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ICT教育の対人コミュニケーション上の課題についての思索

ICT教育は時代の流れです。上手く活用すれば、可能性が拡がります。
でも、「うまく活用すれば」です。
それができない場合、こんなことが考えられます。

・・・先日、小学校の先生方とお話しする機会がありました。
   その時話題になったことをまとめてみます。

※ ここに書くことは課題であって、必ずしも問題が生じると言い切っているわけではありません。さまざまな可能性を考えて、それに対応の必要があるかどうかを検討していくことが必要ではないかと思い、まだ十分に整理できていませんが、書いてみました。現場の先生方の実感をうかがい、カウンセリングをしている心理臨床家の感覚をうかがい、思索を深めらたらと思います。
※ この投稿に関連して、FB上で田中康平様が対応策についてのコメントをつけて下さいましたので、最後に引用・転載させていただきます。

1)学びの個別化が実現する⇒
 ICT教育の導入によって、落ち着かないクラスも、不満が渦巻くクラスも、学級崩壊クラスも、一時的に見た目おとなしくなるでしょう。発達障害の子どもたちも生活しやすくなるでしょう。生徒同士のコミュニケーションも、先生と生徒とのぶつかり合いも少なくなるからです。通常は静かになります。あらかじめ予定された探究活動の中では、気の合うものが集まって一定のテーマに沿って活動が進むでしょうから、争いも少ないでしょう。
 良い方向に向かうように思えますが、子どもはコミュニケーション能力の開発時期ですから、コミュニケーション上、失敗する機会が少なくなる、同年代の未熟な仲間とぶつかって考える機会が少なくなるということで、思春期以降のリアルなコミュニケーション能力の発達に不安が残ります。
 そもそも、子育ての方法がわからない親が多く、少子化、核家族化など対人関係が貧困な時代において、乳幼児期に愛着形成に基づいたコミュニケーション能力を徐々に発達させられない子どもたちが増えていて、それが、現在の小学校低学年の暴力、いじめ、学級崩壊の増加につながっている可能性がありますから、いま、すべきことは、コミュニケーションを止めたりマインドフルネスや薬で落ち着かせたりすることよりも、0-1歳の甘えの受容と2-3歳児期の自立期のいやいやをしっかり体験させ、4-5歳の集団対応能力の形成期を通して、自分で自分をコントロールする術を身につけさせることを、より小さい時期にやっておくことなのですが、それができずに小学校に入ってくる子どもたちをさらに「抑制」すると、幼児期に発達するはずの高次神経活動が抑えられて、後々にそれが爆発するということになります(子どものからだと心白書 2020 高次神経活動P131-135 暴力行為 P118  いじめP116  参照)。年齢が上になってからでは、対応がより複雑に大変になるでしょう。

 具体的には、隣の席にいても、クラスの中にいても、メディアを通してやりとりするという状況が進む可能性があります。家庭内でみんながスマホを見て食事、マックでカップルがそれぞれのスマホを見てラインでやり取り、ということが、子どもたち同士の中で広がっていくかもしれません。
 このような状況が進行すると、思春期以降のリアルな人間関係形成に影響が及ぶでしょう。そうして育った子どもたちが親になれば、その親子の関係性にも影響するでしょう。既に、現時点で、赤ちゃんの目を見てコミュニケーションする量が少ない親が出てきているのですから。

追記です)現時点でも子どもたちは一斉授業の場合にはコミュニケーションをとっていない、ということに遅ればせながら気がつきました。ただ、小学校の授業の場合は、一斉授業と言ってもなにやかやコミュニケーションがある授業が多いように思いますが、そのあたりは現場感覚としてどうでしょうか。一方、ICTを使っている学校では、見学した範囲ではタブレットやパソコンを前に2-3人の生徒が話し合っている、ということはよくあると思いますが、その場合、そもそも気の合う仲間同士であることが多く、クラス全体のディスカッションがあるということは少ないように思いますので、やはり全体のコミュニケーションの量と質は変化するように思います。担任の配慮次第かもしれません。きちんと観察してデータを取ると面白いでしょうね。

