見出し画像

ICT機器導入の方策と課題:熊本県の事例から

(2月28日、タイトルを変え、少し内容も書き換えました)

「流行に踊っちゃおう、熊本の教育」
今日、こんな刺激的なタイトルをつけた熊本大学教職大学院情報教育研修会2月例会に参加させていただいた。とてもよかった。この件について書きたい。

ただし、その前に、このストーリーに関連する直近の2つの講演、研修等についても書いておく。長くなっているけれど、最後に熊本の教育改革につながるので、太字部分だけでも、どうぞお読みください。

★先に、今日の午後の話を書く★
午後は、令和2年度富山大学大学院教職実践開発研究科教育フォーラム
「学び手の学びに寄与する教え手のふ りかえりのあり方
   ~3つのリフレクションの実際とセルフスタディを学ぶ~」
の講演が入っていた。

ここでは、教師教育の言行一致を体験していただくために、90分の中で、
・リフレクションに関する講演をリフレクション in Action の実況中継をしながら進め、
・セルフスタディの概要を説明し、
・質疑応答の中で、具体的に実践を進めていくためのヒントをお伝えした。
・ホスト権をもらって途中に短いブレイクアウトセッションを2回。 
  
参加者の中にはZOOM初めてですという方もいらして、
チャットの書込み練習から始めたので慌ただしかったのだけれど、
最初に「90分後に自分にどういう変化を起こしていたいか」
という問いをプレイクアウトセッションで仕掛けておいたからか、
皆さんから、

わくわくした、面白かった、次につなげていきたい、やることが明確化した。さらには、まだ書けていなかった大学教員のラーニング・コミュニティの質的研究の論文化を進めます、というメッセージまでいただいた。

よかった。感動だけの講演は、いらないと思っている。


ちなみに、最後の論文化を考えておられるというメッセージは、
たまたま入ったブレイクアウトセッションにいらした
杉森公一先生からのもので、
先生は、大学のFD(ファカルティディヴェロップメント)におけるリフレクションの導入を試みられておられるという。
オンラインの講演を通して実践も研究もしておられる先生につながったというありがたさ。
研究の資料などもご紹介いただくことができて、心強い限りだ。

以下は杉森先生のご研究2つ。
今こそ大学を含む学校教員がつながって
授業全体のカリキュラムを考えたり
学校コミュニティとしてその機能を考えていかなければ
組織としてFDをしない学校はコロナ禍で弱体化していってしまうだろう。
日本ではなかなか進まないFDとその研究は
これからますます重要になる。大切な視点を与えて下さる研究だ。

(それにしても、
まあ、このせわしない研修スタイルは、私だなあという感じ。
タドーズ(多動)を自認しているのだけれど、
私は子どもの頃はのんびり屋のノンちゃんというあだ名がつくほど、
多動とは程遠いスローな子。
どうやら生まれつきではなく、
いろいろこなさなければ生活できなかったから身についてしまった、
いわば、貧乏症)

そうは言っても時間に限りがあるから、
提供可能な知識に、当然いろいろ取りこぼしがある。
そこで、記憶に残るエピソードに絡めてキーワードをインプットして
(教育心理学やってた)、
役立つ参考文献とか資料とかウェブサイトを紹介しておいて、
これで勉強してね、と伝えたので、
あとで勉強してくださる人はしてくださると思う。

オンラインではあったけれど、今日、もし、
参加者に学び合うコミュニティへの希求感を作れて
具体的方策のヒントが伝わっていたとしたら、
これからじわじわと変化が起き始めて、何年か後には変わっているはず
90分の講演ではそこまでは難しいか。

ゆっくり効いてくる鍼灸が好き♡
研修や講演は終了後に人が動くことを目標としている。

内容が濃くて速い研修は、やりながら考えていると混乱するので、
パワポに沿って、
自分の内臓感覚に頼りながら、今必要なことを見極め、
話しながら参加者に関連して思いついたエピソードを入れながら、
その場でどんどん進めていく。
聞き手の反応を拾って話題にしながら進めるので、
スライド共有中でも、可能な限りビデオオンにしていてもらう。

★話は3日前に戻る★
広島県生涯学習センターの令和2年度第3回「『親の力』をまなびあう学習プログラム」の子育て支援の親プログラムファシリテータ―のステップアップ研修 「家庭教育を支える地域力 ~保護者をコミュニティでどう支えるか」の講師を務めさせていただいた。

