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先っぽ|4万円の食事は「コスパが悪い」のでしょうか?

乃木坂しん」の店主・石田伸二と支配人の飛田泰秀が日々考えている日本料理への想いやこれからのことなどを、どのメディアよりも早くお伝えする月イチ企画「乃木坂しんの先っぽ」。1月は、日本料理店に対して多くの人が感じているという「敷居」について2人に語り合ってもらいました。

「敷居が高い」と感じるのはなぜか

――初回のnoteでは、乃木坂しんは「入門編」でありたいという話のなかで、日本料理には本来「敷居」はないはず、ということをを石田さんに話してもらいました。

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先日、石田が話していたように、「日本料理が遠い存在」になってしまったのは確かだと、僕も思っています。本来は日本の素晴らしい文化がいっぱい詰まっている日本料理店に対して「敷居が高い」(※注)と感じてることはとても残念なことですよね。

(※注)現代では「気軽には行きにくい」などの意味で使われることが多いですが、伝統的には「不義理・不面目なことなどがあって、その人の家に行きにくい」という意味で使われています。

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ウチに初めて来られたお客様と最初に話をすると、少し緊張されている方は必ずと言っていいほど「こういうところは敷居が高くて」と言われます。たぶん、日本料理店にくると、食べ方とかお茶のお点前などの知識をもっていないといけないと感じていらっしゃるのが原因なのではと思います。

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フレンチ行くのにテーブルマナーを知らないといけない、みたいなことだよね。もともとは異文化に対してあった不安と同じようなことが起きているんじゃないかと思います。

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それは、僕たちを含めて日本料理に携わる側から不安を感じさせないようなことを伝えてこなかったこともあるのかな、とも思いますね。

――実際「敷居が高くて」ということをおっしゃるお客様で、行儀が悪いとか、著しく作法が悪いと感じるようなことはあるんですか?

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そういうのは、ほとんどないですね。

カウンターにハンドバックを置いたり、スマホを投げ捨てるように置いたりする方もたまにいらっしゃいますが、そういった方は敷居が高いとは思われていないんじゃないでしょうか。

それは作法とはまた違ったものがあるのかなと思います。

――緊張しているからこそ、その場所にふさわしい行動をしたいと思う気持ちはわかります。

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そういう方は、こちらの話をよく聞いてくださいますね。

それにこちらからも「カウンターには置かない方がいいですよ」とお伝えしやすい。

たとえば、「白木のカウンターを見て時計を外したり、指輪をはずしていただけただけでも、この人わかっているな、と思われますよ』(笑)」というようなことを、そういったお客様には自然な流れのなかでお伝えしたりして、作法に対してのことをお教えさせていただくこともあります。

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誰でも最初はわからないんだと思うんです。ですから、わからないことがあったら聞いていただきたいですし、僕も何でもお答えしたいと思っています。

そうやっていくことでお客様の好みもわかったり、自分たちにも気付きがあったりして、お出しするお料理もそのお客様が喜んでいただけるように、少しずつですが変えていくこともできます。

――コミュニケーションをとっていった方が、お客様にとっても”お得”なことが起きる。レストランのいいところですよね。

「コスパがいい=安い」だけではもったいない

――でも、そもそも行ったことがない場所に対して「敷居が高い」っていうのは、なんだかおかしい気がしますね。行ってみて初めて、敷居の高さってわかるものなのに。

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そもそも「敷居が高い」って、僕は実体のない、偶像だと思うんです。ガストロノミーに対して敷居が高いと思うのは、それは「値段が高い」というだけなんじゃないか。そうなるとコストパフォーマンス、いわゆる「コスパ」についても考えなきゃいけないと思うんですよね。

先日「365日」(代々木八幡の人気ベーカリー)の杉窪(章匡)さんとお話している中で感じたことなのですけど、たとえばフレンチレストランへ行って、コース料理とワインペアリングを頼んで、3万5000円とか4万円かかったとしますよね。

果たしてその金額は「コスパが悪い」のでしょうか?

