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リーダーシップ論(3):リーダー育成

MBA等の専門教育を受け、有力企業で豊富な経験を積んだ「経営人材」が労働市場にいる欧米とは異なり、多くの日本企業では終身雇用制をベースに
内部昇格者の中から、どうやって将来の経営幹部やリーダーを育成していくかは積年の課題となっています。

人事部時代に上級幹部研修の企画をした際に参考になった書籍や考えたことをリーダーシップ論の3回目として挙げておきます。

科学系スキル

まず始めに、前回紹介した菅野寛教授の「経営者になる経営者を育てる」の中で言われていた「科学系スキル」についてです。

①マネジメント知識については、いまは欧米のMBAコースに留学しなくても、国内の社会人MBAやグロービスの基本コースで教えていますし、書籍もたくさん出版されていますので、インプットに困ることはないでしょう。

また、私自身がこれまで読んできた書籍については、過去のマネジメント経験や考えてきた事と合わせて、noteにUpしてきましたので、興味のある方は読んでみて下さい。

つぎの②ロジカルシンキングについては昔から日本人は弱いと言われています。
海外とのビジネスでは英語力以上にロジカルな話し方・伝え方がより重要になってきます。日本人・単一組織文化の中だけで通じる以心伝心や忖度はグローバル社会では通用しません。

①のマネジメント知識を学んでいく中でも、少しずつ出来てくるようになるかと思いますが、論理的思考のスキルとしてロジカルシンキングに関する書籍にも一通り目を通しておいた方が良いでしょう。


アート系スキル

アート系スキルとして菅野教授の書籍では①強烈な意思 ②勇気 ③インサイト ④しつこさ ⑤ソフトな統率力が上げられていますが、ここでは一つずつとりあげることはせず、これらのリーダーシップとして肝が据わった姿勢がどうしたら身に付けられるか、どういう経験が有効なのかについて有力な説があります。

それは「修羅場を通じた一皮むける経験」です。日本ではキャリア開発の第一人者 神戸大学MBAの金井壽宏教授が提唱して人材開発分野では有名になりました。
リーダーの全人教育を行うNPO法人ISL理事長野田智義氏との共著
「リーダーシップの旅 見えないものを見る」はリーダーとしていかに人間力を高めるべきかを説いた名著です。

リーダーシップの旅を続ける途中で困難に直面した場合、それをどう乗り切るか。成功の鍵を握るのは、「夢と志」があるかどうかだ。

実はこの「一皮むける経験」の重要性は、日本発ではなく、米国の研究機関でも同様に提唱されています。
リーダーシップ教育の総本山と呼ばれる CCL (Center for Creative Leadership)において、「人間の成長プロセス」として科学的に立証されているようです。

人材教育に熱心な先進企業では、リーダーシップ・パイプラインのファストパスに乗った幹部候補を優秀だからと花形部門だけを渡り歩かせるようなことはせず、発展途上国に派遣したり、不振な事業・子会社の立て直しに行かせたりと、あえて修羅場を経験させるようにしています。皆さんの所属する企業ではどうでしょうか?

リーダー/マネジメントの心構え

最後にリーダーシップ教育の全体像本質的な姿勢・心構えについて書かれた2つの書籍を挙げておきます。

1冊目はリーダー育成機関として有名なGEクロトンビルのプログラム・マネジャーだった田口力さんの「世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本」です。

リーダー教育においてクロトンビルでは何が基本にされていたかを解き明かしています。
「なぜ、何のために」を重視し、自分を(で)「知る」「伝える」「考える」「鍛える」「変える」「導く」そして、最後に「他者を導く」についてそれぞれ必要となるスキルマインドを章ごとに解説しています。

著者が最も衝撃を受けたのは、最初の会議の冒頭で上司に言われた次の言葉だったそうです。それだけ、GEでは幹部人材においても教育を大切にしていたことが窺われます。

If you stop learning, you have to leave GE
 - 学びことをやめたら、その時、君はGEを去れ


2冊目は日本の経営者や管理者に間でファンの方が多いシンクタンク・ソフィアバンク代表 多摩大学MBA教授でもある田坂広志さんの「なぜマネジメントが壁に突き当たるのか」です。

著者自ら、本書のはじめに以下のように述べています。

「本書は私の『マネジメント原論』とでも呼ぶべきものであり、二十一世紀に『アート』へと深化していくマネジメントについて、その『基本思想』と『ビジョン』を語ったものです」

マイケル・ポランニーの暗黙知やサンタフェ研究所の複雑系の引用もあり、一見、難しい内容に感じますが、マネジメントの現場における事例や考え方を踏まえて、分析力(科学系スキル)を超えて、マネジメントに必要とされる「大局観」や「直観力」の重要性について、第12講まで一つずつ解説していきます。

目次だけ見ても、悩み多きリーダーやマネジャーの方は手にとって読んでみたくなりませんか?

目次
開 講  なぜ、マネジメントには「沈黙は金」の瞬間があるのか
第一講  なぜ、「論理的」な人間が社内を説得できないのか
第ニ講  なぜ、マネジメントにおける「直観力」が身につかないのか
第三講  なぜ、「原因究明」によって問題を解決できないのか
第四講  なぜ、「矛盾」を安易に解決してはならないのか
第五講  なぜ、「多数」が賛成する案が成功を保証しないのか
第六講  なぜ、成功するマネジメントは「完璧主義」に見えるのか
第七講  なぜ、「成功者」を模倣することができないのか
第八講  なぜ、「経験」だけでは仕事に熟達できないのか
第九講  なぜ、「ベスト・チーム」が必ずしも成功しないのか
第十講  なぜ、「動かそう」とすると部下は動かないのか
第十一講 なぜ、「教育」しても部下が成長しないのか
第十二講 なぜ、「優秀な上司」の下で部下が育たないのか
閉 講  なぜ、マネジメントは「アート」になっていくのか

多くの日本企業において、階層別研修が部課長止まり、マネジメントやリーダーシップの基本知識程度で終わってしまうのは非常に残念ですし、上級管理者や経営幹部になっても学びを止めず、本質的な問いを続けていくことが真のリーダーになるために必要とされていると思います。

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