この研修では、今後、コミュニティで、
動ける人(行政や政治家)や動けない人たち(虐待や貧困という事情を抱えている人たちや支援を受けたくないと考える人たち)、そして仲間と、
「つながる」ための具体的プランを考える

というオンライングループワークのファシリテーションをお見せしつつ、
実際に自分のプランを立ててもらって、
そのあとで「ではなぜそれが今、子育て支援に必要なのか」
という解説と解決の方向策を提示した。

終了後に何人もの方からアクションを起こしますと連絡をいただいた

つまり、私にとって、研修は知識を与える場ではなく、参加者をエンパワーしてアクションにつなげるもの、で、何割の人が長期的に動いてくれるか、
何年後にそのコミュニティが変わるか、が研修のバロメーターなのである。


★さて、やっと、熊本県の研修参加の話にたどり着く★

これは本当に良い内容だった。

旧い話になるが、実は、私は、下記のように、2012年から2年間
熊本県教育委員会の教員研修のスーパーヴァイザーとして、
リヴィルブ教育研究所の横須賀聡子氏と共に、
熊本県教育センターに入っていた。概要は、ここ↓から読める。

変動する現代日本の教育を支える中堅教員の教員研修 
モデルカリキュラム開発プログラム 
~理論と実践を往還するリアリスティックアプローチの試み~ 
https://www.nits.go.jp/education/model/report/files_past/h25_di9.pdf
(アドレスのコピペで読めます)

ここで、『教員のためのリフレクション・ワークブック』(学事出版,2016
武田信子、横須賀聡子他)の出版前の手作り冊子をテキストとして用いて、
さまざまなリフレクションの方法を先生方に示し、
先生方が継続してe-learning で学びのコミュニティを作って
主体的にリフレクションを繰り返すという方策を導入してもらっていた。

研修を受けた先生方は、当初は新しい考え方に戸惑っておられたようで、
研修内容にもなかなかついてきていただくのが難しかったが、
一年も最後になると、現場での実際の効果を実感してくださったのだろう、徐々に研修の評価が高くなるという経験をしている。

さて、今日の研修は、
その頃、ミドルリーダーだった先生方が作ってこられた熊本の教育の
9年後の様子をうかがえる機会だった
というわけである。

そもそも、なぜ熊本県に私が関わったかというと、
それにはしっかりと理由があった。

当時、私は、文部科学省の科学研究費をとっていて、
「リフレクションを県レベルで学校教育現場に広げる」にはどこがいいか 検討するために、日本全国の教育委員会の教育改革案を、
横須賀聡子さんがインターネットを駆使して調べてくださって、
熊本県を探し出し、教育委員会にヒアリングに行って、
当時の潮谷義子知事(前日本社会事業大学理事長)の教育改革の試みにたどりつき、知事退任後の2009年に学長に就任しておられた長崎国際大学まで2人でお邪魔して、
熊本に教育改革を起こすためにどのように考えてどう動かれたのか
という裏話をうかがったり、
もう一度教育委員会にヒアリングにうかがって資料をいただいたりしたのだ。

 そこでいただいた資料には、2011年、事務の負担軽減に向けた取り組みのための特命プロジェクトチー ムを作って教育改革を始めた熊本県が、その一環として、市町村立学校の公務ICT化推進のために、公務支援システム「ゆうnet」を開発し、無償提供するとともに、教員一人一台の公務用PCの整備を全市町村教育委員会に要請、さらに小中学校教職員全員に現県下共通のメールアドレスを付与することにしたことが書いてある。

 教育委員会の中で、私たちの研究に関心を持ってくださった指導主事さんが、東京で開催したフレット・コルトハーヘンのリフレクションの研修会に来てくださり、結果として、スーパーヴァイザーとして熊本県に招いていただいたのである。

2年間の研修の概要については、上記にまとめたほかに、
当時の国立教員研修センターのご推薦を受けて、
SYNAPSE という教育関係者向けの冊子に
「大学・教委の連携研修―教員研修モデルカリキュラムにみる連携促進のポイント― 第4回 リフレクションを基盤としたミドルリーダー育成プログラム」というタイトルで書かせていただいた。

と、いうわけで、私がICT教育への健康被害の懸念について、
ここのところSNSにいろいろと書き込んでいることから、
熊本県でICT教育を推進しておられて、
コルトハーヘン氏のリフレクションについても漫画化してくださっている
旧知の前田康裕先生と久しぶりにつながって、
そこから、この研修会に申し込ませていただいたのだった。
前田先生は、ICT教育を推進しつつ、「情報端末の光と影の部分を取り扱う必要がある」と、子どもたちの健康被害にも配慮しようと考えておられる。

