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【ちょっと昔の世界一周】 #11 《旅に不安はつきもの》

『さてどうしよう…』

バスを降りバックパックを受け取り考えた。

どうしようと言ってもやることは決まっている。

〝宿探し〟

ビエンチャンではタカダさんと一緒だったが、今回はもちろん1人だ。

『どこに行けばいいかな?』

そんなことを考えていると声が聞こえてくる。

「ホテル!ホテル!カモーン!」

声のする方に目をやると、1台のピックアップトラックの前にいる男が手招きをしながら大声を出している。

その声を聞いたのか同じバスに乗っていた白人のバックパッカーたちが車の周りに集まっている。

当てもないし私も近くに行ってみた。

集まっていたのは私を入れて4人。

どうやらそのうちの男女2人はカップルらしい。
その他にもう1人、小柄な女性旅行者。

女性陣のバックパックですら私のよりも大きく、それなりに汚れもつきギッチリと荷物が詰まり、旅慣れしてる感が漂っている。

すでに宿について確認しているようで、声をかけていた男が「ベリーグッド。ノー、エクスペンシブホテル」と言っている。

『高くないならいいんじゃないかな』

そう思っているのは全員同じだったようで、自然と顔を見合わせ乗ろうといった雰囲気になる。

他のメンバーが車代を交渉してくれて割り勘で安く行けることになり、荷台に乗り込む。

車が動き出し、風を切って進んでいく。

荷台に乗っているのでもちろん直接風が当たるがそれがなんとも心地よい。

カップルらしい2人はおしゃべりをしている。
もう1人の小柄な女性は海外では有名な旅行ガイド本を見ている。

本のタイトルの文字を見ると、どうやらフランス人のようだ。
〝Laos〟というよりもサワンナケートについて色々と調べている様子。

何もやることのない私は風を感じながら街並みを眺めていた。

すると、私たちを乗せた車は作りのしっかりとした高級感のある建物の前に着いた。

『ここか!?なんだか高そうだけど…』

どうやら皆そう感じたようで、再び顔を見合わせる。

運転してきた男がここだよ!といった感じで指を差す。

カップル2人は困りながらも宿の方へ歩いて行く。

私はとりあえず値段の確認と思い宿から出てきた人へ聞いてみて驚いた。

150,000キープ(1,800円程)

ビエンチャンの宿が一部屋80,000キープである。
その約2倍…

多分値段に見合った部屋なのだろう。
だが、私にとっては高すぎる。

と、その話を聞いたフランス人が激怒した!

