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Day②-2 エルサレム アラブ人街の生命力と違和感の正体は

アラブ人地区で睨みを利かせるイスラエル兵

大きなバックパックを背負い、
いざ次の目的地、ベツレヘムへ!

パレスチナ自治区の都市・ベツレヘムへのバスは、
旧市街の北の端、ダマスカス門の外側にある
バスターミナルの「231番」から出るらしい。
そこはさっき、
ホテルのチェックアウトに間に合わせるため
タクシーに飛び乗った地点からほど近い場所。

旧市街の北側にダマスカス門 新市街はこの西側に広がる
画像は「BBC NEWS JAPAN」サイトより

道中の新市街は相変わらず閑散。
休日を楽しむ家族連れやカップルもちらほらいるけど、
街を見渡すと、この閑散っぷり。
商店はほとんど、シャバット(安息日)で閉まってる。
買い物もままならないのに、
どうやって外歩きを楽しむんだろうね。
家族や大切な人と時間をともにするだけでいい
ってことなのかな?もしかして。
 
旧市街への入り口、
いつものJaffa門(ヤッフォ門)から細い路地を抜けて…
ここで、急に「立ち入り禁止」にぶち当たる。
それは、世界遺産「嘆きの壁」のゲート。
今日は、土曜日。
シャバット当日は、ユダヤ教徒しか入れないそうです。
銃を携えたイスラエル兵が立ちはだかる。

1967年の第三次中東戦争で
イスラエルが旧市街をヨルダンから奪回するまで、
ユダヤ教徒は数十世代にもわたり
嘆きの壁に自由には近づくことができなかったそう。
為政者が変われば、ルールも変わる。
当たり前のようだけど、
宗教を巡る問題の一端を見た気がするな。
 
来た道を引き返し、別ルートで。
途中、巡礼っぽい列に出会う。
賛美歌風の歌声とともに歩く人々、手には十字架。
立ち並ぶ商店の活気に目が行きがちだけど、
そもそもここは、聖地の集合体。
住む人も来る人も、祈りとともに生きている。

巡礼の末、教会に入っていくキリスト教徒の一団

そして、気づけば踏み入れていた
アラブ人が多く暮らすムスリム地区。

それにしても、アラブ地区の雰囲気は落ち着く。
あの独特の香辛料の香り。
生命そのものをむき出しにしたような
立ち居振る舞い。
駆け回る子どもたち。

ここで、あることにふと気づく。
多くのアラブ人が行き交う中で
やたらと目につくのはイスラエル兵の姿。
お決まりの自動小銃を持って、
曲がり角とかで睨みを利かせている。
ユダヤ教徒から見た異教徒、
特にイスラム教徒・ムスリムへの警戒感の高さが窺える。

なんだろう、この違和感。
歓迎されないはずの地で
武器を持って監視するという矛盾。
誰得なの?
ムスリムばかりのエリアで、
イスラエル兵は何を守ろうとしているの?
それとも、この地全体の支配を続けるため
危険分子の芽を徹底的に摘もうということか?
そもそも、異教徒が平和に暮らす場所を
わざわざ支配下に置こうとする意味って…。

アラブ地区は小さな商店がより密に立ち並ぶ 奥がダマスカス門

アラブ地区はとにかく道が狭い。
ごめんね、カバン大きくて。
日本なら無言で嫌な顔されるんだろうな。
でも、ここは、
人一人がすれ違えるかどうかという所でも
小型車が突っ込んできたりもするから、
それと比べたら何てないのかも。
それぞれが、何かの事情があってそうしてるのだから。
 
最後の狭い道を抜け、ダマスカス門の外に到達。
この先の道をずっと進めば、
はるかシリアの首都・ダマスカスまで続いてるんだって。
遠いと言っても、大阪-静岡間くらいの距離みたい。

シャワルマの攻防とテルアビブの呪文

朝食はエクレアだけ。
城壁めぐりも含めて、午前中だけで5キロは歩いた。
腹減った。
今度こそ、まともなご飯食べよう。

バスターミナル近くの店。
活気があるから覗いてみる。
チキンっぽいやつがある!
チキン、食べたい!
その名は「シャワルマ」という料理らしい。
けれど、そのメニューの下には
「ボンレスチキン」の文字もある。

この店のメニューの数は限られていて、
厨房を見るといろんな種類の肉が焼かれてる。
チキン料理ばかりでは決してなさそう。
ってことは、
「シャワルマ」はチキンじゃない可能性も?

