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侠客鬼瓦興業58話「もう一人のめぐみちゃん」

めぐみちゃんの純粋な僕への思いと、やさしい勘違いからひとまず窮地を脱した僕は、銀二さんの隣で初のたこ焼きにチャレンジしていた。
「いいか、たこ焼きで一番大事なのは生地だ、こいつの加減を間違えちまうと、まわりサクサク中まろやかーな、うめえたこ焼きは出来ねえんだからな」
銀二さんはそう言うと、巨大なポリバケツのなかに、ざざーっと大量の小麦粉を入れ始めた。
「え、そんなところで作るんですか?」
「おう、大量につかうからな、ほれ、そこの水ちょっとずつ入れてみ」
「はい」
僕は大きなポリ缶に入った水をポリバケツの中に流し込んだ。

「はじめにダマができねーように、こいつでよーく混ぜるんだ」
銀二さんはそう言うと、大きなデンキドリルをとりだした
「えー、な、何ですかそれ?」
「何ってこいつで混ぜるんだよ」
「それって、工事現場のドリルでしょ?」
「バカ、先を良く見てみろ」
「あー!?」
なんとドリルの先端には大きな泡立て器がついていた。
「すげえだろ、親父さんに頼み込んでやっと買ってもらった俺の秘密兵器だー!!」

ウィーーーン!! 
銀二さんは大きなドリル式泡だて器のスイッチを入れると、嬉しそうに粉と水を混ぜ始めた。
「すごいですね、これ」
「そうだろー、昔は手で混ぜてたからよ、大変だったんだぞー、ほれ水、追加」
「あ、はい」
僕は慌ててポリ缶の水をドボドボと注いだ。

銀二さんはしばらく生地を混ぜたあと、大きなひしゃくをつかって粉の柔らさを調べ
「いいか、固すぎず、やわらかすぎず、たこ焼きの生地はこんなもんだ、見て覚えとけ」
「はい」
「おし、次は焼きだ」
出来上がった生地を奇妙なステンレス制の粉つぎという容器に入れ、すでに熱くなっているたこ焼き用の鉄板に油をぬり
「言いかー、見てろよー」
「はい」
ジューーーー!
粉つぎを使って、たこ焼きの鉄板前面に生地を流し込むと、すばやい手つきで、たこ、てんかす、刻みしょうがをすべての穴に落とし入れた。
「すごい早業だ!」
「早業って俺を誰だと思ってんだ、たこ焼き焼かせたら関東でも五本の指に入る銀二様だぞー!」
「関東で5本ですか?」
「おう、いいか見てろよ」
銀二さんは嬉しそうに両手にキリを握ると、
「あほい、ほい、ほい、ほほほい、ほーい」
それは見事に二つづつのたこ焼きをくるくると返していったのだった。 
「す、すごすぎる、同時に二つずつなんて」
「ほれ、吉宗お前もやってみろ」
そう言ってキリを僕に手渡すと、三寸にぶら下がっていたタオルで額の汗をふきながら笑った。
「それじゃ」
僕は自信満々に、たこ焼きをひっくり返しにかかった。ところが・・・
「よ、は、あれ、あれれ?」
たこ焼きはひっくり返るどころか、穴の中ででんと居座って動こうとしない、みるみるうちに他のたこ焼きもコゲ初めてきた。

「あーあ、お前、たこ焼きになめられちまってるじゃねーか、ははは」
「でも、これって難しくって・・・、あれれ」
「ははは、このままじゃ商売になりゃしねーや、お前そっちの一列で練習しとけ」
銀二さんは笑いながら別のキリをつかって、焦げかかっているたこ焼きをひっくり返しはじめた。
(タコ焼きがこんなに難しいものだなんて)
僕は改めて銀二さんを尊敬のまなざしで見つめた。

「ほら、よそ見してないで、どんどんひっくり返さないと、たこ焼き焦げちゃうよ、吉宗くん」
「え?」
振り向くと、隣で金魚すくいの準備をすませためぐみちゃんが、楽しそうにこっちを見て微笑んでいた。

「めぐみちゃん、ははは」
僕は水槽の前にちょこんと座って僕を見ているめぐみちゃんに、思わずポッとほほを染めた。

(あー、やっぱりめぐみちゃんって、可愛くて、優しくて、最高だな~) 
「あーバカー、焦げてるっての!!」
「あー、しまったー!!」
銀二さんの声にあわてて鉄板を見ると、僕の担当したタコ焼きはぶすぶすと黒い煙をだしていた。
「あ~あ、1列無駄にしやがって、お前の今日の晩飯はそれだ!」
「えー!?」
僕は真黒になってボロボロのたこ焼きを眺めて、渋い顔をうかべていた。

「さあ、らっしゃい、らっしゃいー」 
境内に、他のテキヤさんによる大きな声が響き始めた。
見渡すと、僕たちの回りはすでに参拝客でにぎわいはじめていた。
「ほれ、吉宗、お前もしっかり声だせ」 
「はい」 
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃいー、大だこ入りたこ焼き、おいしいですよー!いらっしゃい、いらっしゃいー!」
「おう吉宗、お前の客寄せもなかなか良くなってきたじゃねーか」

「うんうん、すごいすごい、吉宗くんって順応性が早いんだね」
隣のめぐみちゃんも微笑んで僕を見た後
「さあ、私も、がんばらないとね」
「金魚すくい~、金魚すくい一回二百円ですよー、いらっしゃいませー」
可愛い声で客寄せをはじめた。 

