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元バルサのコーチが語る 「マネジメントとは感情と向き合うこと」である

この記事は「元バルサコーチが語る シリーズ」の最終回となります。
第一弾は「元バルサのコーチが語る スペイン人から見た日本」第二弾は「元バルサのコーチが語る フットボールの前提」を書きました。

最終回は、選手育成を通した「人との向き合い方」「マネジメント」の部分にフォーカスしています。スペイン人の選手育成法やマネジメント法は、テクニックに頼ることよりも、目の前の人間と真剣に向き合って課題や問題を解決しようとする方法をとっていることが分かりました。
現代社会には数多くの「How to」(テクニック)が存在しますが、どれだけテクニックを磨いても、根本的な解決がなされなければうまくいきません。彼の話しには少し「How to」に頼りすぎている僕たちを、ハッとさせてくれる要素が詰まっているように感じます。ここに書いていてある事は、あくまでもスペイン人からの視点なので、
「こういう考えもあるな」程度でお楽しみください。

子供に教える時、スペイン人が大切にしていること

僕たちにスペイン人にとって一番大切なことは「目の前の子供を知る」ことだね。全ての子供に対して、フットボールを同じように教えるのは間違いだと思っている。みんなそれぞれ違うからね。それぞれの子供を理解しないと。それぞれがどういう性格なのか、どんな時に幸せを感じるか、どういう特徴を持っているのかを理解するんだ。それらを知ってからトレーニングというフェーズに入るね。

とても恥ずかしがり屋で、なかなかピッチ上で激しくプレーできない子供がいたとしよう。そうしたら、「その子供がどうすればピッチで輝くことができるのか?」ということを考えて、かける言葉や関わり方を考える必要があるね。

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あるべき形を目指すのではなく、目の前の人を理解する

これは、日本人全体に言えると思うんだけど、日本は「こうあるべき」という形を大切にしすぎていて、目の前にいる人を理解することが疎かだと感じた。人の内面や感情をあまり深掘りしないよね。だから自分や他人の感情に触れる機会があまりないんだよ。初対面の人に、ハグをしたりするのはマナー違反なんだよね?しかし、ハグは僕たちからしてみれば文化の一部なんだ。
日常的に自分や他人の感情と密に生きている僕たちは、感情の使い方や感情をポジティブにコントロールする方法を知っている。
まず、人にはたくさんの感情があることを理解しなければいけない。
僕たちはロボットじゃないんだ。
子供を一人の人間として知ろうとすることは、その子供のポテンシャルを引き出すことの助けとなる。

これは上司と部下の関係にも言えるよね。
上司は部下を知ろうとしなければいけないと思うんだ。どれだけ知識があっても、目の前にいる人間を知らなかったら何も達成できないよ。僕たちは、皆同じ機械ではなくて、それぞれ違う人間なんだよ。それでも、君たち日本人は、今の日本人としてのあり方で素晴らしいことを残してきたよね。いいものを作る為には、無数の要素があるんだ。それぞれの良さを上手く抽出して、自分たちにとってのいいものを完成させるイメージ。

今言った良さについてなんだけど、良さという要素の中でより優れているものは存在しないと思っている。うまい組み合わせで、1つの要素が飛び抜けて見えることはあってもね。だから、物事が進んでいる時は、内側で何が起こっているかを注意深く観察しなければいけないんだ。

クリエイティビティが生まれるプロセス

クリエイティビティは「結果を求めない」ということから始まると思っている。
僕が、君に犬を描かせたとしよう。
それで君が、描いた犬があまり上手じゃなかったとする。それを見て僕は「これは犬じゃないよ」と言ったら、君は絵を描くのをやめてしまうと思うんだ。そんなことを言われたら「自分は絵が下手くそなんだ」と決めつけてしまうだろ?
けど、代わりに僕が君が描いた犬を見て「この犬いいね!すごく気に入ったよ!」と言ったらどうなるかな?もっと上手く描きたいと思うようになって、カッコ良い犬を描けるようになるまで練習するよね。「上手な犬が描けなくても、絵を描くことを続けて良いよ。」という意味になるんだ。
これはスピード重視の現代社会の問題だと思うんだけど、特に日本は「早く目の前の結果を出すこと」を求めすぎていると思うね。才能は突然現れるものではなく、磨かれ開発されるものなんだよ。クリエイティビティは一つの才能。
時間をかけて開発していくしかないんだ。

モーツァルトを知っているよね?
もし、彼が子供の頃、弾いてるピアノを誰かに取り上げられ「君の弾き方は好きじゃないと」言われいたら、モーツァルトは有名になっていなかった。フットボールに置き換えると、監督がシュートが上手くない子供に「お前はシュートが下手だからシュートを打つな!」と言ったら、その子が自信を持ってシュートを打つ機会はもう来ない。
子供にリミットを設定してしまうのはいつも大人なんだよ。自分の人生を振り返ってみてよ。
今、君ができる全てのことは、始めは上手じゃなかったけど、必ず何処かの瞬間で続けることを許されたことでしょ?
それがキーになってると思う。

フットボールだけに限らず、仕事という視点から見ても言えることは

・すぐに結果を求めずにやらせてみる。
・修正する必要のある間違いが出てきたら修正する。

ということ。
プロジェクト達成の為にオフィスでマネージャーとしてグループワークするのと、ピッチ上で選手をまとめゲームをするので違いはあるかな?
一緒だよ。どちらも人を導くことには代わりないよね。もちろん細かな業務で違いはあるけど、感情を持った人々を理解するという本質は同じだと思う。大人とか子供は関係なく、人を導く際には「全てうまくいかないこと」、「失敗することもある」ということを理解しなくてはいけないんだ。成功した回数が失敗した回数より多い人なんて聞いたことないよ。マイケルジョーダンは15年NBAでプレーしたけど、勝ったのは6回だ。
何が言いたいかというと、9回負けたということ。
成功する回数より失敗する回数の方が多いんだよ。何かを進めると言うプロセスの中では、忍耐強くあらなければならない。

