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霜月の献立|カニ、カニ、カニ。カニを食べにいらしてください

寒い日が続いてきたなと思いながら、厚手の上着を着るとまだ暑くて、少し動くと汗をかいてしまう。冬本番というにはもう少し時間がかかりそうで、まだまだ毎日の天候を見ながらの服選びが続きそうですね。

11月の初めに定休日と祝日を利用して、支配人の飛田と一緒に香川県と愛媛県に行ってまいりました。

香川県ではいつもお世話になっているおきオリーブの澳(敬夫)さんにお誘いいただいて、東京の飲食店仲間と一緒に料理を作ってきました。たったひと晩の食事会で、澳さんがお呼びしたお客様のほか、乃木坂しんに来ていただいている京都のお客様なども含めて20名ほどにお集まりいただきました。

初めての場所での料理は何かと難しいもので、みんな手探りな状態ではありましたが、お客様はとても楽しんでいただけたということで、評判は良かったと思います。

そのあと、愛媛県宇和島市に移動して、タイとマグロの養殖場を見学し、柑橘の生産者さんをまわってきました。宇和島はリアス式の海岸が多いことから、天然魚を獲る漁業よりも養殖が盛んだそうです。

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乃木坂しんを含めて、これまでは養殖魚を使う機会がほとんどなかったので、養殖に対する知識は20年前から止まっていました。いわゆる「脂にエサの臭いがする」というイメージがあったのですが、実際に食べてみると脂の質は悪くなく、身質も張りがあったので、今回見学したことで養殖へのイメージがだいぶ変わりましたね。

徳島県出身ですが、じつは愛媛県を訪れるのは初めて。同じ四国でも行ったことがない県があるくらいですから、自分自身まだまだ知らないことが多すぎます。

今回、養殖魚の質が高くなっていることが知れたように、自分自身をブラッシュアップするためには自ら動いてインプットを増やすことが大事なんだなと改めて思いました。

日本人が昔から食べていた食材を
丁寧に料理したい

霜月しもつき(11月)の献立は、なんといってもカニですね。毎年11月と12月は、松葉蟹をご用意しておりますが、今年はちょっと仕立てを変えてお楽しみいただけたらと思っています。

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じつは、僕、カニが大好きなんです。子どものときはカニカマが好きで、よく食べてましね、カニではないですけどね(笑)。

しんさんは、いつもおいしいカニを食べているでしょうから」なんて言われますが、僕たち料理屋が、毎日店で出すようなカニを食べていたら、店がつぶれてしまいます(笑)。いつも、食べたい気持ちを我慢して、カニの料理を作っているというのが実際のところです。

ウチでは、タラバガニはあまり使わないですが、松葉蟹(ズワイガニ)とメスの松葉蟹である香箱蟹(セイコガニ)もよく使っています。

カニ酢につけて食べるのが昔からの定番ですが、茹でガニも焼きガニもカニの甘味を存分に楽しむには「酸味」が重要だと考えています。あとは、温かいうちに食べること。冷たくなるとやっぱり、香りもおいしさも感じづらくなると思います。

もうひとつ注目していただきたいのは、イノシシのお肉料理ですね。イノシシのお肉を使ったお鍋は、ぼたん鍋といわれて、日本では昔の人が”こっそり”と食べてきたものです。ほかにも鹿や熊なども土地ごとに料理されてきました。

ウチは日本料理店なので、日本人が昔から食べていたものを丁寧に料理して、現代の人でもおいしく食べられるようにお出ししていきたい

まずはイノシシからと思っていますので、今後は、別のお肉にも挑戦していきたいと思っております。

今月も、季節を感じに乃木坂しんにいらしてくださいませ。

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乃木坂しん 霜月のおまかせコース(22,000円)を紹介します。

乃木坂しんのYouTubeでも試食会の様子を紹介しています。こちらは、支配人の飛田の視点で霜月のメニューをお話ししていますので、併せて視聴いただけると、おもしろいかなと思います。

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先附|雲子と南瓜のすり流し

寒くなってきましたので、まずは温かい料理をお客様に召し上がっていただきたいと思って考えた料理です。

雲子は、鱈の白子(精巣)です。12月からはフグの白子も本格的に始まりますので、毎年11月は雲子をお出しするようにしています。。

雲子にかけている南瓜かぼちゃのすり流しは、「ロロン」というラグビーボールのような形をした南瓜を使っています。栗かぼちゃとはまた違うんですが、甘くて糖分が多いのが特徴で、そのままの甘さを味わってもらうように、蒸して裏ごしして、二番出汁を加えて伸ばしています。

ただ、あまりお出汁を足しすぎても甘みが消えてしまうので、お水も加えてあります。

去年まで雲子は、焼いてお出ししていたのですが、今年は蒸して温めてから出してます。試作の段階までは、焼いた雲子に南瓜のすり流しをかけていたのですが、焼いた表面の乾いた食感とすり流しとの食感にズレが出ていると感じたので、一体感を持たせるために蒸すようにしました。

