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人事・人材マネジメント(5):評価・処遇

今回は社員の誰もが気にしていている評価と処遇について。
逆に人事部が一番、不平・不満を言われがちなテーマです。

日本企業の評価制度

高度成長期には一般的だった年功的な評価制度を改めるべく、1970年代に多くの日本企業は職能資格制度を導入していきました。

しかし、職能資格制度は完全な年功制ではないもの、経験年数による成熟度や職能資格の下方硬直性を考慮すると、まだ年功的な要素が強く残っていました。

そして、バブル崩壊の90年代以降、リストラや早期退職制度を採る企業も出てくる中、残った社員に対して、業績をあげた人材にはより手厚い給与(業績手当+成果見合いの昇給スピード)を出す成果主義へと進化していきます。そこで個人の業績を測る手段として導入されたのが目標管理制度(MBO)です。

これらの人事評価制度と表裏一体で、経営管理側では総額人件費や適性要員数をどう管理するかも大きなテーマです。
下記の書籍では適正要員数と人件費を「戦略アプローチ(投資)」「財務アプローチ(利益)」「業務アプローチ(効率性)」の3つの視点で捉えた考え方を示しています。

これらについて人事部に配属された方は自社の人事制度の基礎としてしっかりと学ぶべきだとは思います。

しかし、ここからは私の考えですが、これらの制度や分析手法は伝統的な日本企業におけるピラミッド型組織構造やポスト数(役員数や管理職比率)工場における労務費管理の考え方をベースとしているため、今日的な成長企業、プロフェッショナルを前提としたジョブ型雇用には小手先の改善や制度変更では追い付くことができず、基本的な考え方そのものに限界が生じているように感じています。

人事部は総額人件費を意識した相対評価制度、また、退職後までの雇用維持を前提としたポスト数・上位職能比率から見た昇格枠管理からなかなか脱却出来ていません。

一方、成果主義が徹底されていた外資系では、インセンティブが日本企業の倍~数倍という話は良く聞きます。日本では副社長というよりも事業部長や部長に相当するVPというポストの名刺を持つ方も数多くいますし、日本企業が役員数を絞っている中、外資系日本企業では執行役員やディレクタークラスが数十名以上いる例も多く見受けられます。

事業部の上に事業本部、その上にカンパニー。専務・常務、事業部長・統括部長・部長・次長と、重層的な階層や序列をつけたがる日本的な文化が、逆に人事や評価の硬直性を招く一因になっているのかもしれません。

米国企業の評価制度

さて、成果主義一辺倒と思われている米国企業はその後、どのように人事・評価制度を変えてきているのでしょうか?

下記、カオナビの解説にあるように、日本が成果主義を導入した90年代から米国では、すでにその弊害・行き過ぎを各企業は感じていて、より人物寄りの評価(コンピテンシー評価)役割外の評価(360度評価)などが導入されてきました。
つまり、日本企業は米国から90年代以前の成果主義の考え方を導入して以降、メンバーシップ型雇用に合わせて日本流にアレンジしたとは言え、そこからは事実上、制度としての進化が止まっているのではないでしょうか?

特に上記のコラムの中にある「ノーレイティング」の考え方は多くの日本企業の人事部門にとって衝撃的だと思います。

ノーレィテイングは人事評価をしないことではなく、「社員のランク付け」であるレイティング(相対評価・順位付け)をやめる、また、(MBO等に基づいた)年次評価をしない、というのが正しい解釈だそうです。

総額人件費やポスト数・管理職比率等を気にし過ぎている日本の人事部門ではなかなか相容れない考え方だと思いますが、一方、柔軟でフラットな組織構造(ポスト数の増減も容易)、ジョブ型雇用と業績見合いで社員を労働市場における価値(≠社内価値)で報いることに慣れた欧米企業、また高成長を続ける企業だからこそできる、新たな制度なのかもしれません。

ノーレイテイングを中心とした米国企業の人事制度については下記の書籍でに詳しいので、興味のある方はぜひご参照ください。

評価と処遇、結局のところ

この話、以前、このブログで管理会計をテーマにした際、「管理会計の罠」として、伝統的な管理会計制度における事業部責任会計や予算管理が実は日本企業の成長を妨げているのではないか?という仮説を提示しましたが、
日本企業の人事評価制度でも同じことが起こっているのではないでしょうか?

今後、ジョブ型雇用が叫ばれている中で、日本企業の人事評価制度がどのように変化していくかは私も注視していきたいと思います。

たた、結局のところ、各社がどのような人事評価制度を採るにせよ、いくら精緻な評価指標を作ったとしても、評価には「曖昧」なところが残ってしまいます。むしろ、社員とマネジャー、会社との間に、いかに評価の納得性を醸成するかが最も重要ではないでしょうか?

その意味で、ノーレィテイングとともに欧米企業やネット企業で導入されている1on 1ミーティングは上司への信頼と部下の成長を目的とした人材マネジメントの有効な手法の一つになるでしょう。
以下の書籍と合わせて、皆さんもこれからの人事評価制度の将来像・あるべき姿を考えてみてください。


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