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スペイン人の彼が、もし日本でチームを率いたら

まず、自分のチームの選手を知ることから始めるね。何を知ろうとするかというと、

・ピッチ上での振る舞い方
・ピッチ外での振る舞い方
・個人的なこと
・彼らの両親と話をして、フットボール以外のことはどうなのかを聞く
・勉強のこと
・いつ幸せな気持ちになるのか、どういう時に悲しくなるのか

これらを一番初めに知ろうとするね。
今挙げたのは、技術や戦術以前のことだね。
これらを全て知り、「仕事を始めるにあたって何をするべきか」が見えた状態で仕事を始める。

自分が指導したアメリカや中国のチーム、バルサアカデミーでは今言ったことを徹底してきた。
その結果もあってか、質の良い育成をすることができたね。指導した選手では、ラ・リーガ1部や2部、アメリカのMLSでプレーしている選手が十数人いる。その中のほとんどの選手のレベルは、特別なものではなかった。才能は磨き、開発するものなんだよ。

例えば、今、香川真司もプレーしているサラゴサにいるGKのアルバロ・ラトン。彼がデポルティーボ・ラ・コルーニャに契約解除されてうちのチームに来たんだけど、それから1シーズン後、レアル・マドリードが彼と契約したがったんだ。結局、レアルには行かなかったんだけど、レアルはずっと彼を追っていた。大きなステップだよね。
その後は、ベティスやアトレティコ・マドリーでもプレーしたね。一つの場所で落第扱いされても終わりじゃないんだよ。今いる場所でダメでも、他に輝ける場所が必ずあるということ。

僕が指導して、今もプロで活躍している十数人のほとんどが、僕が指導していたチームに来た時の状況はよくなかった。しかし、自分を磨き直してトップレベルに上り詰めたんだ。
スペインでは、今いるチームで出番がない選手はすぐに移籍しようとするんだ。そういった選手が移籍して、新たなチームで背番号10番を付けるなんていうことも珍しくない。
日本ではあまりこう言ったことは起きないと聞いたけど、それは、全員を同じような選手に育てようとしてるからじゃないかな?
全ての子供を同じように見ていたら、当然、一つの評価基準の中でできる子供が上に行くのは当たり前だよ。しかし、子供の特徴は一人一人違うんだ。

僕たちスペイン人はこう思っている。
「悪い選手はいない。チームやプレーを間違えて解釈し、誤ったプレーをしてしまう選手がいるだけ」とね。例えば、バルサでプレーしているテア・シュテーゲンが、レアルに移籍したらどうかな?今と全く同じクオリティのプレーができると思う?
できないよ。
だから、それと同じようなことは子供にも言えるんだ。今、プレーしているチームでは良いプレーができないだけ、という状態に過ぎない。そうなったら移籍しないと。プレーヤーはプレーし続けないと絶対に成長しないんだよ。そうやって違うスタイルのチームに移籍すれば、うまく行くことがとても多い。何回も言うけど、それぞれの選手に特徴やコンディションがあるんだ。
今いる場所よりも輝ける可能性がある場所が絶対にある。これは仕事でも言えると思うね。

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フットボールはどんなスポーツか?

フットボールは「常に状況が変わるスポーツ」だね。選択肢が時間と比例してどんどん減っていくことも言える。大きなところでいうと、フットボールは人生を学べるスポーツだよ。
フットボールは僕たちに様々なことを教えてくれる。「価値観」や「人としてのあり方」とかね。
最近は時間心理的な側面から、分刻みでフットボールを捉えることもある。例えば、心理的な側面から考えて、開始15分の重要を考えてプランを立てたり、ゴールが決まった後の5分の重要性も考慮して、選手に伝え方を考えたりね。
フットボールは、バレーボールや野球と違って、止まらないんだ。常にゲームは流れていて、全く同じ状況は二度と起こらない。

それらをふまえた上で、フットボールで一番重要なことは、「状況を理解し、理解した状況をどう早く解決できるか」ということだね。
技術と戦術はあくまでもその後に来るもの。
状況をどう見るか、そしてどういう手段を使って解決するか。それを早くやらないといけない。

外国文化を取り入れ、成長してきた日本が気をつけること

それを言うには、君たちの歴史を勉強しないとね。第二次世界大戦の前と後で、だいぶ国が変わったと思う。歴史が国のあり方を決めるんだ。
より良い文化なんて世界中どこにも存在しないと僕は考えている。ただ違う文化が存在するだけなんだ。だから、他の文化を学ぶのは素晴らしいことなんだけど、崇拝するのはよくないと思うね。
自分がよりよくなるために、他の文化を知ってみるという立ち位置がいいんじゃないかな。
僕たちも君たちから学べるところがたくさんあるからね。日本がW杯で優勝できる日が来ることを祈っているよ。

彼と話していて、日本には多くのポテンシャルがあることを再認識できました。しかしそれは、持っている力を100%発揮できていないということです。世界最高レベルのフットボールが存在するスペインでさえ、その地位におごらず、常に学ぶ姿勢があり、変化と成長を求めています。
日本が成長しようとしている間に、世界は物凄いスピードで変化、成長を続けている事を頭に入れないといけないと思います。



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