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侠客鬼瓦興業 第28話 川崎のお風呂屋さんには行かないで・・・

小屋の掃除を済ませた僕は、与太郎ヨーゼフを連れて多摩川の土手へと向かっていた。

「こら、ヨーゼフそんなに引っ張るなっていうの…」

 ヨーゼフは僕の言葉など聞く耳を持たないといった顔で、のっしのっしと我が物顔で歩いていた。  ヨーゼフの隣には、川崎という言葉をきいて一瞬戸惑いの顔をみせたが、すぐに元の明るい笑顔にもどっためぐみちゃんがいた。

「吉宗くん、すごいでしょこの子のパワー」

「本当、腕がちぎれそうだよ…ははは」

 僕は、ぶっといリードを両手で握りながら、めぐみちゃんに向かって苦笑いを浮かべた。

「でも、考えてみると、この子のおかげで、こうして吉宗君と一緒に過ごせたんだね」

「僕はあやうく命拾いしたけどね…」

 めぐみちゃんと目を合わせて、僕は照れ笑いを浮かべた。

「ねえ、吉宗くんって兄弟はいるの?」

「え…、あ、姉貴がひとり」

「へえ、お姉さんがいるんだ、いいなー、私一人っ子だったから、兄弟って憧れだったんだ」

「うるさいばっかりだだったよ、早くご飯食べろとか、勉強しろとか、剣道部だって姉貴が無理やり入れたんだよ、僕の泣き虫が治るようにって」

「お姉さんが?、へえ、何だかすごく会ってみたいなー」

「男勝りで、めぐみちゃんとは正反対だよ」

「私と正反対って、まだ吉宗くん、私のことよくわかってない・・・・・・」

「え?」

 意味深な言葉に、僕は一瞬歩くのを止めて彼女を見た。

「でも、お姉さんの期待は裏切られちゃったみたいだね」

「裏切る?」

「うん、だって吉宗君の泣き虫は、全然治ってないでしょ」

「えー、ひどいなー、何で僕が泣き虫なんだよー」

 僕はしぶい顔でめぐみちゃんを見た。

「何でって、昨日だってさ…ふふ」

 めぐみちゃんはそう言いながら、嬉しそうに、頬をそめた。

「あっ!」 
僕は昨日の縁日での号泣事件を思い出して、おもわず顔を真っ赤にした。

それからしばらく、めぐみちゃんは楽しそうに僕のことをあれこれ訪ねてきた。僕も彼女と一緒に過ごせることが幸せで一生懸命その問いかけに答えていた。 僕は幸せだった…。しかし、そんな幸せを無情に打ち切るように、僕とめぐみちゃんは、川原と駅への分かれ道にさしかかった。

「あー、もうこんなところかー」

 めぐみちゃんは口をぷっとしながら、駅の方を指さした。

「楽しかったのに、駅こっちだから、これでお別れだね」

「あ、そうか、めぐみちゃん学校だもんね…」

「学校終わったら手伝いに行きたいんだけどね、今日は委員会があるからなー」

 めぐみちゃんはそう言いながら、僕たちの横で寂しそうにめぐみちゃんを見ているヨーゼフの頭をなでた。

「ヨーゼフ、またね、お利口にするんだよ…」

 めぐみちゃんの言葉に、ヨーゼフはやっと、かまってもらえたという喜びから大きな尻尾をぶんぶん振って喜んでいた。

「それじゃ、吉宗くんまたね…」

「あ、うん、また」

 めぐみちゃんは立ち上がると、駅の方へ歩きだした。そして数歩歩いた所で何か思いだしたように振り返り

「吉宗くん・・・」

「え?」

 心配そうな顔で僕をじっと見つめていた。

「吉宗くん・・・、あ、あの・・・」

「・・・?、何?、どうしたの?」

「あ、あの・・・」

 めぐみちゃんは、言いにくそうにもじもじしていたが、ふっと溜息をつくと、真剣に僕を見た。

「あの、今日の川崎の仕事だけど…、終わってから、銀二さん達にさそわれても、お風呂屋さんにだけは行かないでね…」

「えっ、お風呂屋さん?」

 僕は訳が分からず、彼女を見つめてキョトンとしていた。

めぐみちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら話を続けた。

「ま、前に銀二さんと鉄君たちが、嬉しそうに話してたの思いだして・・・、あ、あの川崎の仕事は終わってから、お風呂屋さんに行くのが楽しみだって・・・」

「え?え?」

 僕はまったく意味が分からず、目をまん丸にしていると、めぐみちゃんは真剣な眼差しで

「川崎のお風呂屋さんには、行かないでね・・・」

「あ・・・、うん、わかった、行かない・・・」

「本当?約束できる?」

「うん、約束する。お風呂は会社にもどってから入るから・・・」

めぐみちゃんは僕の言葉にホッとした表情をうかべると

「よかった・・・、それじゃ、また、仕事、がんばってね・・・」

 明るく手を振ってから、恥ずかしそうに駅に向かって走って行った。

「???」

 僕は訳の分からない状態で、ボーッと彼女の後姿を見つめていた。

「めぐみちゃん、どうしたんだろう急に、何でお風呂に言っちゃダメなんだろう?」 

 僕は切実に訴える彼女の顔を思い出しながら、首をかしげたあと

「まあ、いいか、さあ、散歩の続き行くぞ、与太郎」

そう言いながら、ヨーゼフのリードを引っ張った。

しかし、ヨーゼフはさっきとは売ってかわった態度で、その場から動こうとはしなかった 。

「おいこら、ヨーゼフ行くぞ・・・」

 僕は再びリードを強く引っ張ったが、奴はふてぶてしい顔で僕を見ながらじっとしていた 。

「お前、めぐみちゃんがいなくなったとたん、急に態度変えやがったな!」

「来い!!ヨーゼフ!!」

 僕は大きな声でそう言うと、ふたたび力任せにリードを引っ張った。するとヨーゼフは 「ワオン!」と 大きな声で吠えたあと、その巨体をむくっと起こしたと同時に、突然僕を無視して全速力で多摩川に向かって走り出したのだ。

「うわー、何だ急にーーー!!」

 僕は腕に巻きつけられていたリードを離すことも適わず、ヨーゼフに無理やり引っ張られながら、全力で走らされてしまった。

 どた!、どた!、どた!、どた!、どた! 

「わーわー、コラーヨーゼフ、とまれーーとまれーーー!」

 僕の必死の叫びなどまったく無視して、ヨーゼフは全力疾走を続けた。

「あー、とまれー!、やめれー!、あああああああああ~」

悲痛の叫びも虚しく、そのまま僕はヨーゼフに拉致されてしまったのだった・・・。

つづく

 最後まで読んでいただきありがとうございます^^
続き 激突吉宗VSヨーゼフはこちら↓

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