見出し画像

【連載小説】母娘愛 (9)

👈 【連載小説】母娘愛 を 初めから読む

「ケイコ・・・」
「マ~コト・・・」
 小窓から差し込む月明かりのなか、ベッドの二人は互いの名前を連呼しながら、恍惚の坩堝で燃え、余韻に戯れている。

 真夜1時過ぎのことである。

「もういっぺん・・・お願い・・・」といった恵子に、収まりかけた情欲を再熱させる福田。漲るオトコを恵子に沈め、そして果てる。それも、今宵、三度目のことである。とても、六十路女と五十路男の人間の営みとは思えない。それは、ケモノの雄と雌の行為としか、表現できない交わりで、ベッドは乱れっぱなしだ。

 福田誠が佐伯恵子の家に、こうして入り浸るようになって。三ヶ月。房事はほぼ毎夜のことである。

 佐伯恵子は、広島市の瀟洒な住宅が建ち並ぶ、広島市安佐南区に居を構える寡婦である。裕子の父とは、生き別れだ。裕子が中学生に上がるころから、恵子の男性関係で揉め事が絶えなかった。裕子が高校生になった春。正式に離婚。親権は恵子のものとなったのだが。裕子への影響は恵子の想像をはるかに超えるものだった。裕子の人生観は、この時期にほぼ形作られたといえよう。

 そもそも、恵子の実家は三代続いた海産物問屋だった。恵子の父である三代目の佐伯和夫が、放蕩三昧の末、店を畳むことに。その商権は他人の手に渡ってしまった。でもその時はまだ、孫、子の代までの資産は残っていて、今の住居もそのひとつである。しかし、このまま恵子の浪費家たる生き方では、近い将来、食いつぶしてしまうことになるだろう。刹那的に生きる恵子の血には、父親の放蕩癖が脈々と引きつがれているのだ。

 佐伯恵子と福田誠の出逢いは、ふとしたことがきっかけだった。それは、半年前のある日のこと。恵子が長年、通っている趣味の陶芸教室へ、福田が参加することに。その日、たまたま遅れて参加してきた福田が、マスクをしていないことに、恵子が注意したことで、付き合いがはじまった。

 艶福家である福田の人となりを、初対面ながら恵子は、敏感にも嗅ぎ分けたし、誠は誠で恵子の歳には似つかわしくない、妖艶さに惹かれていったのだろう。二人の仲は急速に深まった。

 いまさら、この歳で結婚ってこともないだろうと言う福田に、執拗に結婚を迫る恵子。福田は、ある企ての時間稼ぎに、東京で独り暮しの、しっかり者だと、恵子自慢の裕子が「ウン」って言ったら考えてみようと消極的な提案をしたのだった。

「裕子さん!どんな風に言ってた?ぼくのこと?」福田は、湯船に首まで浸かって、恵子を見上げる。少々懐疑的ながら、ほぼ確信的な質問だ。
「いい人だとは認めるが、結婚となると考えモンだって・・・」バストにかかるシャンプーの泡を、丁寧に洗い流しながら、福田に意味深長に微笑みながら応える恵子。「やっぱり!そうなんだ・・・」福田は、湯船で勝ち誇ったように、仁王立ちになってみせた。
「ゆうちゃんのことなんか、関係ないジャン!」恵子は、あまりにも裕子に拘る福田が理解できなくなってきた。「うちらは、秋には結婚したいんじゃって、ゆうちゃんに、はっきり言うてくれたん?」福田はそれには応えず、湯船から勢いよく飛び出し、恵子を背後がら羽交い締めにする。前のめりによろけ、浴槽の端に上半身を預ける恵子。福田は、彼女のヒップに力強いオトコを押し付けて、激しく誇示するのだった。


【連載小説】母娘愛 (10) へ 読み進める 👉



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?