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【連載小説】母娘愛 (18)

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「つまらん!つまらん!こがいなんじゃあ、あしたハチゲンボス・八代元が来るんじゃけぇ、今日中に仕上げとかにゃあ・・・」山岡の激が飛ぶ。

 ここは、広島県庁舎。一般の県民に時間貸しする会議室だ。本番当日はワンフロアーを貸し切り、終日一般県民はもちろん、職員も立ち入り禁止にする予定だ。

 山岡が指揮を取る晴れ舞台のリハーサル中だ。本番を二週間後にひかえ、山岡のテンションは上がる一方いっぽうだ。劇団の多額の借財を花輪興業に肩代わりしてもらうことを条件に、危ないハシを渡ろうとしている。

 劇団員たちに今回のヤマを話したとき、何人かは離脱し居なくなったが、山岡は引き留めはしなかった。ヤツらにもヤツらの生き方があると。おかげで、どうしても劇団を、続けたい者同士のよる固い絆ができたと。

 山岡はポジティブに考えて前へ進めたのだ。

 さらに山岡には、団員たちにも敢えてあえてバラしてない、もつと危ないハシも企ててくわだてている。むしろ話さない方が成功率がアップすると判断したからだ。いや!絶対に成功させなければ、命取りになるのは確実だ。

 「ほいじゃ、もっぺん最初から通しで流してみよう。できるだけ自然体でな。特に銀行員役のユカリ!まだまだカタイ!」

「・・・」

 ユカリは俯いたまま、山岡の指示を聞いているのか、いないのか。札束を数える練習に余念がない。「ええな!ユカリ!本物の銀行員に見えるように、・・・あんたの演技で、この芝居を成功させるか?不成功に終わるかの鍵じゃけぇ!重要な役割じゃ・・・あくまでも、表情は優しゅう、手元は効率よう動かして・・・」

 やっと、芝居が再開したかと思ったら、山岡のストップがまたかかる。

さんちゃん!ほいじゃあ、見え見えじゃの。さっき言うたじゃないか!婆さんばっかり狙うなッて・・・」テレビカメラマン役の三郎は、両肩をあげてお道化て見せる。

「約束通りに、婆さんの顔は絶対に狙いんさんな!婆さんにへそ曲げられてしもうたら元も子もないけぇ」山岡はカメラマン役の三郎ら、にせカメラクルーの面々に念を押す。

「ハイ!このあたりで、婆さんが県庁の玄関に到着した!との連絡がスマホに入る!」と、山岡が両手でパチッと合図をして言った。

 演者全員がスタンばっているところに、案内員役に連れられて婆さんが、室内に入ってくる。素早く、にせNPO担当役が婆さんに駆け寄る。

「佐伯さん!この度はお忙しい中、ご足労頂きましてありがとの」婆さんを、受付のテーブルへ案内。受付担当者に紹介する。「こちらが佐伯恵子さんです」「この度は、どうもありがとの」受付嬢は深々と頭を下げる。

 カット!カット!山岡のストップが入る。

「またまた!やってしもうた!隣の受付係が現ナマを受け取るところを、婆さんに見せつけるタイミングが悪い!これじゃ!狙うた効果が出ん!」

 山岡は頭を抱えてしまった。


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