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経済書(2):日本の経済学者・エコノミスト

これまで読んだ経済書の二回目として、今回は日本の経済学者・エコノミストの書いた書籍を中心に紹介したいと思います。

日本の金利・為替政策

まず始めに、この本は絶版となっていますが、「ミスター円」こと元大蔵省財務官、慶応・早稲田・青山学院の教授を歴任された榊原英資さんが
2005年に書かれた「経済の世界勢力図」です。

確かこの本だったと思うのですが、二者択一のジレンマでなく、三項対立のトリレンマというワードを始めて知りました。また、ドル円相場だけ見てもそう単純な話ではないこともよく理解できました。

【国際金融のトリレンマ】 
 「資金の自由な移動」と
 「為替相場の安定性」と
 「国内金融政策の自由度確保」
を通貨政策上、3つ同時に満たすのは困難であり、
どれか一つを諦めなければならない。

つぎに紹介するのは証券エコノミストから、民主党政権では内閣審議官をされていた経済学者の水野和夫さんです。

2014年に出版され、世界史上、極めて長期にわたりゼロ金利政策をとったにも関わらず、日本経済が浮上しないのは、資本を投資しても利潤の出ない資本主義の終焉=「死」を意味する。と断じて、話題になりました。

政府の経済政策の中で、金融政策、特に金利政策はいまでも重要な要素になっていますが、2000年代に入り、いままでの経済理論通りにはいかず、大きな変調を来たしているように私には思えます。

財政問題

ゼロ金利とともに、日本経済に重くのしかかるのは「国の借金」の問題です。
税収と政府予算の収支(プライマリーバランス)が合わずに国債や地方債(借金)の発行残高が伸び続けていることです。

コロナ禍での緊急財政支出もあり、今年度末には1200兆円 GDP比で実に260% 日本経済の3倍近い借金を政府や地方自治体が抱えているということです。

一方で、リフレ派と呼ばれる方々は他の新興国と異なり日本国債は日本企業や日本人の保有比率が高いため、国の財政が破綻するリスクは低い。従って、積極的な財政投融資により経済を浮上させることの方が重要だと主張しています。

さらに輪をかけるように欧米の学者の間から、MMT(Modern Monetary Theory;現代貨幣理論)なる学説が出てきました。

・自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても
 債務不履行になることはない
・財政赤字でも国はインフレが起きない範囲で支出を行うべき
・税は財源ではなく通貨を流通させる仕組みである

ポイントは上記のような話のようなのですが、私自身も新聞や雑誌で読んでも真偽が良くわからず、何となく「狐につままれた」感じがしました。
その中で、経済産業省の官僚でいながら、評論家・思想家として数々の書籍を出されている中野剛志さんの「奇跡の経済教室」にあるMMTの解説で背景にある理論としてはよく理解できました。

中野氏は最近もダイヤモンド・オンライン上でこのテーマで連載を続けているようですので、興味のある方はこちらをご覧になっても良いでしょう。

ただ、理論的には理解できても、やはり個人的には「ほんまかいな?」と感じていました。
そこで、日本出身で米国籍の野村総研・チーフエコノミスト リチャード・クーさんの「追われる国の経済学」を読んでみました。

クー氏によると、ルイスの転換点を超え、「追われる経済」となった先進国では、ある賃金水準以上は企業が新興国への海外移転を選択するため、自国の平均賃金が大幅に上昇することはない
さらに日本企業は過去、バランスシート不況を抱えていたため、大多数の民間企業が余剰利益や資金をバランスシートの修復や改善に動くため、政府や日銀がマネタリーベースを増やしても、内部留保が増えるだけ、個人も賃金上昇が見込めない将来の不安から貯蓄を増やすだけで、景気浮上効果は限定的だと論じています。

彼も財政政策を全面否定している訳ではなく、金融政策に頼るのではなく、規制緩和や産業構造転換への投資は行うべき。ただし、一定期間を過ぎたら、財政規律(プライマリーバランス)を保つ政策に戻すべきだと主張しています。
この話に個人的には非常に納得がいきましたし、現在、アフターコロナの局面になり欧米各国がテーパリング(金融緩和縮小)や利上げのタイミングを見計らっているところを見ると、やはり、MMTのようなラディカルな理論よりも、クー氏のような考え方が各国の金融政策の主流になっているようです。

成長神話

「ゼロ金利」「財政問題」とともに、日本経済に重くのしかかっているのは「人口減少問題」です。

大蔵省主計局出身で政策研究大学院大学教授の松谷 明彦さんが「人口減少経済の新しい公式」を出されたのが2004年。
中国・インド、そしてASEANやアフリカなどの新興国が人口増加による「人口ボーナス」を享受する一方で、日本は他国よりも早く人口減少・高齢化社会を迎え、「人口オーナス期」を迎えている事実から今後も目を離すことは出来ないでしょう。

高度成長期・バブル期を受けて、ここ20年近「デフレ経済」や「人口オーナス」の影響の中で、日本経済は低成長が続いています。
それを「悪」と見るのか、むしろ、成熟した日本は経済成長を前提とせず、「豊かさの中の安定」「生活の質の向上」を目指すべきだという東京大学大学院経済学研究科教授の武田春人さんの意見もあります。

個人的には少し寂しい感じがしますし、縮小経済を目指すのであれば、いまの日本の若者の将来は暗くなるばかりです。
やはり、企業も行政も非効率なところはどんどん改め、そこから出る余剰資金や低金利下での資金を新しい産業やイノベーションに投資し、国全体の生産性や平均賃金上昇へと導いていくことが基本路線なのではないかと考えています。
企業の永続性(Going Concerned)を目指す事業運営におけるポートフォリオ・マネジメントと同様の発想が国レベルでも必要なんだと思います。

***

ただ、最近話題になっている本の中で、大阪市立大学大学院経済学研究科准教授 斎藤幸平さんが書かれた「人新世の資本論」を読んで、経済成長について改めて考えさせられました。

SDGs、特に環境問題の解決において、今後、経済成長とは両立し得ないのではないか? 

人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」= 気候変動を放置すれば、環境危機が確実に訪れる時代。
それを阻止するためには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならない。著者は晩期マルクスの思想の中にある「脱成長コミュニズム」に解決の糸口があると主張しています。

「脱・成長神話」の武田教授の提言に通じるところもありますが、今後、環境問題がテクノロジーだけで解決できないと予測されるのであれば、一考に値する新世代の経済理論のように思えてきます。

次回は海外の経済学者・エコノミストの書籍を紹介する予定です。






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