紅しょうがのイタズラな魔法★
2015年、現在の伴侶タレちゃんと出会ったばかりの頃。
明け方の歌舞伎町。
路上ではホストが女の子を囲い、
カラスはゴミをあさっている。
私たちは朝までひとしきり呑んだ帰りだった。
胃袋が鳴り響いて、塩分と糖質を欲している。
体がアルコールを分解したがっていた。
牛丼屋の松屋に入り席に着くと、
ほどなくして並盛牛丼が運ばれてきた。
いざ食べ始めようとすると、トイレに行きたくなる。
「先、食べてて」
私は御手洗に向かった。
御手洗から戻ると、私のどんぶりは様変わりしていた。
牛肉の上に、紅しょうがで
『 L O V E 』の文字が。
タレちゃんがイタズラしたのだ。
なんだなんだっ!?カワイイぞっ!!
紅ショウガを使ったこんな可愛らしいイタズラがあるなんて!
私はしばらくイタズラな魔法にかけられ、
カオスで気怠い空気の歌舞伎町から上昇気流に乗り、
ふわふわした夢心地にいた。
松屋のカウンター二席だけが、魔法にかけられていた。
私はタレちゃんのこの手のイタズラに一目置いている。
相手を間違えれば、LOVEはその瞬間に呪いのまじないと化し、
対象を石化させる大変危険なイタズラなのだ。
そのリスクをものともせずやり切ってみせた。
紅しょうがのイタズラ作戦は大成功に終わったのであった。
(※トングで2つまみ程の量です。すべて美味しくいただきました。)
ところでもし、『LOVE』が『愛』ならどうだっただろう。
「そこに愛はあるのかい?」
牛丼の煮汁が香る湯気の中、
タオルを巻いた”あんちゃん”こと柏木達也が浮かび上がり、
途端に暑苦しさが増してくる。
同じ愛でも急に人情物語になってしまう。
文字作成の難易度が高い上に、
好きな気持ちも伝わらないという
割に合わない結果が待ち受けていそうだ。
やはり、牛丼の上には『LOVE』が最適解だろう。
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