じっさいにそこに掛かっているコスト、いい食材を使ったり、大勢の料理人やサービススタッフを使ったり、いい器やカトラリー、いい照明、いいテーブルを使って、いろいろなものが関わって、その日一晩限りのあの素晴らしいお席をご用意して楽しんでいただくのに、3万5000円とか4万円というのは、むしろ「コスパがいい」=安いといえる気がします。

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杉窪さんに先月お出ししたコースのデザートで、どら焼きと一緒に出させてもらった栗のアイスクリームを取り上げてお話されたんです。

スーパーやコンビニエンスストアで販売している高級カップアイスと比べて、どっちが栗の量を使っていて、どっちがより栗らしく感じますか? 僕たちは胸を張って、自分たちの栗のアイスクリームの方がたくさんの栗を使っていて、より自然な栗らしいと思うんです。

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じゃあ、「乃木坂しんの栗のアイスクリーム」を仮に小売販売するんだったら。1個800円とか1000円くらいで販売しないと、きっと割に合わないんですよ。それがコースのなかの1品として出てくるというのは、それこそ「コスパがいい」というんじゃないの? という話になったんです。

――500円のものでもコスパがいいものがあるし、10万円でもコスパがいいものがある。肝心なのは、その商品・プロダクトがどのように生まれているのかという、まさに「コスト」の部分を知らないといけないということですよね。今は、商品の背景がブラックボックス化して、見えなくなっていると感じる場面が多くあります。

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そうなんです。安いものだけを「コスパがいい」というのじゃなくて、クオリティが高くてでも値段も高いと思われるものの中にも「コスパがいい」ものはあるんじゃないのかな、と思うんです。

僕は、好きで大手の牛丼屋にもよく行くんですよ。500円ですごくクオリティが高いと思いますけど、当たり前のことですけどレストランで得られるような驚きや満足、幸福感は得られないですよね。

まったく別のものとして計ってもらいたいと思うんです。牛丼屋さんと乃木坂しんを「コスパ」で比べてもあまり意味がないことですから。

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値段が高い=敷居が高い」になってしまっているので、一つひとつ丁寧に作られた料理や空間、接客というものの価値を知ることができたら、コストパフォーマンスが高いという意味が変わってくるんじゃないかと思います。

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一つ星を持つからこそ社会にいい影響を与えたい

――「コスパ」に対する意識というのは、最近芽生えたものだったんでしょうか。

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そうでもないんですよ。4年半前にオープンした時から同じ話を飛さん(飛田)と2人でしました。だけど当時は、自分たちもよくわかっていなかったというのと、自分たち自身のことを見失っている時期でもあって。

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乃木坂しん」としては、開店半年でミシュランで星をとって、経営的には「首の皮が一枚つながった」状態で決して楽ではなかったんです。

だから、その星であったり、星を評価してきてくださるお客様に対して守りに入ってしまった部分もあったと思うんです。それまで諸先輩方が築いてこられたミシュランの品位に迷惑かけないようにしようとしていたように思います。

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ミシュランの一つ星なんだから」こういうことをしてはいけないという自制心があったんだと思います。

でもコロナになってたくさんの人が苦しい状況で困っているなかで、自分たちがいただいてる星を、有効活用して社会に役立ていかないといけないなと思うようになったんです。

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社会や人の役に立つってとても大事だと思うんです。僕たちはお店をやっている以上、お店に来ていただくお客様に楽しんでいただくのは絶対なのですが、ほかにも料理監修やレシピ開発、お弁当の販売など、お店の外にいる方に対しても食の良さを伝えることや社会貢献はできるわけですからね。

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日本料理の入門編でありたい」というのは、一つ星を守るのではなくて、一つ星をもって注目していただける存在であるからこそできる日本料理へのある意味での恩返しのように考えています。

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、ランチは前日までの予約制)
 お昼の小会席 10,000円、おまかせ 15,000円、18,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
 おまかせ 15,000円、18,000円、28,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中は、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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次回のnote更新では支配人の飛田のコラム「『ひと・もの・こと』で命を吹き込む」の予定です。お楽しみに!アカウントのフォローもしていただけるとうれしいです!

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構成・文・写真=江六前一郎

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