【ちょっと昔の世界一周】 #9 《旅人の勘》
いざ街歩きをしようと思ったが、どこへ行こう?
ひとまず、宿に置いてあったビエンチャンの地図をポケットから取り出し眺める。
とはいえ、観光スポット書いてあるのだが、ここです!といった感じのものではなく、なんとなくしか書いていない。
それでもないよりはマシか...と思い現在地を確認すると近くに【パトゥーサイ】という場所がある。
確か日本で調べていた時に読んだ気がする。
とりあえず行ってみようと決め向かってみることにした。
歩き始めてすぐにパトゥーサイらしき場所に着く。
確かここは内戦の犠牲者慰霊碑であり、フランスの凱旋門を参考に建てたと書いてあったはず。
せっかくなので展望台まで登ってみる。
意外と時間がかかったが上から見る景色はいいものだった。
とはいえ高所恐怖症ということもあり、なかなか柵までたどり着けないのだが一歩ずつ歩を進める。
日本とは違った景色。
同じアジアとはいえ前日までいたバンコクともまた違った街並みが見えた。
しばらく景色を眺めもう一度地図に目をやる。
そうすると少し行った所に【That Luang】の文字と金色のお寺のイラストがある。
事前に調べておいた記憶を辿ると、ビエンチャンには【タートルアン】という金色のお寺があったはず。
多分ここだ!
そう思い次の目的に決めた。
今いる場所から一本道を歩いていけば着きそうなので、その方向に向かって歩き出す。
確かに一本道に違いはなかったが、思いの外遠かった。
地図を見る限り、10分もかからないで着きそうな感覚だったのだが30分程歩いただろうか。
遠くに金色の建物が見えてきた。
あとから聞いた話では中心街から少し距離があるので、トゥクトゥク(三輪自動車)で行くのが一般的だったらしい。
晴天はいいのだが暑い。
特に日陰もない道を30分も歩くのはなかなかキツかった。
しかし、そんな気持ちを吹き飛ばすような出来事もあった。
歩き始めてすぐのこと。
道の横を見ると、お店なのか家なのか分からないが地元の人たちがゆったりと座って談笑をしている。
その前を外国人旅行者が歩いているのだ、観光地として慣れているとはいえもちろん目で追う。
それを感じた私は
「サバイディー」
とタカダさんから教えてもらったラオ語の挨拶を使ってみる。
すると、集まっていた人たちが一斉に笑顔になり挨拶を返してくれる。
さらにカタコトの英語でどこへ行くかを聞いてくる。
こちらもカタコトながらタートルアンと答えると、道を指差しまっすぐ行けば着くよ。と言った感じで教えてくれる。
ジャパン?チャイナ?や、ラオスはグッドか?と言った質問に答えながらしばらく話し、頑張れよ!と言った雰囲気で送り出してくれる。
少し歩くと別の人たちとまた同じような話になる。
こんなやりとりを何回か繰り返しながらタートルアンに着いた。
同じことの繰り返しだったのだが、毎回会話が終わる時にとてもいい気分になれた。
お互い言葉が通じ合っているわけでも深い会話をしているわけでもない。
だが、純粋にこちらに興味があること、自分たちの街・国をどう感じているのか知りたいといった気持ちが伝わってきた。
肩書きやそれまでの関係性からの見方ではなく、この人たちは私という存在を知ってみたい。
そんな感じで人と関わるのは新鮮だった。
バンコクであったボッタクリのようにカモとして考える人も当然いるだろう。
しかし、そんな風には感じられない。
友達や職場の同僚、先生と生徒や上司・部下。
人との関係性は色々と体験してきた。
その中のどれにも当てはまらない感覚。
バンコクでも同じような感覚を感じることはあった。
もちろん、タカダさんや師匠もそう。
ここで感じた感覚はそれをさらに強くしたような気がする。
『これがラオスの良さなのかな…』
そんなことを考えながらタートルアンの中に入った。
目的のタートルアンも見応えのある物だったのだが、それ以上に行くまでの道のりは私にとっては素晴らしい体験になった。
帰り道も同じように声をかけられながら戻り、その後も街歩きをして宿に戻った。
フロントを抜け部屋に向かう。
すると、廊下の中央にある共用スペースのベンチで外を眺めながらゴロゴロしているタカダさんの姿が見えた。
私の姿に気づいたのか声をかけてくれる。
「おかえり〜。どうだい、ラオスの感じは?」
メチャクチャよかったです!
