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白髪になっても腰が曲がっても

森下典子さんの日日是好日という本が好きで何か切羽詰まったり思い悩んだら読み返すようにしている。そこには大体、私の欲しい答えや、いま、やらなければいけないことが書いてある。それは答えが書いてあるのではなく、読むことで自分の抱えている問題とその小説の文を照らし合わせることで何をしたらいいのか、逆に何をしないという選択をするのか、自然と導き出されるということ。

本というのは不思議で何度読み返しても毎回、素敵な出会いがある。少し前に読んだときは刺さらなかった一文が今日は偉く響いたり、何でもない言葉でもその時の自分の心情で全然違って受け取ることがよくある。

先日、この日日是好日という小説を読み返しずっと取ろうか悩んでいた資格の勉強をすることを決意し、私は今、高校の受験ぶりに猛勉強をしている。下手したら受験の時よりデスクに向かっているかもしれない。ずっと前から何かしらでその資格の勉強をしたいと思っていたがきっかけがなくズルズルと社会人になって二十代後半に入ってしまった。

調べてみるとその資格は誰でも取れる、落ちる方がバカだ、取ったところで役に立たない、と色々な意見があった。

あれだけ意欲が湧いていたのになんだか他人のそんな意見を聞いてたらとる必要がないのではないかと思い始めた。でもそんな私に喝を入れてくれたのは大好きな日日是好日にある一文で、ひどく胸に突き刺さり勉強する決心をさせてくれた。

日日是好日は著者の森下典子さんが茶道を習い始めて二十五年の間に学んだ沢山の事を記した小説だ、当時、大学生だった森下さんが先生に連れられ、お茶会に出席した際に出会った老婦人が言ったお勉強って、本当に楽しいわね。の一言。ハッとした。

もともとこの一文は大好きだったが何かを学ぼうと悩んでいた自分にとってその一言はとても大切で忘れてはいけないような気がした。

いくつになっても学ぶことを楽しいと思える心は私にあるだろうか、白髪だらけの頭になっても、腰が曲がってまっすぐ歩けなくなっても、学ぶことが楽しいと思えている心はあるのだろうか。

結果は大切だけど何より大事なのは学ぶ過程で出会う感情ではないか、出来なかったことが出来たときの嬉しさや、学ぶことで出会える新しい自分に会いたくないのか。学ぶことで得られる知識が財産となり、それは自分だけのもので誰にも奪えないもの、そして得た知識が使えるか使えないか、など自分次第で、使い方次第では自分という人間をひと回りも二回りも大きくさせることができる。

両親に今更だけど資格を取ろうと思う、と話したら「今更なことは何もない、学んだ時間は全て知識となって積み重なり自分の物になる。」と言われた。親が憎い時もあるけどやはりこの二人の元に生まれてきて良かったと思った。

私は今、日々の合間を見つけて毎日、勉強をしてるがあまりにも出来なくてイライラしたりなんで違うのか頭を悩ませたりしている。あまりの理解力の無さにこんなにも自分は出来損ないだったのか、と最初こそ落ち込んだが間違えた場所や理解に苦しむ場所から逃げず何度も繰り返し続けていると突然、スルッと出来るようになったり、ストンッと意味が頭に入って来ることが増えてきた。この時、ほんの少しだけ楽しいと思えた。それは知らない世界に触れることでその世界の見えなかった部分が見えてきたから、苦労から成り立つ楽しさがある事を身をもって体験したからなのかもしれない。

ここ最近思うことは、やはり勉強が楽しいと思えるには、どの分野に限らずその物事や学ぶ全てに対して敬意を払い、見くびらず、教わる姿勢で学ぶ心が大切なのだと痛感する。

お勉強って、本当に楽しいわね。の一言はそんな簡単に言えるものではないと思っている。大嫌いだった運動生理学や解剖学は分からなくて悔しくて何度も参考書を読みながら勉強して時には出来の悪い自分に涙をしたこともある。でも今は論文を読んだり頭で理解して読み解き知識となりサービスを向上の為や人の幸せの為にと尽くし、結果として「ありがとう」と言われるその一言で学んでよかったと思えてしまうのだ。

ある程度、人は年齢を重ねると学ぶということに無意識に抵抗していくことがある。それは長年の生きてきた価値観、実績、功績、自分の在り方が学ぶ姿勢への邪魔をするのだと私は思っている。何年たっても学ぶということはイチから、ゼロから始めるということ。初心に帰り自分を見つめ直すことだと思う。中途半端な知識やプライドが自分の成長や歩みを止める、だからこそそんなものは捨てなければいけない。頭でっかちになってはいけない。

学ぶことが楽しいと思える人はきっと何歳になっても初めて目にするもの全てに好奇心をもって取り組める子供のような心を胸に宿し続けている人なのかもしれない。

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