アラブの人たちでごった返す店内 メニュー表記はアラビア語で注文方法もわからない

近くの若者に聞いた。
シャワルマって何?
シャワルマだよ。
そのシャワルマって何?
サンドイッチ。
そうだろうね、全部のメニュー、
パンに挾むか巻かれるかしてるもん。

弟かな?10歳位の男の子も教えてくれる。
シャワルマだよ!
…諦めかけたその時、
隣のおばさんが動物の鳴き真似を始める。
ジェスチャー的には両手を交互にバタバタ。
ん?四本足?ロバか?
最初の若者を見る。
両手首を腰に当ててバタバタ。
これはチキンじゃないか?
チキン?クックドゥルドゥー?
そう、それ!だって。

3種類のパンの中から
フラットブレッドをチョイス。
調理場の兄ちゃんが聞いてくる。
肉は、チキンか牛か、
それとも両方か?
…シャワルマって、鶏肉だけじゃなかったのね。

後で調べたところ、
焼いた肉なら、何でもシャワルマと呼ぶらしい。
僕はいいの、お肉は何でも好きだから。

大量の野菜にフライドポテト。
そこに、クルクル回る肉の塊からこそぎ取った
鶏と牛の肉を置いたら、パンでグルグル巻きに。
具材の量が多すぎて、
パンは至る所がビリビリと破れていく。
そんなことはお構いなく、
最後は紙で巻いたら出来上がり!

うまい!シンプルにうまい!
よかった、ここにして。
肉本来の味と、それを引き立てる
くどくないスパイスのハーモニー。
値段は30シェケルなり。普通に高い。
日本のマクドのバリューセット2個分だ。
でも気にしない。いい経験できたから。

ぎっしり詰まっているので、ものすごいボリューム感

そういや、注文を待ってる間に目があった若い女性。
僕を被写体に写真をパシャリ。
画面には僕の拍子抜けの顔。
撮った本人がなぜか照れてた。頬を少し赤らめて。

僕も撮らせてほしい。
それはダメだって。
ムスリム女性は、写真を嫌がる人も多いんだったか。
何だかアンバランス。でもいい。
話しかけても英語が通じない。
でも僕を見て照れてる。
東アジアの人間が珍しいだけだろうけど、
いいように解釈。
勝手にキムタクになった気分に浸る。
内心、調子に乗る。

シャワルマを食べ始めてすぐ、
男の子におどさかれて肉がポロリと落ちた。
その最中にも、耳の中にこびり付くくらいに
乗り合いタクシーの掛け声が街にこだましている。
何か、同じ言葉を連呼している。
行き先を言っているのか?

50回くらい聞いてわかった。
「テルアビブ」だ。
テルアビブテルアビブテルアビブ
って、テルアビブを3回唱えるのを
複数の運転手が複数回繰り返す。
まるで呪文。
それが街のメロディのように、
不思議と心地よくこだましていた。

バスターミナルへ。
231番のバス乗り場を発見。
時刻表なし。
運転手は行方知れず。
どうしよう。けど、運転手、すぐに来た。
みんなラヴ・カヴっていう
ICOCAとかSUICAみたいなのを
機械にかざして乗車していく。
やばい、僕持ってないっす。
3人くらい前の女性、小銭でお支払い。
現金いけるのか?
でも僕は小銭が尽きたから20シェケル札で。
お札は… いけた!5.5シェケル。

ゆとりある暮らしの背景にある闇

ベツレヘムに向けて走り出したバスは、
いつも通ってる旧市街のJaffa門の
下を走るアンダーパスを抜けて南下する。

エルサレムって、離れてみると
丘の上にぎっちりと
建物が寄せ集まったような街だと気づく。

中心部を少し離れると
日本のニュータウンよろしく、
ちょっと高層の新築マンション。
おしゃれやなあ。色味がベージュの石造り。
ベランダはどの部屋も広め。
みんなそこにイスを置いて
ゆっくり過ごせるような工夫が見られる。
そこでのゆとりある暮らしを思い浮かべる。

でも、こうした景色はこの先、一変。
新築マンションに抱いた憧れのような気持ちも
複雑なものに変わっていくことになる。

つづく

この記事は、30代のテレビ制作者である筆者が、ガザでの戦闘開始から遡ること半年前の2023年春、イスラエルとパレスチナを一人旅したときに書き留めたノンフィクション日記です。
本業では日々のニュースを扱う仕事に関わり、公正中立を是としていますが、この日記では私見や、ともすれば偏見も含まれているかもしれません。
それでも、戦争・紛争のニュースばかりが伝えられるこの地域のリアルを少しでも感じてほしいと、自身の体験や感情をありのままに綴ります。
いつかこの地に平穏が訪れ、旅行先として当たり前の選択肢となる―。
そして、この日記が旅の一助となる日が来ることを信じて。

TVディレクターのおちつかない旅 筆者


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