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【ちょっと昔の世界一周】 #3 《自由って...》

昨晩の出来事を思い出していると、お腹が空いてきた。

よく考えると、夕食をとらずに寝てしまった。

どうやらそんなことも気づかないほど気を張っていたようだ。

お腹が空いたと感じるようになったということは、少しは緊張がほぐれてきたようだ。

『ご飯でも食べに行くか...』

誰かがいるわけではない。
自分自身に言っているのかも分からないが、一言発してから部屋を出て行った。

とはいえ手持ちは相変わらずドル紙幣のみ。
両替所もまだ開いてない時間なので、ひとまず宿のレストランに向かった。

階段を降りフロント横のレストランに着く。
そこでは、昨夜の従業員が注文を取るために動き回っていた。

目が合うと〝お好きな席にどうぞ〟といった雰囲気を出していたので、空いている席につきメニュー(といっても目玉焼きにポテトとサラダ、メインをご飯かトーストで選ぶだけだが)を眺める。

そうしていると彼が注文をとりに来た。

〝昨日はどうも〟そんな顔をしているので、

「(メニュー表の金額を指差し)この金額で間違いないよね」

と聞いてみると〝バレたか!〟といった顔で「イエス!」と答え、厨房へ消えて行った。

すぐに朝食が運ばれてきて、食べながら今日の予定を考えだした。

まずは両替。
近くに両替所があることはガイドブック(歩き方のはずが〝迷い方〟として知られている本)で調べていたので行けるはず。

そしてその後は...

そんなことを考えていると、例の従業員がコーヒーを持ってきた。

朝食には付いていない。
なんなら別料金で書いてあった。

頼んでないよ。と伝えると、

「サービス」

と一言だけ言って別の客の注文をとりに行った。

昨夜の出来事は笑い話だったが、もちろん怒りもあった。
別に下に見るわけではないのだが、やはり経済の差があるとこんな感じなのか...
とはいえ人を騙すなんて許せない!

そんなことを考えていた自分が恥ずかしくなった。

ボッタクリはもちろん悪い。
他にどんな善行をしても事実は事実。

でも、なんだろう?

不思議な感じである。

自分の常識だけではない世界。
これを感じられるのが〝旅〟なのかもしれない。

そんなことを思いながら、コーヒーを飲み干し会計を済ます。

また、目が合った彼に
See you
と言って手を(振るわけではなく)上げ、席をたった。

*****

腹ごしらえもすまし、いよいよ行動開始だ。

とはいえ海外を1人で歩くというのは初めて。

財布はポケットに入れてあとは何を持っていこうか考えた。

旅に出る前に
『せっかくだから色々写真を撮ろう!でもカメラが目立ったら襲われるかもしれないから、できるだけ小さいのにしよう』

そんな考えで買ったカメラがあったのだが
『昨日のこともあったし、旅に慣れてないから万が一に備えて置いていこう』

そんなことを考え、貴重品入れにしまいバックパックの奥に押し込んだ。

宿を出て少し歩く。
すると目の前に
〝Exchange〟
の文字が見えてきた。

両替所の中(といっても日本でいう宝くじ売り場のような感じだが)に入ると、
「Hello」
〝微笑みの国・タイ〟を象徴するかのような素晴らしい笑顔でしっかりとした体型のおばさんが出迎えてくれた。
横を見ると壁にレートが書いてある。

両替はできるだけいいレートの店を探した方がいい

そんなことを調べてはいたが、とりあえず今はそんなことは関係ない。

窓越しにドルを数枚渡し、両替が始まる。

まずこちらが渡したドルを確認する。
時間をかけ1枚1枚丁寧に見ている。

『そうか、偽札の確認か!』

〝偽札〟

日本に住んでいればニュースで聞くことはあれど、実物を見ることはないだろう。

しかし、ここは日本とは違う。

偽札を使い両替する人もいれば、両替所から偽札を渡されるケースもあると聞いていた。

それは確認するよな…

そう思って見ていると、ドルを横に置きバーツ紙幣を数え出した。

計算が終わると両替が終わったバーツ紙幣・硬貨を数えながら渡してくれる。

もしも、「はい、どうぞ」といった感じでサッと渡すと、後からトラブルになることもあるのだろう。

お互いに確認が終わり、ようやく手に入れたバーツを財布にしまう。

「Bye」

これまた素晴らしい笑顔で声をかけてくれるおばさん。

「Thank you」

思わずこちらも返事をした。

『いい人でよかった…』

ひとまず最初の目標である両替も終了。
一安心し歩き出しながら考えた。

『さて次は…』

そう思った瞬間、足が止まった。

『次は…何をする…』

宿を出た時は〝両替〟という目的があった。

思い返せば、家を出た時から
〝飛行機に乗る〟〝宿に行く〟〝水を買う〟
といった〝目的〟を達成するために動いていた。

そして今…

目的がなくなった…

これが例えばツアー旅行であれば
〝〜時まで自由行動で、〜に集合してください〟
といった具合であろう。

ならば時間内に有名な観光スポットやお店に行こうとなるが、それがない。

そんなことは当然といえば当然だが、受け入れるのに少し時間がかかった。

『自由なんだ…』

考えてみれば自由とは何をするのだろう。

働いていた時は確かに休みに自由にできることはよかった。
学生時代も似たような感じ。

友達と出かける、テレビや読書で時間を好きに使う。
数日、いや翌日は休みではないからこそ、限られた休日を自由に過ごそう。

私にとって〝自由〟な日とはそういうものだった。

それがどうだろう。

世界一周航空券では、次のフライトの日程は決まっている。
いわばその日までは〝自由〟なのである。

それにその日付もこちらの考えに合わせて〝自由〟に変更できる。(最終的な期限はあるが)

今日だけではない。
明日も明後日も…
さらにいえば1ヶ月後も〝自由〟

『自由って…難しいのか…』

そんな考えが頭をよぎった。

そんな時、ふと

なるようになる

この言葉が蘇ってきた。

そうだ。
こちらが何を考えてもどうしようもならない時はどうしようもならない。
上手くいく時は何をやっても上手くいく。

流れに身を任せよう

そう思うと急に頭の中がすっきりとしてきた。

旅の初日にいい考えに行きついた。
これからの旅、この言葉を何度思い出すかな?
そんなことを考えながら目的も無く〝自由に〟歩き出した。



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