【ちょっと昔の世界一周】 #2 《1ドルの価値》
暑さで目が覚めた。
時計を見ると5時を少し過ぎたぐらい。
天井についているファンのスイッチを入れ、もう一度ベッドに横になる。
日本とはどことなく違った暑さ、かび臭いベッド。
改めて旅が始まったんだ…と思いながら、バンコクでの最初の朝を迎えた。
いい感じの風と轟音を生み出すファンを眺めながら、日本を出発した昨日のことを思い出していた。
成田空港に着いた私だが、これから始まる旅に対しての期待というよりは緊張・不安の方が多かった。
なにせ1人で海外に行くことは初めて。
終わってしまえば出国審査すらなんてことないものだったが、チェックインの時点でドキドキしていた。
特に問題もなく時間は流れ、いざ搭乗開始。
昔から飛行機は通路側の席の方がゆっくりできるから好きだったので、荷物を置いて腰掛けると少し緊張が解けてきた。
なるようになる
ここまで来たら後は流れに身を任せよう。
そんな気持ちで出発を持っていた。
私の座席は3人掛けの通路側。
だが、席についた時は窓側の席に1人座っているだけで隣が空いていた。
『隣が空いてるといいなぁ〜』
そんなことを考えていると、黒髪をなびかせスタイルのいい二人組がやってきた。
どうやら私の隣とその前の席らしい。
アジアンビューティーといった雰囲気の1人が私の前を通り席に座る。
フワッと香水のいい香りがする。
『これはいい旅が始まる予感…』
そう思っていると、飛行機が動き出した。
*****
飛行機に乗ってしまえば特に何かをすることもない。
眠くもないし、音楽でも聴いてゆっくりしようかぁ。
そんなことを思っていると、隣の席の人に前の席に座っている友人が話しかけてきた。
多分タイ語のようで内容はわからなかったのだが、
とても低く、太い声だった…
チラッと横目で見ると、綺麗な首元に立派な喉仏が見えた。
反対側に座っている人もほぼ同時に見ていたようで、お互い無言で分かりあった。
そういえばタイは有名だったな…
そのことを思い出し、今までの自分の日常とは違う生活が始まるんだ。
そんな気持ちになり〝旅〟がより楽しみになってきた。
*****
飛行機も無事に到着し入国審査もスムーズに終わる。
夜とはいえ日本とは違った蒸し暑さを感じながら、タクシー乗り場へ向かった。
さすがに夜の到着便でいきなり宿探しからスタートはキツい。そう考えていたので事前に最初の宿だけはネットで予約できるところを探していた。
もし予約されてなくても、近くにホテルはたくさんあるし何とかなるだろう。
そんな考えでタクシーに乗った。
ちなみに私の英語力はというと、一般的な日本人!といえば伝わるであろう。
文法という言葉は知っている。
そんな感じ。
そうとはいえ、ホテル名と住所を言っていたら無事に到着。
予約もできていたようで何事もなく鍵をもらう。
今考えると予約ができる&シャワー・トイレ付きということはそれなりの宿なのだが、ドアを開けると壁・窓・ベッド・洗面台などがガタついていた。
床にバックパックを置きベッドに横になる。
とりあえず着いた。
そう思ったら眠くなってきた。
このまま眠ろうかなぁ…
そう思ったが、喉も乾いていた。
フロントの横に宿付属のレストランがあったはず。
水の1本ぐらい買えるだろう。
そう思ったが、1つ問題があった。
到着が夜ということもあり、空港の両替所は閉まっていた。
手持ちはUSドルのみ。
当初の予定では、着いたらそのまま寝て翌日に両替すればOK。
そう考えていた。
まぁ、外人向けの宿泊施設だしドルでもいける。
勝手にそう思いながらフロントまで行くと、冷蔵庫の前にスタッフの男性が。
カタコトながら、ドルしかないけど水が欲しい。と言うとOKと言われる。
しかし1本1ドルとのこと。
さすがに高いだろ!?そう思っていると、冗談だよ。といった雰囲気で1ドルで2本買うことができた。
無事に初めての買い物を済まし、部屋に戻り荷物を整理しながら考えた。
どう考えても計算が合わない。
やられた!?
と思ったが、怒りよりも笑いが込み上げてきた。
海外、特に経済的に貧しいと言われている国では、ぼったくられることがあるから注意した方がいい。
あれだけ気をつけようと思っていたのにいきなりやられた。
あまりに簡単に引っかかると笑いしか出てこない。
旅の始まりに良い勉強になった。
そう思いながら眠りについた。
気がつくと日が昇り7時を過ぎていた。
枕元に置いたあった1本50円の水をゴクリと飲み、考えた。
1ドル100円。
日本では何気ない金額かもしれない。
だが他の国ではどうだろう?
1ドルは1ドルだが、自分の考え方とは違う価値があるということを昨晩の出来事は学ばせてくれた。
これからの旅、色々な国に行くだろう。
そんな時は今回感じた1ドルの価値を大事にしていこうと心に決めた。
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