と答えると、それはよかったと返してくれる。
タカダさんは何してたんですか?と聞くと
「戻りながらお目当ての物探したんだけど、見つけられなくてさ〜。今日は諦めて明日にしようかと思って、昼寝してたんだ」
とのこと。
タカダさんの探し物は聞いていた。
そして、それをタートルアンの近くで売っている人がいたことを伝えると、ちょっと行ってくるわ!と出かけて行った。
一息つくと眠くなってきた。
『少し昼寝でもするかな』
夜行バス明けで歩き回ったのだ。
さすがに疲れた。
ビエンチャンにはそこまで用事がなかったので、明日1日ゆったりしたら次の街へ向かおうと決めていた。
旅をするために体は大事だ。
休める時に休んでおこう。
そう思い部屋に戻りベットに横になった。
*****
どれぐらい眠っていただろう。
ドアが開く音がして目を覚ます。
「いや〜見つからなかったわ!今日は諦めた!」
そう言いながらタカダさんが戻ってきた。
「というか、お腹空かない?晩飯でも探しに行くかい?」
外を見ると暗くなり始めていた。
荷物を持ち夕飯を食べに行く。
「前に来た時に安くていい屋台が集まってる場所見つけたから、そこ探してみるか」
そう言っているタカダさんと共に屋台を探す。
「いい屋台とか店とかって、どうやって探してるんですか?」
これからの旅に必要なことだと思い聞いてみた。
「旅行者同士の会話とか情報ノートで調べるとかもあるけど、俺が1番大事だと思うの〝勘〟だよね!なんだかんだ勘が1番!」
とてもシンプルな答え。
でも確かにそうなのかもしれない。
食事だけではない。
目の前にいる人が良い人か悪い人か。
いつ、どのルートで進むかも含めて旅をする上で勘は大事。
ツアーではなく個人、それも自由にできるということはあらかじめ決められたレールを進むわけではない。
その中で決定権を持つのは自分自身しかいない。
旅人の勘
今の私はどれぐらいあるのだろう。
そんなことを考えていると、屋台が並ぶ広場に着いた。
空はすでに暗くなっているが、広場を埋め尽くす屋台はそれぞれ電灯で照らされている。
なんだかとても幻想的な雰囲気になっている。
見て回ると面白いことに気がついた。
どの屋台も売っている物は同じようだ。
何を売っているかというと〝焼き鳥〟
面白いほど焼き鳥しかない。
焼き鳥だらけですね。とタカダさんに言うと
「そうだよ。だけど、ラオスの焼き鳥は最高!なにせ自然の中で育ってるからか美味い!」
そう言われると町歩き中も道端の露店(ゴザに腰を下ろし)で何かしらの物を売っている人を見たが、紐に繋がれた鶏をよく見た。
なんだろうと思っていたが、そういうことなのだろう。
数ある屋台の中から一つを選び2人で何本か焼き鳥を買う。
料金を渡し焼き鳥をもらう。
すると店の人が何か尋ねタカダさんがイエスと言っている。
その声を聞いてもう1人の店の人が後ろにあるセイロの中から何かを袋に入れて持ってくる。
それを受け取るタカダさん。
宿までの帰り道、袋の中身を聞いてみた。
「これは〝カオニャオ〟っていうラオスのご飯だよ。もち米なんだけど焼き鳥と会うんだよね〜。しかもサービス!」
焼き鳥とご飯…
最高の組み合わせである。
宿に戻り共用スペースのテーブルに夕食を広げ食べ始める。
袋いっぱいのカオニャオからひとつまみを手で取り、コロコロとまるめ口に入れる。
そう教えてもらい試してみるとこれが美味い。
片手に焼き鳥、反対の手でカオニャオ。
確かに最高の組み合わせ。
食事中から寝るまで、これまでの面白いエピソードから危ない話、旅に便利な情報から男同士で盛り上がる話まで色々な話をして過ごした。
翌日も朝食を一緒に食べに行った後はそれぞれ別行動。
前日に歩き回ったし翌日に移動を考えているので、あまり動き回らず近場を散歩して過ごす。
それなりにビエンチャンの街を歩き宿に戻る。
夕飯は前日の屋台に行き同じように焼き鳥とカオニャオ。
2日続けて同じ場所で食べていると宿に住んでいる猫が近づいてくる。
2人と1匹の夕食タイム。
前日のように様々な話をしているとあっという間に夜が更けていった。
次の目的地は【サワンナケート】
本当はワットプーに行くためにはもっと南に行った方がいいのだが、ビエンチャンからワットプーの近くの街【パークセー】まではバスで10時間前後かかるらしい。
バンコクからは夜行バスには乗ったものの正直なところ、10時間以上の移動はなるべく避けたい気持ちがあった。
そんなこともあり、一度途中の街によってからパークセーに行こうと決めていた。
フロントにあったバスの時刻表では7時ごろに出発するバスがあるらしい。
バスターミナルまでは宿の近くにトゥクトゥクがいるのでそれに乗ればいいと教えてもらっていた。
遅くまで話していたが、いざ移動となると早くに目が覚める。
タカダさんも二度寝するから。と起きて見送ってくれた。
「1人だと高くなるから俺も別の宿探すわ!」
と言うタカダさんと前日にチェックアウトの手続きはしていたので、すぐに出発できた。
「いい旅を!」
そう言って玄関で見送ってくれたタカダさんと別れるとすぐにトゥクトゥクが見つかった。
「言い値じゃなく絶対値切りなよ!」
その言葉を思い出しバスターミナルまでの値段を交渉しそれなりの値段で了承する。
途中、どこまで行くんだ?と聞いてくる運転手にサワンナケートと答えると、出身だったらしく色々と話をしてくれる。
英語もラオ語もわからない私としては内容は入ってこなかったのだが、楽しんで欲しい!と言う気持ちは伝わってきた。
バスターミナルに着き代金を払うとお釣りをくれた。
「サービス!」
なんだろう、わずかな滞在だがラオスという国、いやラオス人がとても好きになった。
タートルアンまでの道で出会った人たちもそう、この運転手もそう。
ラオスという国は自分に合っている。
私の旅人の勘がそう言っている
そんなことを考えながらサワンナケート行きのバスを待っていた。
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