写真ではありませんが、さらに雲子自体をすり流しにしたのも上からかけています。南瓜のスープに、生クリームをかけるような感じですね。

蒸した雲子に喜界島の樋口さんのゴマ油をたらしているのもポイントです。

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前菜|海老芋と生カラスミ
天然なめこと水菜と油あげのおひたし

お出汁と食材のおいしさで食べる日本料理らしいひと品です。海老芋は出汁で炊いてからくず粉をうって油で揚げたものに、生カラスミを合わせています。

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もう一品は、妙高の奈潟轍さんの天然なめこに水菜と油揚げのおひたしを合わせておひたしに仕立てました。

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海老芋は出汁で炊いたあとに揚げて、生カラスミを合わせたり、おひたしも、出汁だけでなくキノコのうま味などをしっかり足したりしています。「日本料理は引き算の料理」といわれることもありますが、今回の料理では、どちらかというと足し算の料理かもしれないですね。

だからといって、西洋料理のような味の積みあげ方かといえばそうではなくて、積み上げる味の強さが弱く、塩味や酸味ではなくうま味だけを重ねているイメージです。

日本料理の“足し算”を感じてみてください。

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椀物|甘鯛松笠焼き
聖護院蕪、黄柚子、ちぢみ法蓮草

甘鯛の鱗を落とさずに熱した油をかけて、逆毛立てるようにした姿が、松笠、いわゆる松ぼっくりのように見えることから松笠焼きと呼ばれています。

お出汁で炊いた聖護院蕪と、青みでちぢみ法蓮草、黄柚子を合わせました。

甘鯛は、若狭地という出汁に酒、薄口醤油、味醂、塩で作った漬け地に漬けてから、油をかけて鱗を立たせて、炭でゆっくり両面を焼いていきます。油をかけるだけでは、やはり皮面には火が入らないんです。

毎年、この時期になると甘鯛の松笠焼きを献立に入れています。

甘鯛は、造りにしてもいいですし、焼いても、蒸しても、揚げてもおいしい。鯛とは違う食感がありますよね、身質や筋肉の組織が独立しているような食感です。

僕自身は火を入れて食べた方がおいしい魚かなと思っていて、とくに焼いたり、揚げたりすると身キュッと締まって、食感が変わります。筋肉質な食感なのにホロっとしてくるんです。

筋肉と筋肉の間の筋は火を入れると崩れやくなるのですが、全体は締まっていてるので筋肉質でほどよい食感になる。僕は、鯛よりもおいしいと思っています。

松笠焼きは鱗を焦がさないように注意しつつ、きちんと火が入るように焼くのが大事です。高温の油をかけて鱗を立たせてから炭火で焼いていきます、ここでも炭の火が強いと、鱗についた油で焦げて真っ黒になりやすい。うなぎの皮を焼くように、ゆっくり時間をかけて焼いていきます。

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造り|イクラと鰆の山うにおろし和へ

鰆といったら関東の方は、焼き物のイメージがあると思うのですが、お造りで食べるのもおいしいんですよ。

とくに福井県美浜町の神経締め処理されて熟成がかかった「美浜熟成鰆」を食べてもらいたいので、そのためのひと皿といえます。

鰆は、少し強めに塩をあてていますが、それ以外は何もせず切り出しただけです。そこに同じ福井県の伝統的な辛み調味料である「山うに」を合わせて、自家製のイクラの醤油漬けをたっぷりとかけています。

試食の時は鰆は漬けにしていたのですが、鰆の風味が消えてしまう。漬けは漬けのおいしさがあったのですが、あくまで鰆のおいしさをお伝えしたいので、漬けにするのはやめました。

イクラの醤油漬けだと味が強いのでは?」と思われるかもしれないのですが、ウチの自家製のイクラの醤油漬けは醤油はそれほど強くなくお出汁を利かせているので、鰆を引き立ててもくれます。

もちろんイクラだけを食べていただいても、鰆だけを食べていただいてもおいしいです。一皿でいろいろな味を食べて楽しんでもらいたいですね。

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凌ぎ|香箱蟹2種
バッテラ寿司と甲羅盛り

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香箱蟹は、去年まで温めて蒸し寿司にして仕立てていましたが、今年から仕立てを変えて、部位ごとに調理を変えた2種の食べ方で楽しんでいただこうと思っています。

プチプチとした食感がおいしい外子と香箱蟹の足は、赤酢のシャリで酸味を利かせたバッテラのような押し寿司にしました。

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甲羅には、ほぐし身とうま味が強い内子を合わせて盛り込んで、温かくしてお出ししています。

蟹は、最初にも申し上げましたが、温かくして食べたほうがおいしいと思っています。その方が、味も香りも立ってきますし、酸味もしっかり利かせられるので、カニのうま味をひと皿のなかでしっかり伝えることができます。