連れてきた男と宿の人を怒鳴りつけている。

「高くないと言ったから付いてきた!それなのにどういうことだ!おまえ(宿の人を指差し)もそうさせたんだろ!」

たぶんこんな感じのことを言っていたのであろう。

見た目からは想像もできないほどの怒り様で全員たじろぐ。

先に行っていたカップルも驚いている。

一通り怒りを出し切ったのか、そのフランス人はもういい!といった感じで荷物を背負い道路の方へ歩いて行った。

一瞬の静寂の後、連れてきた男が困った顔で私の方を見てきた。

目が合い、私は深く頷きバックパックを背負うと彼女の行った方向へ歩き出した。

*****

少し早歩きで進むと先ほどのフランス人が立ち止まりガイド本を読んでいた。

「Hey !!」

声をかけるとこちらを見て、あぁ…といった表情を見せる。

「Do you know more better hotel ??(もっといい宿知ってる?)」

なんとなく聞いてみた。

すると、彼女は笑いながら

「Yes…better than that Hotel…(あの宿よりはね…)」

と本を掲げて答えてくれた。

そこから彼女に付いていき無事に1泊40,000キープの宿を見つけることができた。

ガイド本を信じ進んでいく

大通りから一本入ると未舗装のような道になる。
さらにそこから奥に入って行った先にある隠れ家的な宿。

1人では見つけられなかっただろう道を入っていく

これで40,000キープとは、なかなかいい。

フロント、というかオーナー家族が住んでいる建物の入り口でチェックインの手続きを済ませ、奥の宿泊棟に案内される。

なんと今回はトイレ・シャワー付きの部屋。
しかも手動ウォシュレットではなく、紙捨て用のゴミ箱も置いてある。

ビエンチャンではタカダさんのアドバイス通り、大きい方の用を足した後は手で洗い乾かしてからのスタイルだったので、紙を使えることは嬉しかった。

ベットも寝心地のいいしっかりとした物だったので、荷物を置いた後に早速靴を脱ぎ腰をおろし横になる。

『なんとかなった〜』

バスを降りてから1時間ほどしか経っていなかったが〝宿探し〟という一大任務を達成できた安心感でいっぱいだった。

天井を眺めながら大の字になると今度は別の感情が湧き出てきた。

不安と寂しさ

日本を出発する時に空港で感じた〝不安〟
バンコクで夜行バスを待つ間にも感じた〝人恋しさ〟

旅をすることで様々な刺激・出会いに紛れていたが、1人になることでその感情が現れてきた。

寂しい

こんな感情を持つことはいつ以来だろう。
緊張や不安は学生時代や仕事でも感じることはあった。

しかし、それなりに成長してから寂しいという感情を持つことはあっただろうか…

自分自身がどういう人間かを考えてみると、友達と一緒にいるのは好きだが1人でも気にしないタイプのはず。

それこそ1人ならそれはそれでできることをすればいい。
ずっとそう考えていた。

だが、今は寂しい。

考えてみればそれもそのはず。
学生・仕事をしている時は周囲の人との関わり・繋がりがあった。

隣にいる人がどういう人で、私はこの人とこういう風に付き合おうと思っている。

そんな環境だった。

当然、今の私がいる環境ではそういったことが無い。

不思議なものだ。
自分の中にあったはずだが、意識していなかった感情。

旅をしたことで気がつけたのかもしれない。

段々と不安・寂しさが入り混じって表現が難しい感情ができあがってくる。

もしかしたら〝恐怖〟なのかもしれない。

目の前に怖い存在があるわけではない。

むしろこれからの旅の行方という存在がない・わからないことに対しての恐怖なのだろうか。

旅をしたい!
そうすれば楽しいことがあるはずだ!

そんな考えは持っていたが、それとは全く逆の感情がやってきた。

このままだとやばい。

そう感じ飛び起きた。

周囲を見渡すと、ベッド横に置いたままのバックパックからサンダルが飛び出している。

それはバンコク・カオサンロードで買った物。

当初、履き物は日本から履いてきた靴とシャワーなどで使うと思い持ってきたビーチサンダルのみ。

しかし、予想よりもアジアの暑さはこたえた。

そんなこともあってビーチサンダルよりもしっかりとし歩き回れそうなサンダルを買っていた。

荷物には入れたが移動続きで履かずにそのままだった。

他の荷物も詰め込んでいることもあって、隙間に入れていたが飛び出してきたのだろう。

『考えててもしょうがない。なるようにしかならない。俺を履いてまず歩け!』

そんなことを言っているような気がした。

確かにその通りである。

流れに身を任せる

旅の初日に考えたこと。

それこそ先ほどの宿探しのドタバタでもなるようになった。

サンダルをバックパックから引き抜き、靴下を脱ぐ。

ポケットに財布を突っ込み私は部屋を出て行った。

*****

部屋を出てフロントの前まで行くと宿の奥さんだろうか、赤ちゃんをあやしながら旦那さん(兄弟?友達?)とおしゃべりをしている。

気づけばだいぶ日も暮れてきている。

今日はバスで肉まんを食べただけで、他に何も食べていない。

夕飯を探そうと思い、どこかいい所がないかと聞くと相談して教えてくれた。

大通りに出たら曲がって、1ブロックほど歩いた所に食堂があるらしい。

「コープチャイ(ありがとう)」

と言い食堂へ向けて歩き出した。

バンコクからビエンチャンに着いた時も感じたが、ここではさらに夜の街が暗い。要は開いている店が少ないのだ。

暗くなっていく道を歩いていると道路を超えた辺りに灯りが見える。
どうやらそこが教えてもらった食堂のようだ。

食堂といっても民家の軒先にタープを張ってテーブルと椅子を並べただけ。
一応看板は立っているが屋台の延長のような感じ。

席に座ると1枚の紙で片面は英語、反対側にはラオ語が書かれたメニューを持ってきてくれた。

ラオ語はもちろん英語で料理名が書いてあっても肉・魚ぐらいしか分からない。

悩んでいると先に食べていた地元のおじさんが自分の皿を見せて教えてくれた。

チキンと書かれた1品とおじさんオススメの野菜炒めを注文する。
そこで思い出し「カオニャオ?」と言うと、もちろんといった表情。

待っている間おじさんや他のお客さんからいろいろ質問される。
内容はビエンチャンの道端の人たちと似たようなものだったが、こういう会話は楽しい。

料理が運ばれ、食べ始める。

鶏肉・カオニャオの組み合わせはもちろんのことだが、おじさんオススメの野菜炒めも美味い。

グッド!と親指を立てるとみんな大喜び。
俺の紹介したのを気に入ったぞ!といった感じで盛り上がっている。

気がつけばその場にいた人たちでワイワイ楽しみながらの夕食。

もちろん私がラオ語を分かるわけでも、彼らが英語を分かるわけでもない。
それでも楽しい時間を過ごすことができた。

食事も終わり、支払い済まし席を立つ。
大勢に見送ってもらい宿へと歩を進める。

歩きながら考えた。

『一人旅をする以上、不安・寂しさはやってくる。でもそれ以上の楽しさ・喜びも必ずやってくる。マイナスの感情があるからこそプラスの感情がよりいいものになてくる』

おじさんたちとの出会いでそう感じることができた。

不安・寂しさがあるから楽しみが増すのなら、全てを楽しんだもん勝ちかもしれない。

これからの旅でやってくるであろう負の感情。それすらを楽しめるようにしていきたい。

そんなことを考えながら宿の灯りをもとめ歩いて行った。



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