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【連載小説】母娘愛 (19)

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「二週間ほど前のことじゃだけど・・・エヌポォー法人だっけ?・・・そこのマツモトさん言う人と、広島市の職員の何とか言う人がうちに、突然やって来ちゃって・・・」

「突然って?失礼しちゃうよね!それって!」と裕子は恵子を睨みつけて言った。「いや!いや!前日にちゃんと電話をもろうたんじゃけど・・・」

「それで?なんじゃって?」「この度、原爆死没者慰霊に関するモロモロの事業に対するご支援のお願いにあがりたい!ゆうて」「それって!エヌピーオー法人じゃないん?」「なんか?英語はワタシにゃあわからんけど・・・そがいな風なこと言いよった」

「ちいと!待ってよママ!それって?なんだかにおわん?」「私も最初は詐欺だかって・・・でも!説明に来ちゃった人は立派な紳士じゃったよ!それに、一緒に来た人は広島市のマーク!・・・ほら!三本の波線が背中にある、市庁でよう見かけんじゃけど、あのユニホームをちゃんと着とったよ!」

「・・・」裕子はひとまず、わかったような顔で取り繕う。

「なんでも、原爆ドームの保存事業に多額のお金がかかるらしんじゃって?それに今年は、77周年の式典があるんじゃけど、あがいな式典にだってぶちかかるんじゃそうじゃ!お金が・・・慰霊塔の修理にも・・・かかるんじゃって・・・それから原爆の生き証人としての被爆樹木の保存なんかあるやら・・・」

「・・・」裕子は言葉を失っていた。

「それで、ご寄付を頂戴いただけんか?って・・・」裕子は恵子ははの顔を眺めながら、『やっぱり!そこへ!来たか!』と思ったが、しばらく母の話に付き合うことにした。

「それで!ママ!寄付したん?」「まだじゃ!あと二週間ちいとしたら、県庁まで行くことになっとって、そのときの模様を録画して、テレビ放映するんじゃって・・・広う一般の人に宣伝する目的があって・・・そうそう!ウーチューブにも出るんじゃ!私が!・・・でも顔出しはゴメンじゃ言いよるけど・・・出してもええかな?・・・」

『それって?ユーチューブのことじゃろう!』裕子は踊らされている母の話に、ますます憂鬱になってくる。「で!なんぼほど寄付するつもりなん?」との裕子の問いに、恵子は得意げに、人差し指を一本立てて、その指で器用に右耳のマスクのズレを整えた。

「百万も?」裕子の驚く顔に、「違うよ!一千万じゃ!」と母は涼しい顔をする。だから、テレビに出ることになったんだと得意顔の恵子。「ちいと!待ってよ!1千万円も寄付るんだって?ママ!どうかしちょるよ・・・」

「どうもしちょらん!お金なんて必要な人が、使うてくれんさってこそ価値があるんじゃけぇ・・・タンスで眠っとる間は、ただの紙切れじゃ!そこいら辺のスーパーのチラシと変わりがないんじゃけぇ!」

「お客さん!着いたよ!」

タクシードライバーの声に、二人はパーチワーク展示即売会場に着いたことに気づいた。


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