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焼物|焼き松葉蟹

松葉蟹のもっともおいしい食べ方は、焼き蟹だと思います。松葉蟹の足1本と胴を炭火で焼いてあります。

もう何もいうことはございません。お好みで酢橘の果汁をしぼって召し上がってください。

蟹の足と胴は、片面だけ殻を剥いて、殻を下にして炭火で焼きます。殻が焼けた香りも香ばしいですし、身から出たうま味を逃がさずに溜めておく鍋の役目もしています。

胴は、ほぐし身にして足に添えてお出しします。

ちなみに蟹味噌は、乃木坂しんの3万円のコースでお出しさせていただいております。蟹味噌とほぐした身を甲羅焼きにしてからしっかり混ぜて、ご飯にかけて召し上がる。極上の蟹味噌ご飯になっております。

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八寸|松葉蟹のコロッケ
飯沼栗の渋皮煮 クエポン酢ゼリー
食用ほおずき、カリフラワーの甘酢漬け

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。

コロッケには、松葉蟹の爪や足の細い部分など、そのままではお出しできない部分を使っています。裏ごしした男爵イモに、澳オリーブさんのオリーブオイルを加えて、パン粉をつけて揚げてあります。

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飯沼栗は、笠間栗で知られる茨城県の栗で、1ついがに3つの果が入る一般的な栗とは異なる、1つの毬に1つの果が入った「一毬一果いっきゅういっか」の栗で、驚くぐらい大きいです。

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八寸では、半割にしてお出ししていますが、それでも普通の栗くらいの大きさです。

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温菜|ぼたん鍋白味噌仕立て

ぼたん」というのは、江戸時代以前に獣肉の食用が禁止されていたときに、イノシシの肉をさす隠語です。所説ありますが、鍋にすると色や形が牡丹の花のように見えるからといわれています。特有の匂いがあるため、味噌を使うことが多いですね。

一般的には赤味噌が多いと思うので、今回のような白味噌仕立ては、珍しいと思います。関東だと、イノシシ鍋をすき焼きみたいな割り下で炊いたりしますよね。

次のお食事で煮付けを出すので、ここではあっさりとした仕立てにしたいと思い、白味噌にしました。

イノシシの部位はロースです、対馬からイノシシは送ってもらっています。仕留めてからの処理がいいからだと思うのですが、まったく臭みがないですね。野菜は大根と人参、白菜で、大根と人参は下炊きしてあります。

白味噌仕立ての二番出汁でイノシシや野菜を火入れしていますが、柚子のしぼり汁が入っているのと、最後の仕上げに柚子の皮を軽く削って上からかけているので、柚子の酸味と香りで食べやすいと、お客様からも評判がいいです。

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食事|新米炊き立て
アカムツの煮付け

毎月変えている献立では、季節の食材を使った混ぜご飯や炊き込みご飯をお食事では用意していますが、先月に引き続き新米の時期限定で白米を炊いてお出ししています。

お米の品種は、僕の故郷の徳島県の奨励米である「ヒノヒカリ」です。ヒノヒカリは、やや小粒で昔の米のようです。一粒一粒がしっかりしていて、噛みしめると歯ごたえがある。さらに咀嚼していくうちに甘味やうま味を感じられるんです。

じつは、作っているのは徳島市の親戚が減農薬栽培しているもの。”親戚だから”というわけでなく、ヒノヒカリはおいしいお米だと思っています。

白ご飯と一緒に食べていただくおかずは、アカムツの煮付けです。小松菜おひたしと、写真にはありませんが割り下に一晩つけた卵黄とウニを添えてあります。

煮付けだけでも味はしっかりしていますが、卵黄とウニがあるだけで、ご飯がおいしく食べられて、うれしいですよね。最後に残った煮付けの汁と卵黄、ウニをご飯にかけてお召し上がりください。

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菓子|洋梨のコンポート
柿の葛焼き、ほうじ茶アイス

洋梨のコンポートをはじめにお出しして、それに続けて柿の葛焼きとほうじ茶のアイスをお出してます。

今は山梨県の洋梨が旬なので食べていただきたいという思いと、洋梨はやっぱりコンポート(シロップ煮)が一番おいしいなと僕は思っているので、今回ご用意いたしました。

葛焼きは、僕の中では”料理屋さんっぽいデザート”。アツアツでおいしいお菓子です。そこにバニラアイスを添えるのを考えてたんですけど、飛田が「お茶のほうがいいじゃない」という意見を受けてほうじ茶アイスにしました。

洋梨のコンポートは、白ワインをベースにしてシンプルにコンポートしています。うす皮まで剥いた温州ミカンはシロップに漬けただけで炊いてはいません。

葛焼きは、柿を練りこんだ葛焼き。ほうじ茶アイスは、牛乳にほうじ茶を入れて香りを移して、砂糖を加えて冷やし固めています。番茶だと香りが強いかと思い、ほうじ茶にしました。

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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。

乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
【2021年11月1日よりコース料理の金額が変更になりました】
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
     おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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構成・文・撮影=江六前一郎
編集協力=吉川大智



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