「おい、あの金魚すくいの子、まじ可愛くねー!」
「おー、まじ可愛いじゃんか」
そんなめぐみちゃんの事を見た数人のチャラチャラした男達が、彼女のもと近づいてきた。

「いらっしゃいませー、金魚すくい一回二百円ですよー、どうですか?」
「ねえねえ、一回やっていくからさ、終わったらデートしてくれない?」
「えー?」
「彼女、まじ可愛いじゃん、惚れちゃったんだよね俺ら」
男達はめぐみちゃんの前に座りこんで、ニヤニヤしながら話し始めた。

(むおー、何だあいつらは!?)
僕はめぐみちゃんの前にいる男達をむっとしながら見た。
「何よそ見してんだー、ほら出来たたこ焼きどんどんパックにつめろっての」
「あ、はい!」
銀二さんに怒られて、僕は隣のめぐみちゃんを横目に慌ててたこ焼きを詰めた。

「ねえねえ彼女・・・、いいじゃんか、デートしてくれたら俺たち三人で金魚すくいやってやるぜ」
チャラチャラした男達は千円札をちらつかせながら、めぐみちゃんへのちょっかいをエスカレートさせはじめていた。

(あ、あいつらー!!)
僕は、たこ焼きのパック詰めをしながら、イライラ顔でめぐみちゃんの方を見ていた。
「おい吉宗!!」
「吉宗、ほら、お客さんだぞ、お客さん」
「あー!?」
気がつくと僕の目の前に、一人のおばさんが立っていた。

「す、すいません500円です」
僕は慌てて手にしていたたこ焼きを、目の前のお客さんに差し出した。
「あらー、こんなにいっぱい?お兄さん気前がいいわねー」 
「え?」 
気がつくと、お客さんが手にしているパックには、たこ焼きが山のように積み上げられていた。
「あーー!?」
お客さんは嬉しそうに500円を支払うと、山のようなたこ焼きを抱えて去っていった。

「ばかー!うちは8個で500円だぞ、今のはその三倍はあっただろーが」
「すいません銀二さん」
そういって謝りながらも、僕はとなりのめぐみちゃんが気になって仕方なかった。
「ん?何だお前・・・」
銀二さんは僕の目線の先の、めぐみちゃんの様子に気がついて、ニヤッと笑うと
「なんだ、やけに落ちつかねーと思ったらそういうことか」
「は、はい・・・」
「だったら、心配いらねーよ」
「え、でも・・・」
僕は銀二さんにそう言われながらも、不安いっぱいにめぐみちゃんの様子を見た。

「なあなあ、彼女・・・、デートぐらいいいだろ、なあ」
「何だったらこれ10回くらいやってやってもいいんだぜ」
チャラ男たちはしつこく、めぐみちゃんをくどいていた。しかし彼女はまったくチャラ男立ちを相手にせず、無言でニコニコしていた。
「なあ、笑ってないで返事くらいしてくれよ~、デートしようぜデート!」
「・・・・・・」
「だまってないで何とか言えよ、なあ彼女~」
チャラ男の一人がめぐみちゃんに顔をぐっと近づけた、その時だった

「お兄さんたち、残念だけど私あんたらとデートするほど、悪趣味じゃないんだよね」
今まで黙っていためぐみちゃんが、突然恐い顔で言葉を発した。驚いたチャラ男達は眉間にしわをよせると
「悪趣味?悪趣味ってなんだよ・・・、俺達は客だぞ、客」
めぐみちゃんに詰め寄った。めぐみちゃんはフーッとため息を一つつくと
「客、客って、銭ちらつかせて、そんなのは客って言わないんだよ、、、商売のじゃまだ、ガキは飴でもしゃぶってとっとと帰りな!!」 
「な、なんだと?」 
「よう、あんちゃんたち、あたしのこと、あんま甘く見んじゃないよ!」
めぐみちゃんはそう言うと、突然今までの可愛い顔から一変して、鬼のような形相でチャラ男たちを睨み据えた。

「う!あ・・・」
チャラ男たちはめぐみちゃんの迫力に押されて、そのまま言葉を失ってしまった。
「ほら、金魚すくい、やるのか?やらないのか?はっきりして頂戴、そんなところで雁首そろえて座られてたんじゃ商売のじゃまなんだよ」

「あ、すいません・・・、じゃあ一回ずつ」
チャラ男たちは、今までと打って変わった慌てた顔で、持っていた千円札をめぐみちゃんに手渡した。
その直後、鬼の形相だっためぐみちゃんが一変、もとの可愛い彼女の姿にもどると
「ありがとうございますー、それじゃ3名様で600円になりますー」
キャピキャピの可愛い声になって、チャラ男達にポイを配り始めた。

(えー!なに・・・?何だったの今のめぐみちゃん?)
僕は隣の金魚すくいで起こった出来事に言葉をうしなってしまった。
「な、だから大丈夫だって言っただろ、吉宗」
銀二さんは嬉しそうに笑うと、再びたこ焼きを作り始めた。 

(え?え?今のめぐみちゃんって?えー?)
僕は額から脂汗を流しながら再び彼女の様子をみた。しかしそこには、いつもの可愛いめぐみちゃんが、優しい笑顔で座っているだけだった。

(えっ?・・・、えっ??・・・)
僕は思考回路をめちゃめちゃにしながら、ふっと以前一瞬僕に見せた鬼の形相の彼女の顔を思い出した。
(そ、そういえば僕がハゲ虎の前で金縛り日あっていたとき、一瞬彼女の顔が鬼のようになっていたような・・・)

(・・・いったい、彼女は・・・)
僕は恐怖で背筋をふるわせながら、キャピキャピ笑顔のめぐみちゃんをじっと見つめていたのだったのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
続きはこちらです↓

※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

本編の最後に出てきた、怖い顔のめぐみちゃんのお話はこちらです↓

前のお話はこちら↓

第一話から読んで下さる優しい方はこちら↓

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