私はICTの学校への導入に単純に反対しているわけではないので、
もしここでいい実践が行われているなら知っておく必要があると考えたのだ。
それに、登壇者が全員女性である、ということも私にはポイントだった。
(教育関係のセミナーや書籍などで、女性の方が多いということは、ほぼない。教員数は女性の方が多いのに)

結果。
今日の話は、
ICTの導入に熊本の先生方がどう取り組んでいったかという話で、ICT教育の内容そのものに焦点を当てていたわけではなかったが、導入の際に大切なことが盛りだくさんだった。
まず、
なにより私が必要性を訴えている
ICT機器の先生方への無償配布があって、
ICTに詳しくない女性教員が支援員に指名されて活躍するストーリーが展開され、
多数の優秀な支援員の配置とそれが機能するシステムがあって、
学校内の人間関係の構築とコミュニティ形成がなされていて、
・若手とベテランのバランスのとれた役割分担と協働があって、
ICTありきではなく、授業や業務の中にICTをどう組み込んでいくとよりよい教育の可能性が生まれるかの検討がなされていた

そもそも、オンライン研修の雰囲気が柔らかくて参加者が楽しそうなのだ。

 学校の先生方の研修によくある形式ばった堅さがまったくなく、
 先生方が自由に発言しておられて、
 前田先生が見事なファシリテーションとコーディネーションで
 参加者に対する配慮の行き届いた「教育(専門性開発)」をしつつ
 一人一人の力をうまく引き出しておられた。

そう、ICT教育の導入はこうでなくっちゃ

でも、どうしてこのような形が可能になったのか

それはそもそも、先ほど書いたような熊本県教育委員会の改革というベースがあって(当時の業務負担軽減プランなどは先進的なものだった)
それは一部からは強引な策と批判もされていたのだけれど、
見事に機能して、
その後の先生方の日常的なリフレクションとコミュニティ形成があって、
優秀な先生方がどんどん育っていって、10年以上かけて作られてきたもの

どこの自治体でも今すぐできるというものではない

だから、ぜひ、
この研修会の動画を文部科学省や日本全国の教育委員会の皆さんが見て

まずは
・生徒よりも先生たちに一人一台を実現すると同時に、
・充分な支援員の人件費を今年からしっかりと追加予算で確保し、
・先生方に無理強いすることなくICT教育に前向きになるための工夫を行い、
・同時に、子どもたちの健康被害を予防する対策を立てること
が必要だ。

 健康被害の予防に関しては、今後取り扱っていく予定とうかがっている。
 生徒たちにどのように渡しているかという話は途中で出てきて、
 そのときに、健康被害とネットいじめなどの問題が分けられていない印象を受けたので、
 情報モラルレベルで受け止めておられる可能性があるかと思った。
 ぜひ、引き続き研究してほしいと願っている。
 
 ただ、先に先生方が使い方をマスターして
 ICT機器を教育をよくするための道具として使いこなせるところでは、
 いたずらに生徒たちに機器を渡すだけという使い方はしないだろうし、
 余裕があってリフレクションができるところでは
 生徒たちの様子をみて対策を取ることも考慮されるに違いない。

だから、ICT機器導入の前提として(これが一番難しいところだが)
学校コミュニティがしっかりとできるような働きかけ と
自分たちの日々の活動を振り返ることができる力量の形成
が求められるだろう。

熊本県教育委員会の取り組みが、一つのモデルとなって、
日本の教育が動いていくといいと思うと同時に、

これまでの記述でおわかりの通り、
動画を見たからといって、どこでも真似できるというわけではない
ベースが違うからだ。
先生方の間に、年齢問わずあの柔らかい学び合いの対話が成立し、
リフレクションが日常になっている自治体はどれほどあるのだろう。

さらに、熊本県でも、これからどういう使い方をするかが問われているし、
今後、
家庭や社会との連携福祉や保健サイドからの支援が課題となるだろうし、
子どもの年齢や特性との兼ね合いも研究されなければならないし、
問題は山積している。

ただ導入するだけでは、子どもの健康に配慮しない社会実験になるだけだということは、強調しておきたい。

#ICT教育 #GIGAスクール #熊本県教育委員会 #健康被害
#子どもとメディア #リフレクション #富山大学  
#広島県生涯学習センター #FD #学校コミュニティ #一人一台


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?