2)ベテランの先生が自信喪失する⇒
 ICT活用のサポートが順調でない(現状では十分とは言えません) と、ベテランの先生方が、パソコンの使い方がわからない、今までの教育方法が使えないという二重苦になって、自信喪失してしまうかもしれません。わかりませんとは簡単に言えないでしょうから、妙に頑固にこだわったり、別のところで権力をふるおうとしたりするかもしれません。日本の教育の技術、方法のまずい部分が消えると同時に、良い部分も伝承されずに消失していく可能性があります。 
 教育改革の際には、新人の新しい方法とベテランの旧い方法を2:8あるいは3:7で進めていくと成功するということを、オランダで聞いたことがあります。一年生から徐々に導入して、6年かけて完成年度に持っていくという話も聞きました。が、今回のように一斉に転換させるということは、それだけひずみが出てしまうということです。教育改革待ったなし、と思う気持ちは私もわかりますが、急な変化によるひずみが先生のみならず、子どもたちに降りかかることをどう防げばいいのでしょうか。その対策を考えておく必要があるでしょう。
 また、すでに低学年で、いじめや暴力、学級崩壊が増えており、ベテランでも運営が難しいクラスが出てきています。従来の子どもの発達と違う発達の子どもたちが現れているからです。その対応方法まではベテランでも身につけていない場合があり、さらに即効薬としてICTに頼ることになっていくでしょう。そわそわする子どもたちにはICTが心地よいからです。興奮する子どもたちは、その興奮を画面の中で個別に味わうようになり、おっとり型の子どもたちはマイペースですから、文句を言いません。活発型の子どもたちまでも、成長の機会を逃します。

3)学びの意味が変わる⇒
 ICTを使った反復トレーニングと共に、調べ学習が始まるでしょう。そこでは思考能力を育てることが謳われていますが、実際は、パソコンで「素晴らしい情報を調べて切り貼り」してみんながその情報に感嘆するというような「調べ学習」レベルで留まるクラスが続出するでしょう。先生がさらに子どもたちが思考を深めるような指導ができればいいのですが、それができる先生は、一斉授業でもいい授業ができる先生で、通常はそこまでの指導は難しいと思われます。一部の実験校やモデル校がうまくいっているからと言って、それが敷衍することは保障されません。力のある先生が周囲の先生をリードできればいいのですが、その保証もありません。上手くできない教員が悪い、のではなく、広がらないようなモデルに問題があると考えたほうが現実的です。対策が必要でしょう。しっかりとした研修が必要になるでしょう。ホワイトボード・ミーティング🄬は、型があるので、トレーニングによってある程度身につけることが可能な方法として、ひとつの可能性かもしれません。上手く進むといいと思います。

 子どもたちの学びの世界が画面の中に入っていき、向き合うのが人ではなく画面になっていきます。インターネットは視野の広がりを可能にしますが現実の身近なものとを結びつけて身近なものから学ぶ力をその前にどうつけていくかが問われるでしょう。新しく便利なものは、その分、何かを退化させます。心理学的な影響を精査していく必要があると思われます。

追記)田中康平様からのコメントの引用・転載(FBの公開投稿より)
 私の小中高でのICT導入と支援の経験と、私のスクールや幼保でのICT活用で意識していることから
1)学びの個別化が実現する
    →「教授する側がデザインする(=ICT任せにしない)」
ICTを「模造紙がさらに大きく立体的になりマルチメディア対応したもの」的に捉えて、そ情報や意見や想いの共有を促しやすくできる環境として機能させつつ、思考判断のプロセスでは共同作業の機会を中心にし、表現の段階では「口頭や文書での言語化」「実演」など取り入れることで、共同的・協調的(育ち合い・学び合い)な学びが、より豊かになるように「教授する側がデザインする(=ICT任せにしない)」ということを共有しておくことも大切かと思います。
2)ベテランの先生が自信喪失する
    →「ベテランの目(みとり)こそ最重要」
新しい道具や環境で学びを展開する場合は、それによる子どもの変化を見つけ、支援する「目(みとり)」が最も重要だと思います。AIではなく、子どもの背景を含む全体像から見出す成果や問題点を掴む「目」です。これについて、若手はベテランによく習うことが肝要だと考えています。
3)学びの意味が変わる
   ⇒「子どもたちが本来持っている"学習能力"を生かす」
ICTを活用し、様々な情報や知識に触れる機会と、自らの試行錯誤の経験が増えることで、従来の学校教育の枠を超えて学びすすめる子や、自らの課題を自力解決する子が出てきます。私には、その姿が幼児期の言語の獲得のように見えます。そういう、本来持っている学習能力を生かすことができれば、画一的な学び方による学び難さから解放されたり、自ら学びたい内容に加速することが許容されるケースが増えるのではと期待しています。
 子どもの姿をよく観察して、良い点、問題点を共有し、より良い方法を見出して行けたらと思います。



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