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【連載小説】母娘愛 (15) と、(14)までのあらすじ

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(14)までのあらすじ👇

 佐伯裕子(46)は、品川駅前の超高層の高級分譲マンションで、優雅に独り住まいをしている。生まれ育った故郷・広島では、実母・佐伯恵子(66)も、やはり独り住まいである。裕子は高校卒業を機に、恵子との諍いに疲れ、大学進学を理由に東京へ逃れた。

 大学を卒業後、業界では中堅どころの、旅行会社の企画部を任されている裕子。コ▢ナ禍に見舞われ低迷する業界で、なんとか生き残りをかけて、孤軍奮闘していたある日のこと、恵子ははから、一本の電話を受ける。

「ええ人が見つかったんじゃけど・・・」との縁談話だった。その資産家だという福田誠(56)と、東京で会い、ひとめ惚れして、その日のうちにベッドイン。

 ところが、恵子の言った「ええ人・・・」とは、恵子自身の結婚相手だった。相克する母と娘。電話では埒が明かないと、急遽、広島へ急ぐ途中、新幹線で偶然見かけた妖婦連れの福田誠に逃げられる。

「騙されていたんだ!」と、薄々感じていた福田への疑念が、現実となって傷ついて、憔悴しきった裕子は、なんとか実家へ辿り着く。

👆(14)までのあらすじ

 恵子ははから、予想しなかった言葉が返ってきた。

「寂しかったんじゃ・・・」

 母のその言葉は、裕子の心に痛いほど響いた。それは、母娘おやこという関係を超えた、女同士の共感だった。むしろ裕子こそ、いの一番に恵子ははに吐露したかった言葉だったのだ。

 そもそも、裕子が広島を棄てたのは、殺伐とした母娘関係との惜別だった。裕子はいつも、ひとりぼっちだった。実父の放蕩癖の血筋を受け継いだ母との関わりは、いつもお金で決着をつけられてきた。

「寂しかったんは、・・・」私の方だったと言いたかった裕子は、震える唇を咬みしめ、涙を堪えるのだった。

「お帰りなさい!って言ってくれる人のいないうちに帰る寂しさなんて、ママにはわからんじゃろ・・・」裕子は古いアルバムを、捲るめくるように、その時々の哀しいシーンを、ひとつひとつ言葉に変えていく。

「・・・」無言で背を向けたまま、裕子の言葉を拾いながら、噛みしめている恵子。

 母が寂しかったというのは、ただ、女のさがから来る、肉欲への渇望だけで、自分の数多あまたの寂しさとはまるで違うと、叫びたい裕子だった。多感な青春時代に、男に狂う母親を非難すれば、「学がないんじゃけ」の一言で一蹴された寂しさは、母には到底理解できなかったんだろう。

 金さえあれば、なんだってできると思うのは、母のいう「学がないんじゃ」とは、まるで次元がちがう。そういう意味では、恵子ははは、一番の被害者なのかも知れない。

 左前になりかけた、老舗の海産物問屋を立て直そうと奔走する、婿養子の夫は、恵子に構う余裕もなかったのだ。日ごと蚊帳の外に押しやられる恵子は、自分の存在意義を見失い、男狂いに身を崩して行ったのだ。

「それで、一体?福田には・・・いくら?持って行かれたん?」

 恵子は無言のまま、裕子の鼻先に、人差し指を一本立て、小さく拳を握ってから、五本の指を全開にし、パア~の格好にして見せた。

「150万なの?・・・」
「・・・」母は返事をしない。
「・・・まさか?千!五百!」裕子は言い終わって、母の顔を観れば、「寂しかったんじゃ・・・」と言いたそうだった。

「福田誠が憎い!ママ!取り戻そう・・・」

「ええんよ!そのぐらいのお金なんて・・・」母はそれなりの時を、愉しめたのだからと、福田探しには消極的だった。「でも・・・」裕子には、福田を許すことが、とてもできそうもない。


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