3Dモデルはこちらから閲覧できます。
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『宇治・上林記念館』
上林春松家に伝わる歴史資料を公開するために、唯一今に伝わる「宇治茶師の長屋門」を活かし、「宇治・上林記念館」を設立しました。禁裡・幕府や大名家に茶を運んだ呂宋(るそん)壺や豊臣秀吉の書状などを展示しております。
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営業時間 10:00 ~ 16:00
休館日 金曜日 詳細はホームページを参照
入館料 200円
サイト 宇治・上林記念館
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